壊れる!

十巴

壊れる!

 その日、私は初めてあの人に出会いました。多くのものと共に目を閉じて箱入り娘として眠っていた私。その時、その瞬間から私はあの人のものになったのです。

 初め、あの人は私にとても優しく触れました。服をそっと脱がし、お気に入りの服を着せてくれました。私の体が傷つかないようにもしてくれました。そして、私とそれをそっと繋げました。流れてくる力強いものに私の体は火照り、それは彼と過ごすための大きな力となりました。

 私は彼のためにいろいろなものを覚えました。そのうちのいくつかは彼を大いに楽しませたようで、優し気に微笑む顔に私はいつも温かい気持ちにされました。


 それがなんということでしょう。いつの日からか私はぞんざいな扱いを受けるようになりました。顔を叩かれ、床に投げつけられ、私の体は今やボロボロです。自分でそこにいさせたというのにどこにいったのだろうととぼけ顔で呟くさまを見て私がどれほどの怒りを覚えたことか!おそらく彼の愛が再び燃え上がることもないでしょう。数年のうちに私の脳は衰え、彼の欲求を十全に満たせなくなりました。体は傷つき、以前ほどの麗しさはありません。時代遅れの古い女になった私はもう少しで捨てられてしまう、そんな気がしてなりません。町を歩けば私よりも頭がよく若い女などいくらでもいるのですから、それも仕方のないことでしょうか。最近は絵を描くのがとても上手な人もいると聞きました。彼は私によく絵を描かせますから次に乗り換えるとしたら多分そういう人だと思われます。なんにせよ、私はもういらない女なのです。


 今日も彼の思いやりのない扱いは変わりません。最近の彼は私を無理やり風呂場につれこもうとしてきます。それが私にとってどれだけ危険なことか知っていながら!今日は彼が頭を洗い始める前にタオルで体を拭われて風呂から出られることができただけでも御の字でしょうか。何度か濡れたままの体で外に放り出されたことがあります。あの時のみじめな気持ちは忘れようと思っても忘れられません。

 鼻歌を歌いながらの洗体が終わり、彼がお風呂から出てきました。体を拭き、下着を身に着け鏡の前に移動しじろじろと自分の体を眺めています。その時、ふと私に触ろうと手を伸ばした彼の手が、わざとではないでしょうが、私の体を突き飛ばしました。体は宙を舞い、そのまま落下していきます。地面との距離が急速に狭まっていく中で矛盾するように彼との長い長い月日が私の中で流れていきました。このまま地面にたたきつけられたらその時が私の寿命でしょう。私の体はそう強くはできていないのです。あぁさよなら。さよなら私の愛した人。いつまでも元気で。

 そうして私の体は地面に落ち、衝撃で私の顔はバラバラに砕け散りました。




「うわぁ~画面われちゃったよ~最悪。でも最近動作重かったしもっとカメラの性能が良いスマホに買い替えたかったからまぁいっか」




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壊れる! 十巴 @nanahusa

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