人として五ミリぐらいは成長したかな、と私は思った。
友達の定義とはなんだろう。
と、そう疑問を覚える人は大抵友達が居ないと、創作上の人物はよく口にしているが。
しかし今日、私ならばこう定義するかな、というのを今日の訪問で思いついた。
その定義とはつまり、「付き合っていて疲れない人」である。
お互いを理解しあっていて、その上互いに尊重しあって、最低限の気遣いで十分楽しく付き合える関係は、疲れない。そんな関係が、私の思う友達だ。
定義完了。
お茶を一口飲んで、背もたれに体重を預ける。因みに双子の片割れ、明一は只今シャワー中だ。
ゲームも一人でやる気が起きないから、リビングでお菓子やお茶を飲みながらぼんやりしている。
……その理論で行くと双子兼同一人物の明一がダントツの友達だな。
というか友達通り越して親友だが。いやそもそも家族だった。やっぱり見直しが要るかな。
あるいは、私なんかが友達を定義するなんておこがましいという事か。
ふむう、と身じろぎする。
そんな風に考えていると、玄関から乱暴な足音が聞こえてきた。足音の主は容易に想像できる。
「ただいまーっ!!」
「……ママ」
やっぱり。玄関前で走るのは控えてほしい、隣人の迷惑になりかねない。
それにしても、なにをそんな急いでいるんだろうか。
「どうし」
「今日友達の家に行ったのよねっ。どうだった?!」
「あー」
「ねえねえ、どんな子? どんな子?!」
「とりあえずおちつ」
「友達の家に行ったんでしょ!」
「……」
「どんな子なの?!」
今日のママは面倒な方のママだ。予想はできていた。
噂が広まって初日の質問攻めを思い出す。あの時は少なくとも五人以上に囲まれていたが、それと同等の威圧感をママが放っている。強い。
見る限り落ち着くつもりはなさそうである。まあ、これもいつも通りのママだ。とりあえず椅子にでも座ってくれないだろうか。顔が近い。
「……まあ、姉妹? 漫画とかゲームとかが趣味だって」
似たような趣味……と言っても、好むジャンルとかは違うんだけれど。私達と違って、あの妹さんはライトゲーマーって感じだし。
「仲良くなれそうじゃない! 名前は?」
「鳴海姉妹」
「鳴海姉妹!」
ちなみに下の名前は二人とも覚えてない。私たちの平常運転といえば平常運転だ。
ふと、私の友達との付き合いを想像する。
とある休日に一緒に出掛けたり、勉強で分からない所を教え合ったり、忘れ物をして持ち物を融通してあげたり。
今日みたいに悩み事を持ちかけられたり、逆にこっちから持ちかけたり。
……無いなぁ。
外を出る用事なんて無いし、食べ物を楽しんだりショッピングをしたりとかには興味が無い。パソコンや周辺機器なら興味あるけど。勉強もそこまで熱心じゃないし、赤点を取るほどでもないし。
「期待しない方が良いと思うけどな」
「期待しているわよっ」
「はいはい。あ、今日は料理?」
ギリギリ乱暴ではない程度には雑に置かれたレジ袋を見つけて、話題を逸らす。
「そう! 今日はすっごいの作っちゃうからね!」
祝い事であるかの様に、と言うかママ的には本当に祝うべき事なんだろうけど、そういう時にママが作るのは決まってカレーである。
ただし具沢山。と言うか具しかない。具対カレールーで言えば、八対二と言える程。
「やっぱりカレー?」
「二人が大好きなカレーよ!」
好きも嫌いも無いのだが、まあありがたく頂こう。
「切るの手伝うよ」
「戻ったぞ」
すると、シャワーから戻って来た明一が現れた。丁度いい。
「明一が切るの手伝うよ」
「おい?」
「じゃ私はシャワー行ってくるねー」
「……とりあえず着替えさせろ」
これにはママもにっこり。それじゃあママの事は明一に任せておこう。
・
・
・
まあ、そんなことをすれば、幾ら明一でも不満を買うわけで。カレーを食べ終えて自室に戻れば、母の前では隠していた不満を主張してきた。
「暴走状態のまま俺に押し付けるのは無責任だと思う」
「私達ほど連帯責任が似合う二人は居ないと思うよ」
「それとこれとは別だが」
だってめんどくさかったし。
「全く。……まあ逆の立場だったら同じ事するだろうが」
「でしょうでしょう」
「だからと言って、何もなしと言う気はない」
「う」
ですよねー。分かってましたハイ。
それじゃあ明一は何をする気なのか。とりあえずナニ同人誌みたいな事はしなさそうだけども。
「ナニ考えてるのかは知らないが、絶対違うぞ」
「わーかってるって」
まるで私が変態みたいじゃないか。
ぼすん、とベッドに倒れこんで、携帯を持ち上げる。そういえば、最近アップデートされたゲームの更新内容を確認してない。新キャラが追加されると予告されていたが……と思ったら、私宛のメッセージが一つあった。鳴海姉妹の妹の方だ。
『今日は楽しかったです! もし良かったら、次もまた遊びませんか?』
え、何で? ……また遊びたいと思われるほど楽しんでいたのだろうか。しかし私達は、二対一の構図でひたすらに妹さんを打ちのめしていた筈だ。改めてこう言うと酷いな。
「あー……」
「どうした?」
「件の妹から。また遊ぼうだと」
「えー」
「そう思うよねやっぱり」
面倒なのもあるけど、あの後また一緒にやろうと言う気を起こす訳が、本当に不思議でならない。
「バイトの事もあるし、それを理由に断っておけばいいんじゃないか?」
「そうしようか」
かと言って完全に断る程の気概は無い。あくまでも、『もしかしたら』としておく。
カチカチカチ、と文章を打ち切って、そんな内容で返信する。
『私達バイトがあるから、もしかしたらタイミングが合わないかもしれないよ』
『分かりました! そちらの都合で誘ってくれて良いので、待ってますね!」
なんで?
