温もり恋しと寄せ合う日々
意外とこういう感情はしぶといのだと、私は思った。
今更な話なのだけど、私達は、友達という単語と縁が無い。
そんな一方、フレンドという単語という事であれば、「それなりに」と答えられる。
最近じゃ私の友達を名乗る人がクラスメイトに現れたけど、そう経たない内に飽きて離れると思う。我ながら付き合いは悪いし、話していて楽しい、なんて事も稀な筈だ。
連絡が完全に途絶えているという訳では無いが、あの姉妹とのやり取りも減っている。と言っても向こう側も中々しぶとい。
「うげ、電池切れ」
「ん、クリアに間に合わなかったか」
「頑張って~」
電池切れによって、私のキャラクターが部隊から消え去る。
最近配信開始された、人気バトロワFPSのモバイル版。それを早速と試していた私達だが、やはり充電無しではあまり長続きしない。
手持ちのモバイルバッテリーを接続していた明一の携帯はまだ生きている。バッテリー容量にもまだ余裕がある様子だし、しばらくは大丈夫な筈。
『アルファちゃんどったの』
『バッテリー切れ』
『あっちゃー』
まだまだ元気に稼働している明一の携帯に、小さくテキストが脇に表示される。
三人部隊のチームメイト。ランダムなマッチングによって組まされる、所謂野良ではない。
私と明一の居る部隊に加わる三人目は、以前より様々なゲームでお世話になっている暇人ゲーマーSSSである。
この暇人ゲーマーという呼び方は、聞く人によっては悪口となりかねないが、彼自身は気にしていない。自称するどころか、ユーザーネームにしているからだ。
では私はどうだという話だが、まあ人の事言える立場じゃない。「輝くアルファ」と言うのが私のユーザーネームである。そして明一は「輝くマイク」。
揃いも揃って光っているが、これが私達のネーミングセンスだから仕方ない。
因みに一致については故意による物である。連帯感とかそういう意図が無いとは言わないが、どちらかと言うと、名前を決める手間が半分に減ったとか思っている。
さて、ゲームの方も終盤戦に入ったらしい。イヤホンで銃声とかは聞き取れないが、モニターから状況を見るに、人数不利を帳消しに出来そうなポジションに陣取れてる。
……と思ったら、敵キャラクターのスキルでごり押しされたっぽい。そのポジションを追いやられて、そのまま挟撃されて敗北。
一応ポイントは黒字だけど、ギリギリの所となると、むしろ悔しいものだ。
「じーじー」
「ふう」
ゲームも終わったのだし、今から帰る分のバッテリーだけあれば良いだろう。
何も言わずに横から充電ケーブルを掠め取って、そのまま自分の方に接続する。
「おい」
「良いじゃん」
「驚く」
確かに体が少し当たったけど、気にする部位じゃないだろうに。
最近は明一のラインが妙に厳しい。
明一の苦言をよそに、バッテリーと携帯を重ねてポケットに入れてしまう。その内勝手に再起動するだろう。
『お疲れ、電池切れだったら今日はお開きか』
『そうなる。お疲れ様』
『うぃ。また呼んでくれよなー』
適当な距離感だが、それで丁度良い。
部隊メンバーから一人が離脱して、それを見届けて明一もゲームを終了させた。
・
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休日の過ごし方と言えば、ゲームか、バイトか、たまに家事。それと勉強もあるが、それは最低限。
だと言い繕っても、やはりゲームが6、7割を占めているという事実もあり、なかなか涼しい顔も出来ない。
多分、ゲームに馴染みの無い様な人間であれば、この6割は友人との交流や勉強に変換される。
最近はSNSや漫画アプリも時間潰しの手段になっているらしい。名も知らぬ誰かがそう話しているのを聞いた。
趣味は何ですかという質問であれば、ゲームだと迷わず言えるこの双子であるが、そんな二人が外出する要件と言えば、やはりその選択肢も限られる。
外食、お使い、そしてゲームセンターだ。
「お二人さんは、確かゲームが好きなんだよな?」
「はい」
夕食の時間帯が過ぎ、客足が落ち着いてくるというタイミングで、マスターが雑談を持ちかけて来た。
雑談をするという事は、余裕があるのだろう。そろそろ私ら二人もバイトを切り上げる時間帯か。なんて事を思う。
「だよな。親御さんが言ってたぜ」
「はい」
「実はオレ、昼にこんな物を受け取ってな……」
そう言って自慢げに掲げたのは、二枚の紙切れ。
何処かのゲームセンターのクーポンらしい。目を細めて細かい文章まで読んでみると、これ一枚で、3回分だけゲームが遊べると書いてあった。
「クーポンですか」
「おう。クーポンだ」
「はぁ」
双子だからと、珍しがっているのかもしれない。
まあ、受け取れるものは受け取るけれども。
「私達が貰って良いんですか?」
「俺が使うにしても、カフェの定休日は予定埋まってんだよ。それ以前に、お二人さんに宜しくねって言って渡されたんだ。アイツの事覚えてるか? リエ姉さんっつー奴」
「あー」
私達がバイトを始めた頃に絡んできた、マスターの知り合いと思われる女の人だ。
あれからたまにカフェに来るから顔は覚えていたが、こっちの方からその人の事を呼んだ事が無かったから、名前だけ忘れていた。
「アイツがクーポンをくれたんだ。……気付いてんのか知らないが、結構気に入られてるぞ?」
「そうですか」
「無頓着だなぁ」
だって名前なんかもついさっき思い出したくらいだし。
