幕間 兄弟の理解。
最初は何事かと思った。
夏休みを挟んで、関係が激変する男女は多く見て来た。広報メディア部で二年過ごせば、当然だと思う。
けれどこれは。これに関しては、私にとっても初めて目にするパターンだった。
以前まで、あの二人の関係は酷かった。最低限の接触を徹底していて、だからといって双子以外の相手と関わるかと言えば、そうでもなかった。
結論から言ってしまえば、あの二人の仲が悪かったというより、まさしくお互いが他人だったのだろうと思う。
転機となった夏休みを迎える前。私はこの双子に興味を持って、少しだけ調べた。その過程で、あの二人と関わったクラスメイトの話を聞くことが出来た。
まずあの二人の話す話は、分かりずらいらしい。口足らず、言葉足らずな印象は私にもあったから、まあそうだろうと思った。それ以外にも、話が通じずらいとも言っていた。
もっと詳しく話を聞いて、成程、と思った。悪い言い方をすれば、雰囲気を読めない人だった。分かりやすく例えるならば、言葉を文面の様に受け取っている、と言うのが良い。
一例として「あれを取って」という一言を伝えたとする。その時、相手の事を見て、仕草や話の流れが分かってさえいれば、“あれ”が何を差すのかが大抵わかる。ただしあんまりにも適当で、代名詞が通じる状況じゃないのに使うのであれば分からなくて仕方ないが、あの二人の場合、そうでなくとも通じないのだ。
まるで、ただただ紙一枚に「あれを取って」と記して渡した時みたいに。
そう、文面以外の情報が全く受け取れないのだ。そういう風に、あの双子はコミュニケーションしている。
それだけ分かれば、新聞や趣味の小説で活字慣れした私には、余裕だった。
まあ、そういう自慢話は別に良い。それだけ見れば、言わばちょっと物分かりの悪い人達である。
ただ肝心の双子の関係。これだけはほとんど分からない。
その人にとっての赤の他人。その二人の関係を探っても、当然何も分からないよね。と言う風に、あの双子もそう言う感じだった。
誰から聞いても、あの双子は仲が良くも悪くもなく……という事だけ。何十人と話を聞いても、結局他人と同様の関係でしかないとしか言えなかったのだから。
その時の事を思い出して、今の関係を当て嵌めてみると、まあ一致しない。
夏休みを終え、迎えた新学期。そこには、まるで本当に双子みたいな双子が居た。
何故だ何故だ。何時に何があった、と気になるのも仕方がない。立場を利用して色々探っても、不思議で不思議で頭がこんがらがる。
例えるなら……そう、まるでパラレルワールドにでも飛ばされた様な気分だ。
最初に異変に気付いた時、誰よりも先に話を聞こうと、クラス中の騒ぎに乗じて一人話しかけに行った。他の人では良い話は聞けない。広報メディア部の誰かか、あるいは物書き、そういう人でない限り、伝わる文面の様な会話は出来ない。
最後には追いかけっこになったが、最終的に追い付いた。その時の様子は、本当にうんざりな様子だった。私への対応にもその態度が隠しきれて……いやそもそも隠しても無かったが、それでも交渉の末、取引の様な形で記事にする事を許された。
記事にする事を許されたのであれば、勿論双子の事情も事細やかに聞ける……! と、本来はそう喜ぶ筈だけど、この話はそう簡単には行かず、記事にはあの二人が考えたカバーストーリーを記すことになった。
こちらからの提案だったから、その事は別に良い。あの双子も言いずらそうにしていたから、それ以上に探る気は無かった。
数日もすれば、クラスメイト達も私の記事で落ち着いて、誰かが馬鹿正直に問い質す事もしなくなった。同時に双子も本来の学生生活を送れるようになった。
その様子を見た私は……やっぱり、不思議で不思議で頭がこんがらがった。
息ぴったり、テレパシーかっていうくらい通じ合ってる。熟年夫婦でもああは行かない。
学校の休み時間に、あの二人がやっているスマホゲームを後ろから覗き込んでも見たが……素人目に見ても凄かった。あれはすごい。プロだ。
……じゃなくて、あの双子の仲の話だ。
仲が良い様に振る舞う。みたいな事をしている訳でも無く、本当に仲が良い。一緒にゲームはするし、一緒に一緒の物を買い食いしてる。その時の表情も楽しそうだ。
それから、許可を貰って双子の続報を書き続けて日が経っていく。秋の体育祭が行われる時期だ。
その時も広報マスコミ部の肩書を使って、あちこちカメラを構えて練り歩いていたが、その時も相変わらず仲良しこよし。双子に続いて女子の一人とも仲が良くなっている様で、単純な変化だけでは無いのだなと思った。
ただ、個人主義な所は相変わらずだった。以前から遠目にでも分かるくらい露骨な個人主義が、二人分に合体したという感じで、他人に対する態度はあんまり変わらない。
2人一緒になって話す事が多いから、話が通じない、というパターンも目に見えて少なくなっているが、それでも進んで誰かと話すという事はしない。
何か切っ掛けがあって、大きな変化があったとしても、結局根底の部分は変わらない様子だった。
誰だって、根っこは変わらない。私も良く知っている事実だ。
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『体育祭、どうでしたか?』
『問題無く終わった』
『そんなの見ていれば分かりますよ』
『なにせ撮影してましたから』
『そう』
『そういえばあの時、撮影は遠慮しなくて良いと言ってくれましたよね。それって体育祭の後でも有効だったりします?』
『駄目。体育祭の写真が十分そろっていれば良い』
『今後の行事も、撮ってくれると助かる。母が嬉しがるから』
『分かりました』
『それと、私の兄の事なんですが』
『あなた達から見て、どんな印象ですか?』
『お世辞抜きで良いですよ』
『特には。良い雇い主だと思う』
『はい?』
『雇い主ってどういう事ですか?』
『長也さんのカフェで働いている。週末と放課後に』
『……初めて知りました。カフェをやっているのは兎も角、バイトを雇ってるなんて』
『でもそういう事だったら、兄の事を宜しくお願いしますね』
『何を?』
『玉川さん達の前では取り繕ってるかもしれませんが、私の兄さんは抜けているので』
『お二人さんに限っては問題無い筈ですが、何か言いたい事があれば、我慢しないで言ってやってください』
『言わなきゃ、分からない。察するなんてもっての外。……今は解消されているかもしれませんが、昔の兄さんはそういう人種だったので』
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