ああいや、そうか。そういう流れになるよね。
……でも私達の都合って言われても。私達の生態としては、好んで他人の家に訪問する事は無いのだ。あの言葉をそのままに受け取った場合、誘うタイミングは一生来ない。
「……明一」
「今度はなんだ」
「人付き合いめんどくさい」
「分かる」
適当なタイミングで、多少乗り気になったタイミングで言ってみるとしよう。多分数か月後になる。
とりあえず無難な一言で返信……と。
『分かった』
「……そうだ、こういうのも付け足したらどうだ?」
「どういうの?」
「貸してみてくれ」
何かアイデアがあるらしい。明一に貸してみる。
『切っ掛けが無いと動かないタイプだから、期待しないでくれ』
「……なるほど」
「正直に言ってやらないと理解できないのは、相手も俺も同じだからな」
最初に妹さんと話した時、同じこと言ったなあ、と思い出す。
一口二口ほど言葉を交わして、それっきりの関係なのだろうと思っていたけど、思えば家を訪れるぐらいの干渉をするまでになった。
陽キャの行動力と強制力には困ったものだ。
『そんな感じのタイプでしたっけ?』
「む」
私の携帯がまたメッセージを受け取る。明一が持ったままだが、まあ返信する人がどっちでも大丈夫だろう。
そう思って何もしないでいると、返信という行動権を押し付けられた明一が、肩をすくめつつも文字を打ち付ける。
『今回の件も、俺達に相談されたり頼んだりされなければ、放っておくつもりだった』
『?』
『……あ、もしかして明一さんの方ですか?』
『明一です』
『明一さんでしたか』
代わりまして明一さんです。
気付かれたからどうする、という事も無いから、そのまま明一に任せておこう。
『やっぱり仲良いんですね』
『まあ』
『お姉ちゃんにも見習って欲しいです』
『本当に』
『そんなに仲直りしたいのか』
『はい! 大のお姉ちゃんっ子なので!』
それはまあ、今までの言動から既にお姉ちゃん子の気が溢れていた気がしないでもないけど。
口を開けばお姉ちゃん、話を聞けばお姉ちゃん。零から百までとは行かないが、身に染みる程思い知っている。
『お姉ちゃんの悪口を言われたら、直ぐに泣き出すぐらいですからね!』
泣く? それは流石の私らでも驚きだ。高校生にもなって、そんなすぐに泣くものなのだろうか。
『そうだったのか』
『はい!』
……。
『あ、幼い頃の話ですから! 今は流石に泣きませんからね!』
なるほど。
『今はまあ』
『むすっとするかもしれませんけど』
「で……何時まで話していれば良いんだ?」
「そりゃあ、相手の気が済むまで?」
そう言ってみると、明一の瞳からすっと色を失せて行った。するとまたメッセージがやってきた。
『明一さん達にもそんなエピソードありませんか?』
『無理にとは言いませんけど、聞きたいです!』
『あ、そういえばアルバムを見せるって言いましたっけ? 結局見せていませんでしたけど、見ますか? 見ますよね!』
『中学生の頃のお姉ちゃんで、右の方が小学生の頃の私です! この頃はまだ仲良しだったんですよ』
ふむ。
「……もう数十分かかる様なら、交代しよっか」
「是非」
それにしても、この添付された写真。映っている鳴海姉妹の顔に、妙な見覚えがある。
明確に思い出せないから、過去に大した関わりがあった訳でも無いんだろうけど。
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