連携にも限度があるのだ、と私は思った。


「お、近道ルートだ」


 通りすがる誰かの声が零れて、後ろ耳に聞こえる。


 私達の銃声は次々とドローンを落としていくが、最初から出現し続けていた普通の警備ドローンとは違う種類の物も現れている。

 暴徒鎮圧ドローン。耐久値は多く、弱点も無い。装甲が薄い部分を探すか、大量の弾丸、或いは高火力の攻撃ぶつけなければ撃破は難しい。


 しかし小型ドローンが出続ける中、一体の大物を相手にするのはキツイ。かと言ってあれを無視するのも痛手になる。


「サブマシンガン」


 けど、それも二人分のハンドガンだけでは、という話だ。

 トリガーを引きっぱなしにしても撃ち続けられるサブマシンガンであれば、直ぐに落とせる! 


「あいさ」


 トリガーハッピー! 

 そんな風に、声高らかに宣言してしまいそうなぐらい、この武器は便利だ。どれほど指を俊敏に動かせる人でも、トリガーの引きっぱなしで連射出来るのは有利だ。


 けれど、私がこの武器で対応できる場面は限りがある。弾数の限りもあるし、精度が悪いのもある。こういった大くて硬い敵にしか使わないようにしている。


 画面中央を陣取る大型の暴徒鎮圧ドローンの周辺には、普通の小型ドローンが飛んでいる。

 私が大きい方を相手取っている間、小型は明一がハンドガンで対応する段取りになっている。打ち合わせた訳じゃないけど、単純に画面左右で分担するよりやりやすいから、やっている内にこうなった。


「よし」


 暴徒鎮圧ドローンは撃破。画面全体のちまっこいのを落としてた明一は、以前まで通りに右側に専念し始めた。

 私もハンドガンに切り替える。


『ガンバッテ! あと少しで無法地帯!』

『ダイジョウブ! 警察や鎮圧部隊より、ギャングの方が安全!』


「……」


 全く面白いドローン達だなぁ! 

 見た目も殆ど同じだし、まるで双子……双子? 


 ……ふむん。同型のドローンだから同じ様に見えるのも当然かな。


「あ」


 何発か外して、私に狙いを定めていたドローンが発砲する。

 ダメージ一つ。これだけでゲームオーバーとはならないが、被弾の演出が大袈裟だから、なんか嫌だ。


 エフェクトで画面が見づらい。床も揺れている。筺体による演出だろうけど、驚いて転びそうになった。


「おい」


「わ、と。驚いた」


 転びそうになった所で、明一に支えられた。

 肩を抱きかかえられて驚きもしたけど、視界に入ったモニターの様子に、ほぼ反射で銃を抱え直した。

 画面右側のドローンに狙いを定めて、撃ち落とす。あっちが私を助けている間に、右側で攻撃を受けそうになっていた。


 ……にしても、片腕だけ使うのは狙いづらいなあ! 


「……」


 無理して明一を振り払う程じゃないけど……。


「放して良いか?」


「あ」


 私の返事を待たずに放された。


 ……ん  まあ? 演出の揺れは収まったし、私達が抱き合ってる間にも撃ってたから、まだ余裕はあったけど? 

 後は……って、あれは新型! 


『タイヘン! タイヘン! 軍事用ドローン!』

『無法地帯に配備されてる! ワスレテタ、ワスレテタ!』


「ポンコツドローン!」「ポンコツ!」


 弱点のプロペラも装甲で保護されてる。弱点は……わからん! 

 撃ちながら探すしかないかな……。


「そっちの武器ってマグナムだったよね?」


「けどあの数じゃ直ぐに弾切れになるぞ」


 でも私のサブマシンガンじゃ、マトモに当たらないだろうし……。ハンドガンじゃ純粋に威力不足。

 やっぱり弱点を……いや、そうだ。サブマシンガンで偶然弱点に当たるのを期待……いややっぱり当たらないって! 


「ムリムリマグナムお願い!」


「分かった」


 連射出来ないが、弾数も少ない。

 しかし大火力。ただ純粋に大火力。ついでに当たった個所が弱点になって、後々の攻撃が通りやすくなる。


 あの軍事ドローンであろうと、一撃で……。


「落とせない! 勿体ないから後はハンドガンで撃ってくれ」


 一撃で落とせない! いやでも、落とせなくても新しく作った弱点でダメージを与えられる。何とかやれる筈……! 


