何が変わっても根は同じはず、と俺は思った。
楽しい楽しいゲームセンターの日。その当日。
俺は一人でそこにいた。
……ぼっち、である。現在形だ。
「はぁ」
この日を待ち望んでいた筈の明が、ここに居ない。つまり、俺一人である。
本来は俺と共に来るはずだったのだが、直前になって別行動を告げられた。理由は無い。しかし俺が思うに、我が片割れの明は何かを企んでいる。
「……」
先に行って、と送られてしまったが、先にゲームセンターへ入る気にもならず、代わりにと待ち合わせ場所の位置を送り返した。
……しかし何故だ? 女子の用事と言えば女の子の日だが、明にはそうとは伝えられていないし、俺が知っている周期からは外れている。だからと言って、何かを企んでいるのだと断ずる事もできない。
一番大きな可能性を予想するなら……恐らく、母だ。
「あの予測不能な母親は……」
もう良い、考えていても仕方ない。立ち疲れたのだし、何か飲み物でも買っておこう。
そうだ、明の分も買っておいた方が良いだろうか。今から買ったら、幾ら冷えた空気でも少しぬるくなってしまいそうだ。……寧ろ温かい飲み物の方が良いか? いや、冷たい方が……。
……この辺り、自販機が無いな。陰にでも隠れているのか。
死角を塗りつぶす様に辺りを歩き回るが、見当たらない。駅前の広場だというのに、ここまで無いというのは寧ろ珍しい。そろそろ諦めても良いかと言う頃に、遠くにある自販機が見えた。けれど妙に遠い。
まだ連絡も無いし、買っている内に入れ違いになる事も無い筈だ。少しくらい離れていても大丈夫だろう。
……大丈夫じゃなかった。
両手にミルクメロンの紙パックを持って戻って来たが、俺達の待ち合わせの場所に誰かが居た。
何故か待ち合わせの場所と決めていた目印の木に寄りかかっているし、酷く見覚えのあるカバーを付けた携帯を持っているし、カバンも俺の知ってる物。
そして、妙に明と似ている、あの女子。彼女は一体誰なのだろう。
……いや、これだけ分かって、明だと分からないのは無理がある。しかし何でこんな恰好を? 母の影響か?
「……明?」
「ぽっ?!」
「ぽ?」
「あいや、あー……。待った?」
「……シチュエーション的には、待たせたのは俺の方だと思うのだが」
俺の事に気付いて、持っていた携帯で顔を隠される。今隠されても、様変わりした顔は見えてしまっていたが。
しかし、成程。これが化粧と言う物か。何度も寝起きに見た顔だ。これぐらい変われば、化粧に気付ける。
「しかし、化粧をしていたのか」
「う、うん。ママに教えられて、どうせだからサプライズ、って」
「成程。……綺麗になったものだな」
「き」
元々が醜悪だと言う訳ではないし、むしろ整った方ではないかと自己評価している我らの顔だが、それにひと手間加えてやるとここまで変わると言うのは、俺としてもかなり驚きだった。
以前にお出かけしたとき、互いに“似合っている”と言い合ったが、今回は演技抜きで言える。今の明は見違って綺麗だ。可愛いと言っても良い。
「き……キレイ。ふうん」
「ああ、可愛いとも言える」
「ふ、ふふ、キレイ、カワイイ……。ねえねえ、私キレイ?」
「まあ、そうだな。綺麗だ」
堪えている様な堪えていない様な、変な笑いだ。確かに綺麗だと言われ慣れていないだろうし、緊張もするだろう。
無理やり母に化粧を教えられたのであれば、不安もあるかもしれない
「……しかし、顔が赤いのも化粧か? ぷっ」
な、なぜ俺の目を塞ぐ……。
「そんな厚化粧なワケ無いでしょ。ママ曰くナチュラルメイクだってさ」
「はあ。しかし何故俺の目を」
「……我に返った?」
なるほど。明は我に返ると俺の目を塞ぎたくなるらしい。
「……いや支離滅裂。なんなんだよ」
「黙秘権。ほら行こ」
俺の目を塞いでいた手で、そのまま俺の手を繋いだ。
……彼女の手からも、嗅ぎ慣れない匂いがする。香水も付けているのか?
