ハッキリさせるべき物なのか、と私は思った。
注記
人によってはデリカシーに欠けると感じる恐れのある内容です。
冒頭で察して気に入らぬと思った場合、二話先まで飛んだ方が幸せになる可能性があります。
「明……。遂にこの時が来てしまったか」
「うん……」
「安心しろ。俺がついている」
「うん……」
「俺たちなら乗り越えられる。大丈夫、備えはあるし、経験だってある。いつだって俺が支えてやれる」
「あー……」
「行こう、学校へ」
「別にそこまでしなくても」
今日は別にそんな重くないし。
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今日は何の日でしょうか。
誰かの誕生日? あるいは記念日? もしかしたら誰かの特別な日かも
答え。
今日は月経前日です。
私の。
誕生日だか記念日だか、よしんば何かあったとしても、そのいずれも関係のない話だし何なら興味だって微塵も無い。
「何か手伝えれば良いんだが……」
「私の症状と言ったら、気怠さと腹痛くらいだよ。初日のところは、だけど」
一方で、我が片割れである明一は滅茶苦茶気にしている。他人事という様な関係ではないし、当然なのかもしれないけれど、我が身の様に心配をかける様子は、逆に違和感である。
今まで何度か生理はあったのだが、その日は運良く週末に纏まっていたから、特に何もなかった。
「それは知ってるが、平日だぞ。それに耐えながら授業を受けるって……大変じゃないか?」
明一にとっては初めての平日の生理だ。そう考えると、たしかにその心配も最もだ。
私は……、ううん。慣れたから別に大丈夫としか。
確かに一番最初の時は驚いたし、その日を迎える前までの平穏な日々を羨んでたりはしないでもない。
子孫の為の生理現象とは言うけど、それを役立てる日が来るなんて想像も付かないし。
「慣れたもんだよ。流石に体育とかは見学だけどね」
「そうか……」
それにしても、心配して慌てる明一って面白いな。レアっていうか。
朝だっちを見られて慌てる明一も面白かったし……。
──「あ、これは、だな。あー……、前に言ったよな? これは生理現象というやつで、性欲の有無に関係なく……所謂、あー……朝だっち」
──「成る程、朝勃ちじゃなくて朝だっち」
──「ん゛ん゛っ……!」
おもしろ。
同一人物だとはいえ、性別が違うのであればこの辺りもいつも通りとは行かない。
現にこうして見ると、ある意味での性別的な弱みをお互い握っているわけで……。明一側のはちょっと違う気がするけど。
「ま、大丈夫だよ。むしろ戦力過多。一人の頃でも無事に過ごせたんだから」
「そうは言うが」
「必要な時は言うよ。けど、女の子は強いからね」
特に二次元。
二次元の世界で生きる女の子は大体強い。細い腕で岩をかち割るなんて造作もない。
「そうか?」
「そう、傍若無人の女の子であれば更に最強」
「ふむ」
まあ私の言う事なら、と納得してくれて、予定日の明日を迎える。
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・
生理、月経を迎えた女の子は、イライラしててちょっと怖い。そんな印象がある……と、明一に聞いた。
私の穏やかな気性が、これを機に豹変する……という事はなく、極めて温厚そのものである。むしろ普段より静まっていると言っていい。
「ふぃー」
「どうだ?」
二つ授業を終えて、また10分間の休憩。
心配気な明一の視線を5分毎に受けながらの授業だったから、私も釣られて集中しづらかった。元々真剣に授業を受けるっていう感じじゃ無いけど。
「特には。先生の話、ちゃんと耳に入ってる?」
「一応」
「良かった。で? ノートはどんな感じかな」
「いや、そこまで心配する程じゃ」
遠慮なく覗き込む。隠される事はなく、観念した様に明一が身体をずらす。
やっぱり、集中できていない。思いついた様に所々文字が並んでいるだけで、私が見ても役に立たないノートだと分かる。
「……結構聞き逃してるじゃん。ほら、これ見て」
「助かる。……そっちも所々抜けてないか?」
「仕方ないじゃん」
普段どおりに集中出来ないんだし、これくらいは仕方ないでしょ。
というか、そもそもお互い補い合う為に二人共サボらない様にしてるんだから。
「明一は好調なんだから、そっちこそ集中しなよ。私は大丈夫だから」
「まあ……。そうだな、その通りにしよう」
「頼んだよ」
って、頼んだはずなんだけれどなあ。
「何か飲むか?」
「炭酸以外で。……ホントに集中してた?」
「務めて」
手を尽くしましたが……、という奴だ。
まあ飲み物は有難いし、そのまま送り出してやった。その間にノートを見比べておこうか……。
……と、教室の中でそんなやり取りをすれば一部の女子に察されるのも、流石の私にだって分かる事で。
