幕間 姉妹の依存

 時々、私に対して甘える妹の事を、心配することがある。


 勿論、甘えられるのは嬉しい。頼られて、期待されて、そして喜ばれる。その時の妹の笑顔は、どんなゲームのエンディングよりも尊いものだと思う。

 それでも、ふとした時に、「これで良いんだろうか」と思ってしまうんだ。気のせいだと思えれば良かったけど、生憎と、予感を裏付ける証拠は十分にあった。

 妹は私の事を少しでも悪く言う人が見つけると、その人とは決定的に関係を断ってしまう事がある。陰口は確かに良くないかもしれないけど、それが原因で人間関係の形成に影響が出ていた。

 ただ、それは良い。それよりも、根本的な原因がある。妹が、私以外と積極的に関わろうとしないのだ。


 中学校を卒業すると、私の心配事が、やはり現実で形を成して起きてしまった。姉である私が、妹より一足先に高校へ出た事で、拠り所を無くした妹が途端に孤独に取り残されてしまったんだ。

 小学校と中学校とで別れていた頃も、気付いていなかっただけで、同じことになっていたのかもしれない。


 ……その事に気づいた私は、ゲームという媒体で知った、ある方法を思いついてしまった。

 よくあるでしょ? 例えば、かつての家族が実は悪の組織の幹部だった、とか。例えば、敵に寝返ってしまった仲間と、戦う話を。


 そんな時決まって現れるのは新しい仲間だった。家族や仲間といった拠り所を無くしつつも、主人公が自らの手で仲間を、そして絆を築き上げる。

 正にそれが、私の妹が必要としていた事だった。今の妹には、自ら進んで私以外と付き合おうとしなかった。あっても、私が仲介している様な状況でないと、成立しない。だから、私はあの子の手を放して、距離を置かないと行けない。


 妹が……恵子が、自分の力で友達を作れるようにならないと、私の身に何かがあった時……。



 いや、別に不治の病なんかを患っている訳じゃないけど。そうでなくとも、似たような状況になる事は十分に在り得る。

 だから私は、妹を騙す事にした。私は悪役なんだぞ、と。これからは自分の力で、何とかしないと行けないんだぞ、と。その末に私は、黒髪を金髪にして、ネイルを極彩色で染めた。制服も、校則的にグレーを踏み越えかねない程度の着こなし方を覚えた。


 でもいきなり距離を突き放すのも怖かった。だから、少しずつ、少しずつ、姉妹二人の距離を離していくことにした。



 そうやって長い時間を掛けて、仲が良くも悪くない姉妹から、仲の悪い姉妹へと変わろうとした。夏休みの終わる頃に、その最後の段階を迎えた。


 そして、新たな学期を迎えた日に、ある双子の様子が一変する。

 今年に入ってから、全学年を通じて有名になった、あの不仲な双子。名前は勿論、男女だというのに、成程双子だと思えるような雰囲気や容姿の二人。その二人が、まるで人が入れ替わったかのように、まるで漫画の様な仲良し双子へと化けた。


 しかも何の因果か、恵子がその双子と接触し始めたんだ。


 勿論、私の目的にとっては好都合な事だけど……幾ら何でも変だ、と私は思った。万が一、心の内に邪な物を抱えていたら、恵子から遠ざける必要がある。だから私からも接触した。


 そうして私は……、嫌と言うほどにあの双子の変化を実感した。二人は確かに、一心同体と言っても良いぐらいの関係を得ていた。それも、どちらかに対して依存するような形じゃない。正に二人三脚の様な振る舞いで、その勢いは私の調子を狂わせる程だった。



 ……恵子と関わった事情も、盗み聞きしてみれば、双子からアクションを起こしたわけでもなさそうだと分かったし。一応、私のお眼鏡には適ったという事で、今のところは恵子と仲良くするよう釘を刺すに留めておいた。

 あの二人が、妹に良い影響を与えるかもしれない。一方的に頼るんじゃなくて、対等に助け合うような関係を、目指す様になってくれるかもしれない。

 目標としては、あの双子と仲良くなってくれるだけでも十分だけど……。


 奇遇にも、恵子の方も、私があの双子を見習って姉妹としての仲を取り戻してくれると願っていたらしい。


 でも、それは出来ない。

 少なくとも、あなたが変わってくれるまで、私も変わるつもりはないんだ。

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