『ニンゲン! ニンゲン!』

『ダメージ、甚大! ダメージ、致命的!』


 でもやっぱりダメージは避けられない! 

 HPも減って、そろそろキツい。


 それと……。


「お腹空いたー!」


「え?!」


『ニンゲン! 動かない! ……動かない!』

『生体モニターを起動! 心肺停止を、確認……』


「あっ」「あー」


 ……これコンテニューの機会も無いんだ。



 ・

 ・

 ・



「何時からアンタは腹ペコキャラになったんだ?」


「まあまあ」


 お昼、って程の時間帯じゃなかったけれど、私は朝からバタバタしていたからか、大分エネルギーを使ってしまったんだと思う。

 早めの食事を一緒に取る事になった。ゲームセンターからそう遠くない所にあったファミレスである。


「まあ、変にお高い雰囲気じゃなくて助かるが」


「お高い雰囲気?」


「化粧のお陰で妙にお上品に見えるんだよ。……黙ってればだが」


「ふうん」


 肉が旨い。母のハンバーグ(レトルト)も美味しいが、こっちも中々良い物だ。

 あと一緒に乗ってるコーンが甘いのも嬉しい。シャキシャキ甘々。明一も気に入るだろう。


「甘いよコレ」


「そうか?」


「ほら」


 スプーンに乗せて、明一の口に向けて差し出す。あーん、と口に出すまでも無く咥えられた。


「……ん」


「どう?」


「甘いな」


「でしょう」


 でも、こういう贅沢に慣れてしまったら、母の食事に飽きてしまうかもしれないな。

 ……いっその事、私が料理を覚えてしまえば良いんじゃないだろうか。


「……甘いな」


「うん?」


 甘いという言葉を二つ繰り返した明一に、どうしたんだと目線を返す。


「いや、香水が本当に甘い香りで……。さっきも思ってたんだが、なんだその匂いは」


 うん? あー、香水の事かな。

 すんすん、と腕を鼻先まで持ってきて嗅いでみる。花の香りがするけれど、このハンバーグと併せると妙な感じだ。


「花の名前は忘れたけど、その香りだって」


「そうか」


 勿論、これを付けてくれたのは我らがママである。

 私は慣れない香りを体に吹き付けるのに抵抗があったのだが、まあ、色々言いくるめられて、付けることになった。


「でも、折角のご飯が台無しだね。味の邪魔っていうか」


 贅沢な食事を取るのであれば、この香水は付けない方が良い。お風呂に入ったら匂いは取れるだろうけど、まさか今から水浴びに出向くわけにもいくまい。


「まあ、お風呂までこの匂いは我慢という事で」


「別に大丈夫だが」


「そ?」


「まあ、あんまりキツい匂いだったら何か言うかもしれないが」


 そこまでキツい香水を付けるとしたら、多分その時には私の鼻が曲がっていると思う。

 匂いの好みは大体一緒だろうし、その辺りは問題無いと思う。そもそも面倒だから、自発的には……。


「まあ、俺は好きだぞ」


 ……むん。まあ、機会があれば、付けるかもしれない。


「へへ……じゃなくて、コホン。今度は美味しく食べられるように、香水は無しね」


「まあ勿体無いしな」


「うん」


 次も、またその次も。機会は幾らでもあるもの。

 或いは、機会を待つ事をせず、むしろ自ら作るのも良いかもしれない。





「そういえば」


「ん?」


「VRの方、選べるんだよね。何する?」


 さっきゲームセンターから離れる時、そのポスターが目に付いた。


 ジャンルで分けると、FPS、レースとあった。

 どっちも興味を惹くから、繰り返し体験して網羅したい所であるけれど。


「……あるいは、二人で二つのジャンルを遊ぶか」


「なるほど」


 二人で一緒のジャンルを遊んだところで、協力プレイや対戦プレイなどは叶わない。シングルプレイ専用である。

 だから一つのジャンルにと拘る必要は無い。


「それじゃ、問題はどっちがどっちを選ぶか」


「ジャンケンポン」「ポン」


 グーとチョキ。私の負けだ。


「はい俺の勝ち」


 という事になった。勝った方が好みのジャンルという事で良いから……。


「じゃあ私はレースジャンルだね」


「そうだな。FPSは任せろ。敵をバッタバッタと撃ち倒してしまおう」


「ライバルの車もバッタバッタと」


「いやダメだろ」


「むん」

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