第2章 第16話

佐藤先輩の運転する車はファミレスに着いた。

五人でファミレスに入ると、軽部先輩が私達に気付いて手を振った。

私は苑香の姿を見つけると、足が動かなくなった。

一人で自動ドアの前で立ち尽くしていると、


「御客様、どうかなさいました?」


店員が心配そうに声をかけてくれた。


「あっ、ちょっとトイレどこかな?って。」


「御手洗いはあちらです。」


「あっ、はい。

すみません……。」


私はトイレに逃げ込んだ。

心の準備……なんてトイレじゃ出来ないと思うけど。


「はぁ……。」


個室に入ってため息を吐く。

あまり長居すると店員が心配しそうだから、三分位座って、ボーッとしてみた。


「ふぅ……。」


またため息を吐いて、個室を出ると、苑香が目の前に立っていた。

泣いている……。

こんな時はとりあえず手を洗おうと思って、バシャバシャ洗った。

すると、苑香が私の腕を掴んだ。

私は声が出なかった。


「だって……、本当は好きなのに。

でも別れちゃって。

平気って言いながら、スカートの汚れ気にしてみたり……。

全然平気じゃ無いじゃん。

本当の事を佐藤先輩に言って欲しかった。」


「……。」


「佐藤先輩、雪夏を忘れる為に、女をとっかえひっかえ……みたくなって。

軽部先輩も気にしてて。

何か、二人がこんななの違うよ。」


「……。」


「でも、軽部先輩に言われた。

俺だって心配だよって。

でも、別れたいと決めたのも、承諾したのも、二人の問題。

はたから言いたいのも分かるけど、しつこく言ったりしたら、本音なんて言ってもらえないよって。」


「……。」


「ごめん……。」


「……。」


苑香が泣きながら、一生懸命言ってくれている。

私はもらい泣きしそうなのを堪えた。

こんな時は私らしく……。


「限定のポテトはチーズカレーポテトだって。」


そう言った。

何で今、そんな話って思われるのは分かってる。


「食べたい……。」


「うん、食べよう!」


「でも苑香、大好きな人の前で、そんなグチャグチャな顔でいいの?」


「え?

あ、やだ、どうしよう?」


「でも、もう見られてるか?」


「そうだ……もう無理。」


「無理じゃ無いでしょ。

タオルで冷やしたら?」


「あぁ……もう辛い……。」


「ごめん、でも私も辛いわ。」


気付いたら私と苑香は手を繋いでいた。

二人で皆のいる席に向かって行く。

すると、皆が私達を見て、ホッとしたような表情になる。


「すみませんでした!

御迷惑お掛けしました!」


苑香が皆に頭を下げる。


「すみませんでした……。」


私も一緒に頭を下げた。


「気にするなって。」


軽部先輩がそう言うと、皆が頷く。


「ほらー、どうせチーズカレーポテト食べるんだろう?」


佐藤先輩が注文してくれていたチーズカレーポテトを見て、また泣くのを堪えた。





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