第2話 アディスと少女

「僕はアディス」

「泣かないで。何があったの?」


アディスは、少女に優しく声をかけた。


「うっ、うぅ…」


少女は泣き止まない。

このままだと、森に潜んでいるゴブリンの餌食にされてしまう。


「このまま泣いていたらゴブリンたちに見つかってしまう。

お母さんもつれて一緒に行こう」


少女は下を向きながら軽くうなずいた。

アディスは、母親の所に近づき羽織っていた服をかけた。


「可哀想に…」


母親の身体を持ち上げようとした瞬間、アディスは驚愕した。


母親は既に息絶えていたのだ…。


「くっそ…」


その時、遠くの方からゴブリンの声が聞こえてきた。


アディスは、集中した様子でゴブリンが来る方向を見つめた。

「4,5,6…7体か」


「君はここで、身を潜めておくんだよ」


そう言ったアディスは、ゴブリンのもとへ向かった。

アディスはこの5年間の鍛錬で、最強の力を得ていたのだ。


地上最強と言われている、伝説のドラゴンスレイヤー「イライザ」よりも強くなっている事は、この時点ではアディスはもちろん、全人類が知る由もなかった。


ゴブリン7体に囲まれたアディスは、わざと囲ませるように仕向け呪文を唱えた。

「イブフィール」


空から光の雷が降り注ぎ、ゴブリンたちを一掃した。

あっという間の出来事だった。アディスは、光・闇・炎・氷・雷・風・空間魔法どれも最高レベルまで極めており、剣技・武術も達人クラス。


ただ、本人は気づいていない…


「さぁ、彼女のもとへ戻ろう」


アディスは、一瞬でその場から消えた。

少女は、お母さんに寄り添いアディスの帰りを待っていた。


「ただいま!」


アディスは少女の目の前に現れた。

少女は驚いた表情でアディスを見つめていた。


アディスは、母親を見つめて厳しい表情になり少女に伝えた。


「君のお母さんは…もう、目を覚ます事はないんだ」

「お母さんとお別れをしなきゃ」


お母さんのそばでうずくまっていた少女の肩に手を置き、別れの時を待った。


「お、お母さん、お別れしなきゃいけないの?」

「別れたくなんてないよ!いつまでも一緒にいたいよ!」


少女は、お母さんのお腹のうえで泣き崩れた。

母親の身体は冷たく、少女が手を握っても温かくはならなかった。


「さぁ、お母さんを弔おう」

アディスは少女の顔をみつめ少女も軽くうなずいた。


森を進むと高台があり、そこから見る夕日はとてもきれいだった。

そこに少女の母親の墓地を作り弔った。


「そうだ。君の名前聞いてなかったよね。」

「教えてくれないか?」


「テジュ」


「それじゃ、テジュ。君はこれからどうするんだい?」

「…」


テジュは何も答えなかった。


「君のお父さんや、他に家族はいるのかい?」

「…」


アディスは薄々気づいていた。

テジュには、母親しか家族はいなかったんだ。


少しアディスは考え、テジュに提案した。

「テジュが良ければ、一緒に暮らさないか?」


テジュは、アディスを見つめ大きくうなずいた。


ぼくはもう、家族のもとへは帰らない。

母親に手紙を送って、テジュと住む場所を探すんだ。







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