第7話 メイスワールド2.0
オークの頭をぶっ飛ばした壁から生える砲塔は歯車をぎゃらりぎゃらり鳴らしながらあたし達に照準を合わせた。真っ黒な発射口があたしを覗き込んでるような気がしてならない。
「やれることは全部やりやす。モールくんも、秘蔵を惜しんでる場合じゃないですよ!」
小さなお嬢ちゃんの言葉に鼓舞されて、あたしは跳ね起きると
盾を肩あたりに構えて、低い姿勢で砲塔の下に潜り込むと飛び上がるようにして盾を下っ腹にぶちかます。
肩に重く鈍い衝撃が走り、続いて砲撃音。後ろから悲鳴も聞こえる。たぶんドワーフのだ。狙いは逸れたハズだけど……?
「ガランゴロンさんっ!跳弾があと一歩でボクのウサミミを消し飛ばすとこだったよ!それにみんなして生き埋めになるつもり!?」
跳弾、それに天井を壊したら生き埋めか。厄介なことになった、ともどかしく思いながらメイスを床から跳ね上げさせ、砲塔を狙い撃つ。
とんでもない金属音がしてもびくともしない。
「じゃあどうすんだよ!」
「まともに発射させちゃあいけやせん、ガランゴロンさん!なんとかして発射する砲弾を減衰させるのですよ!」
財団ってのはみんなこんな無茶な注文するものかね。げんなりしながら装填を待つ間、メイスでめためたに砲塔を殴りつける。
金属製なのは疑いなく、多少の傷もへこみもつく、けどそれだけで破壊にまで至らない。
そもそも同じ手はオークが全失敗に終わらせているんだから最初から期待しちゃいなかった。
おそらくあたしのやり方じゃ何もできずに終わる。
考えているうちに装填が終わった。
だから、あたしにできるのは
「時間稼ぎだよっ!」
発射音、とともにメイスを振り切った。
尻尾まで渾身の力を込めたメイスの一撃は砲台の発射口に吸い込まれてって……
ぼきん
嫌な音を鳴らしてメイスは柄の半分から叩き折られる。
まるで泥の中を動くように目の前でゆっくりとメイスの頭だった部分は一回転して、がらんと床を叩いた。
そんなに大層なメイスじゃなかった。母ちゃんが持たせてくれたわずかばかりのガメルで買った在庫処分のメイス。
そもそもあたしはメイスなんて必要ないと思ってた。腕っ節ひとつでガキ大将に成り上がったから。
武器なんて使うやつは弱虫だと思ってた。
これを選んだのだって冒険者の店で武装を強く勧められて、教わった店の店主が「これからは剣の世界じゃねえ!メイスの世界だ!」とか訳わかんないこと言ってて、それに釣られて買っただけだ。
けど、メイスはいろんなことを教えてくれた。
あたしの無力さも、金の大切さも、世界の広さも。
けれど、そんな先輩みたいに感じていたメイスが半ばからぽっきり折れながら落ちるのを見て。思った。
こいつは、あたしとおんなじだった。
こいつの世界もまだまだ狭くて、きっとゴブリンやフッドしか殴ったことがなかったんだ。
だからメイスは折れた。
自分より強いやつに当たったら、折れちまう。このメイスみたいに。
「隙は作ったぞ!モール、リーズ!」
泣いてる暇なんてないから、無理やり叫んで涙を引っ込ませる。あたしは一人じゃないから。
メイスで弾き返すように殴打した砲弾は方向こそ変わらなかったものの、威力はほとんど殺されて床を転がった。狙い通り。
「よくやりやしたよガランゴロンさん!次弾が来るまでに準備も整いやす、次は魔剣を!」
「えぇ……本当にやるの……嘘でしょ……?僕知らないからね?」
コケそうになる後ろの会話を聞き流して、魔剣ゾルバ・ウクタを構える。
魔剣っていうくらいだから流石に砲弾でお陀仏になることはないと思うけど。メイスに比べて盾なんて初めてだから不安はある。
「耐えてくらさい!一分一秒でも稼いで、長く生き延びれば活路はありやす!」
その言葉を信じてあたしは砲弾を弾き返すんじゃなく、受け流すイメージを頭の中に描いた。
腕や肩が潰されないギリギリで尻尾まで使って衝撃をできるだけ吸収する。自分をバネにする。
イメージから間も無く、次弾が装填される音が聞こえた。覚悟を決めてその時を待つ。
発砲。
重苦しい音とともに衝撃が……来る直前、体がピシリと石になったような感覚に襲われた。
「スパーク!」
ビリリと体を何かが駆け巡って、頭の邪魔をする。でも問題はなかった。それは頭とは関係なしに反射的に体が盾を操って砲弾をうまく受け流したのもそうだったし。
なにより想定してたよりずっと衝撃が軽かったからだ。
まだ痺れる体をぐるりと動かして後ろを見てみれば、モールモールが小さな杖をクルクル回しながら何かを唱えている最中だった。
それだけで何をやってたかわかる。
あいつの言ってた「知識だけあるけど実戦使用したことのない特技」つまるところ。
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