まあクーポンは有難く貰うとして……。クーポンを貰うのであれば、多少はリエ姉さんとやらの事も知っておいた方が良い気がする。
軽い恩とは言え、そう言うのは割と大事だとよく言われている。
「リエさんって、どんな人なんですか? 物を貰うなら知っておきたいのですが」
「あー……。学校のセンパイ、って言えば良いのか? まあそういう関係だ。性格はクッソちゃらけてて……お二人さんが苦手そうなタイプ」
「なるほど」
「確かに陽キャを自称する人は苦手です」
とは言っても、そういった人が陰キャを見下すような言動が多いから、というだけなんだけど。
陽キャだからと言って嫌うのもなんだか違う。そもそもお互いに認識している陰キャ陽キャの意味さえ違う、という事もあるんだ。
「はは。まあ気に入らんだろうが、貰えるもんは貰っとけ。日付指定とかは無いし、待ち伏せ何てこともねえだろ」
確かに、時期が限定されていたら私らが来るタイミングも予測できるのか。
ストーカーが出来る程の人気者って訳じゃないから、覚えておく必要も無いけど。
……あ、いや。覚えた方が良いかも。
「あ、メモ?」
「双子の関係で、学校でも色々目立ってるので。そういう事は覚えておこうかと」
「まあ珍しいしな。じゃ、行くんだったら気を付けろよ。……よし、今日もこれくらいで良いか。お疲れさん、上がって良いぞ」
「はい。お疲れ様です」
・
・
・
ゲーム……クーポン……。
一枚の紙をぼんやり眺めて、次いで明一の方を見る。窓を眺めていた。
私の部屋の窓は、真正面に一本の街灯が見える位置にある。雨の日に眺めると、アスファルトが濡れて良い感じの雰囲気になるのだけれど、今日は晴れだ。
「……」
ただの深い呼吸が、無音の部屋でやけに目立つ。
さっきまでゲームをやっていたのだけど、集中力が続かなくなって、なんとなく無言の時間を作った次第である。
ちょっと前も同じ様な事があった。あの時は、私の方の集中力が続かなかった。
「……んー」
「うん?」
「私って……」
言葉を続けようとして、詰まる。
何を言おうとしていたんだろう。考える前に言葉を放って、何も続かなかった。
「何だろう?」
「幾ら暇でも哲学はどうかと思うぞ」
「いや、忘れただけ」
「ふむん。まあたまにあるよな。……お、猫だ」
「猫? 珍しい」
この辺りに野良猫は居ない。他所から寄って来たんだろうか、と明一の隣に身を寄せる。
彼の目線の先へ注視して、直ぐ見つけた。白猫だった。もっと只でさえ高いレア度が嵩増しされた。
「白い」
「ああ」
にしても何を見て……って、逃げた。
「……こっちの方見てなかったか?」
「警戒させちゃったかな」
だとしたら、逃げるより先に見つめ返されそうな物だけど。
そう言えば、あのクーポンどうしようか。元々そういう事を考えてたはずだ。
まず、使わないと言う選択肢は無い。ゲームが好きで、どうしてこのクーポンを無駄にしなければならないのだ。
今週末は普段通りバイト以外に予定は無く、行こうと思えば何時でも行けるのだが……。
「そうだなぁ。休日は多分混むだろうし……早朝とかに行ってみる?」
「良いな。営業時間も朝からの所が殆どだし、問題ないだろ」
そういう事になった。
一応ママにも伝えておいて……多分、専用のコーディネートも押し付けられるだろうけど、まあそれは今から覚悟しておくとして。
「どんなゲームがあるんだろう」
このブランドのゲームセンターに限ってでしか使えないが、中々大手の所だから、選択肢が限られる程ではない。
であれば、珍しいゲームも置いてあるような所に行きたい。
最近はVRの体験コーナーもある。検索してみると、大変興味深いことに、数駅乗った所に体験コーナーも入っている所があった。
「ここどう?」
「……おお、VRか。第一候補だ」
「やった」
「どうせ遠出するなら、近所では出来ない事がしたい。珍しい物はどんどん遊ぼう」
遊ぼう遊ぼう。
新しいパソコンの為の貯金を崩すのだから、精一杯楽しむのが吉だろう。誰かに同意されずとも、強く確信できる。
「うん、遊んで、楽しもう。沢山」
「沢山、な。……明日また一人になるという事も無いんだ」
「ん」
今そういう事を話題にされると、不安になる。
せっかく穏やかな時間を過ごせているのに、そういう事を意識するとこれ以上無くモヤモヤするのだ。
「むう……」
「な、なんだ」
「野暮な事を言う奴は、こうだ」
「ごふっ」
胸元に頭突きしてやる。腕も使ってがっちりホールドしてやる。そしてぐりぐりと額で胸を擦り付ける。
苦しかろう。息がしずらかろう。だから黙ってホールドされていろ。
そうしてくれると、こっち安心する。
「あー……。まだ、不安になるのか」
「女は不安になりやすいんだよ」
「そ、そうか」
根拠の無い言いがかりだけれど、明一がそれを知るは無い。
別に、明一がこの懸念を一切気にしていないという事ではないのだけど。しかし最近は一人に戻る兆候も無いしで、安心している節がある。
私も安心出来たら良いのだけれど、生憎と、私は……。
……。
「頭突きドリル」
「髪の毛がくすぐったい」
「じゃあポニテとかにする?」
「……いやいい」
「そっかー。うなじが気になるもんねー」
「おい」
あ、明一も気になるんだ。
漫画やアニメでそういう男をよく見るけど、真横に実例が居たとは。
「ゲーセンの時にヘアゴムでも買おうか」
「むう」
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