第2章 第12話

結局、苑香と話せないまま。

進路希望調査の提出日が来た。


「随分簡単ね。」


秋奈が言う。


『就職』


そうとしか書いてない私。

秋奈は第3希望までズラッと書いている。


「凄いね……。」


「全部受かってから、凄いって言ってね。

書くだけなら、誰でも出来るよ。」


「あぁ……それもそうか。」


誰でも知っているような大学名しか書いていないし、うちの学校から受ける人なんていない大学。

かなり高レベル。


「塾の模試では合格圏内だけど、本番はね……。」


「うーん、でも体調に気を付けたらいいんじゃない?」


「そうね、それが大切!」


高校受験の日に高熱出して、志望校に入れなかった同級生がいたから、健康管理は大切だと思う。


「え?

雪夏、就職なの?」


胡桃が驚いている。


「うん。

大学行く必要無くなったし。」


「そうか……勿体無いね。」


「ううん、そんな事は無いよ。

やりたい事が見つかったんだ。」


「そうなんだ。」


「うん。

私は秋奈の作った薬を売りたい。」


「え?」


「友達の作った薬を自信持って売れたら嬉しい。」


「そうなんだ。」


私はドラッグストアに就職したい。

昔から好きだったから……ドラッグストアって。

でも薬剤師になる程、賢くも無いし……。


「夢、叶うといいね!」


「ありがとう。」


胡桃が笑顔で私を見ている。


「胡桃は?」


「あっ、私は家業を継ごうと思っていて。」


「家業?」


「あっ、知らないんだっけ?

うちはカフェを経営してるの。

だから、専門学校でパティシエとか調理師とかの資格を取りたいな。

美味しい物を出したいから。」


「へぇー、ちゃんと考えてるんだね。」


「皆、考えてるよ。」


皆、ちゃんと考えていた。

私も頑張ろうと思う。

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