「メイちゃんって結構軽い方なんだ。良いなー」
塩原さんに絡まれた。無数の人々に絡まれるよりかは一人の方がよっぽど楽だけど。でも放っておいて欲しかった。時期に関わらず。
「まだ初日だし」
「なるほどなるほど。でも私は羨ましいよ。そういう日に面倒見てくれるカレシとか……いや、カレシに見てもらうのもなんか違うかも」
カレシって……。別に男に限った話じゃないと思うけれど。
ママに手伝ってもらった時もあるし。ちょっとしたら慣れて自分で対処できるようになったし。
「……」
人前でゲームアプリを起動するのは流石に失礼な気がして、なんとなくニュースサイトを眺める。
見覚えのある新型のVR機器が、記事に載っていた。
「ふーん」
「うん?」
「んにゃ。双子の間に恋愛感情は生まれるのかなあとか思ってたり」
「……」
「冗談冗談! そんな呆れた様な顔しないでよー。まるで私が冷たいダジャレ言ったみたいじゃん」
恋愛感情ねえ。
主観としてだけど、恋愛感情は無いと思う。こういうのって、どっちかと言うと性欲の類の様な……。
達観している訳じゃないけど、恋愛と性欲の区別なんて付けられるほど、私達は長く生きてない。家族愛と異性としての恋の区別なんて言わずもがな、だ。
「……はぁああ」
「え、ため息? ヒドイなあ」
「いや欠伸」
「いや無理あるって」
最近、適当な受け答えをしても面白い冗談だと受け取られるのが分かって、以前よりも会話に割かれる思考リソースが減った。
……恋愛感情の話の所為で、ママに言われて化粧を敢行したあの日を思い出してしまった。そういうため息だ。
ゲームセンターで遊ぶだけだと言っていたのだけど、ママはデートだデートだと言って、私の話を聞かずに化粧を教えられた。
何時も見慣れた私の顔が、あんな風になるなんて。私が驚いたのだから、明一も勿論驚いた。
それで……可愛いって言われた。
「……」
思えば、明一に可愛いと言われた事は……いや、あれが初めてではなかった。ママのマウスが壊れたから、遠くの方までおつかいに行った日だ。
確か電車の中で、試しに互いを褒め合って……。やっぱり、状況が違うのかな。
「お? その嬉しそうなお顔は。と思ったら微妙な顔に」
「今晩はハヤシライスらしい」
「ハヤシライスってそんな情緒不安定になる料理だっけ?」
当然の様に嘘が出てくる口に会話を任せて、本心はコイツどっか行かないかなとか思い始めた。
・
・
・
早速試してみることにした。何時までもモヤっとしているのは、生理の日よりも気持ち悪い。
「いきなりだな」
「ん。まあ試しに、だよ」
昼休みだと人目が面倒だから、下校途中の人が居なくなったタイミングで私の考えを話した。
可愛い、という言葉を伝えるタイミングで、私の気持ちがどう反応するのか。
「俺は別に良いんだが、それが分かった所でどうするんだ?」
「……確かに」
「まあ良いんだが。今日も可愛いな」
「うん」
「……」
……驚いた。何とも思わない。
「どうだった?」
「何とも」
二度目の時の様にさりげない言葉だった。不意打ちだったと言う共通点は、関係無いらしい。
それじゃあ何だろう。環境? まさかムードじゃないだろうな。
「やっぱり」
「少なくとも、キュってなったあの時とは全然。……なんでだろ」
「そうか。……ん、キュっ? 何処が?」
え?
「……あ」
「確かに、ゲームセンターの時は確かにへぺっ」
「……」
「
何も言うな。
……はぁ、なんか、我に返った。あの日も同じ流れになった気もするけど。
やっぱり一時の気の迷い、と言うべきなんだろうか。
何時だったか、もしも血迷って明一と性行為をしたならば。という話をした。
その時私は、自慰にも等しいとか言っていた。何故なら、明一が生きて来た人生は、私の物と殆ど一緒だから。まるで分裂でもしたかの様に、何から何まで同じ。性別だけが違う同一人物だったから。
あの時は、冗談のつもりではなかった。
じゃあ、今はどうだろう。
「……」
「いはい」
どうしてか。それを自慰だなんて呼べなくなってきた。
つまり、それは私が明一の事を同一人物だと見られないという事?
……ううん、頭痛くなってきた。
「あはり? ……あう。ようやく放してくれた」
「私ってなんだろうね」
「いきなり何だ。女の子の日は情緒不安定になるのか?」
「女子に向かってそんなこと言わない」
「むう」
……確かに、こういう日に考える事では無かった。
多分、生理の所為で考えが変な方向に向いてしまうんだ。しばらくは余計な事を考えないで過ごそう。
「ゲームなんだけど、集中保てないから、のんびり系で良い?」
「勿論。建築でもするか」
久しぶりにブロッククラフトだ。のんびりやるゲームだけれど、ふとした時に変な事を考えてしまう、という事はきっと無いだろう。
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