「まあ、別に良いが……。ああそうだ、これ」
「ん、買ってくれたの? ありがと」
両手で大事に持っていたジュースを渡す。
別に意識していなかった筈なのだが、ストローを咥える唇に潤いのあるツヤが見えて、俺の目を惹いた。
女子力の力とは、俺が思っている以上に強いらしい。
・
・
・
俺の双子が知らない内に化粧を覚えて、いつも以上に魅力的になった明だが、その見た目以外に変化は無く、少し付き合えば気にならなくなった。
「ほー、大きい」
「色んな物がある。二階にも」
ゲームの筺体がずらりと並んでいる。入口近くに掛けられていた配置図を見ると、二階も同じぐらいの密度で置かれているのが分かる。
以前の時とは大違いだ。期待もうなぎ上りと言う奴か。
少し探せば、一際目立つ筺体も見つかった。あれは多分、所謂レール式ガンシューティングという奴だ。
大きなモニターに、備え付けられているモデルガン。実物は今初めて見たが、知識だけは持っていた。
「おー。おー」
「やるか? やるか?」
「やらないべからず」
つまりやる他にないという事だ。
小銭を財布から出して、早速と投入した。
簡単なチュートリアルから、流れる様に本編へ入る。と、その前に選択肢が現れた。……ハードモードにすると、モニターに照準が映らず、手元の銃に付いている照準器を通して狙わないと行けないらしい。
しかもアイアンサイト。
とりあえずノーマルモードを選択して……画面に『銃を手に取れ!』という表示が出て、いよいよと俺達は銃を引き抜いた。
偽物とは言え、こういった物はエアガンやモデルガンですら手にしたことが無いから、この重みが新鮮だ。アイアンサイトも作り込まれてる。
……あ、もしかしてコレはセレクターだろうか。部品の名前と機能は知っていたが……おー。
「すごいな、スライドも……おお、中身まである」
「リロードとかどうするんだろう。流石にそれは自動かな?」
『ファースト・ミッション』
『ドローン工場から脱出せよ!』
と、手元の銃で遊んでいたら始まった。遊んでいるヒマは無かった。残念。
『製造番号042A2BF、製造番号042A2BD。両ドローンの逸脱行為を確認。セキュリティドローンに確保を命令します』
『ニンゲン! ニンゲン! 本機の保護を希望スル!』
『タスケテ! タスケテ! セキュリティドローンの攻撃を予測!』
するとモニターの両端から二つのドローンが現れた。青い光を放っており、小動物的な可愛らしさを感じないこともないデザインだった。
助けを求めているらしい。否定する選択肢もなく、すぐに敵らしきドローンが物陰から現れた。
「あれを撃てば良いのかな」
とりあえず一発。すると画面端のスコアが加算された。成程。
「よっし、開戦だ!」
照準を合わせて引き金を引く。手に伝わる反動と共に、ドローンの姿から火花が散った。
何発か撃って打ち落とせば良いのか。そう思って連射するが、固い。
「撃破っ」
と思っていたのだが、隣でドローンが落ちて行った。明からは銃声が2つ分しか聞こえていなかったのだが……。
「2発しか撃ってなかったよな」
「急所じゃない?」
「成程」
「多分プロペラの辺り」
「よし」
その通りの部位を狙い始めると……成程、納得の効率だ。俺の弾丸は一撃必殺を成した。
このゲーム、多分だが数を撃つより精度の方が重要なゲームだ。
「お、一発でも落ちるんだ」
「左右で分担、で良いか?」
「結構」
モニターに映るレティクルで狙えるノーマルモードだから、簡単に弱点を撃てているが……ハードモードでも撃ち甲斐がありそうだ。
「……楽勝だな」
「うむうむ」
とりあえず画面の半分で分担する、という行動方針で、小型ドローンを打ち落とす。
まずステージ1。というだけあって簡単だ。
「お、分かった。プロペラの軸で一発だ」
「ナイスナイス、って難しいってそれ!」
「二発決め打ちした方が楽だな」
パスンパスンと打ち抜いて、ガシャンドカンと爆発するドローンがとっても爽快感だ。
運が良ければ一発一機。でなくとも二発で落ちる。
……しかし。
「とはいえ簡単なもんだ。ほら、まだ一発も貰ってないぞ」
「確かに!」
唯一の気掛かりと言えば、隣の明から漂う、ほんのり甘い香りである。
これが俺の気を散らせる。
でも、楽しいというのは変わらない。
撃って撃って、画面を彩る火花で満たしてやる。正確に打ち抜くコツが掴めれば、確実に一発で撃ち落とせるかもしれないが……。
『スゴイ! スゴイ! 一撃必殺!』
『ムテキ! ムテキ! 脱出ルートを変更!』
『ニンゲン達ツヨイ! 危険な近道でもアンシンアンゼン!』
何を言ってるんだこのドローン達は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます