第5話 過剰防衛
「これで最後ですよ」
通路を行ったり来たり、隅から隅まで歩き回るように探索したあたしたちの前でドワーフのモールモールが足を止めた。
案内を求めたリーズお嬢ちゃんはほんとに遺跡の全てを見たがった結果だ。
おかげで両の手で足りないほどのゴブリンを叩きのめしたし、上位蛮族のボガードも殴り潰すことになった。
「ご苦労様ですモールくん。おかげでいいお勉強になりやした」
「僕より小さな子にそんな呼びされるのも複雑だよ」
大興奮であちらこちらを巡ったリーズ嬢は興奮気味に顔を赤らめてるけど、一方のモールモールは噛みきれない肉の筋が歯に詰まったような顔をしている。
それもそのはず、背の低いドワーフの彼よりさらに小さいのがリーズ嬢だ。不思議な気分になるのも頷ける。
「しかしゴブリンも出なくなったね。ダンジョンってのは普通奥に行くほど多くなるもんじゃないのかい?」
話題を逸らそうとメイスを振りながら尋ねると、モールモールはため息をつきながら(少しの付き合いで分かったけどこれは「仕方がないから教えてあげますよ」と得意げになってる時の合図だ)振り返って解説を始めた。
「この遺跡の構造に起因してるんだよ。細い通路が長く通されたこの遺跡は生活するのに不便なんだよ。みんなだって玄関から寝床まで10mも離れた家は嫌でしょ?」
言われれば確かにそんな気もする。聞き流すあたしの横でリーズのお嬢ちゃんはカリカリと高価そうな羊皮紙にメモしてた。
「モールさん、この遺跡って結局何なのですか?そういうのお詳しいとお見受けしやすが」
「た、たぶんここは施設の一部だと思う。古代の文明が滅びたときに破壊されて、無事だった部分がこうやって残ることもあるんだ」
大したことないけどさ、なんて付け加えながらボソボソとモールモールは返しているけど得意分野を褒められてうれしそうだ。
説明を続けながらも最後の部屋へ通ずる扉を色々いじって安全確認をしてくれる。
「うん、ここも開いてるよ。ガランゴロンさん先に通って」
「蛮族や魔物がいるかもしれないって?」
そういうことならあたしの仕事だし、簡単な罠で死ぬようなヤワな体をしているわけでもないから喜んで先頭を引き受けることにする。
「いてもそんな変なのはいないよ。こんな狭い遺跡じゃ、入れるのはゴブリンくらいだもん」
そういうこと言うと悪いことが起きるんだって故郷で言われてたような気がしたあたしは、油断なくメイスを構えることにした。
部屋にのしりと踏み入れると、まず悪臭が鼻をくすぐった。蛮族どもの拠点の生活臭だ。
ランプを掲げて入室すると、それなりの広さを保った空間だということがわかる。
これまでと同様、壁には機械的な紋様が刻まれていて、床も壁も硬く出来ている。
しかし部屋の中央には小動物の骨や様々なドロドロしたものが散らばり、その中心に小山のような褐色の物体が鎮座していた。
「……ふぉふぉはいちばん臭いがキツいれふね」
続いたリーズ社長も困ったように鼻をつまみ、モールモールも眉を顰めている。
あたし達が部屋の異常を察知したのはそれから間も無くだ。
「なんか今あの小山動いたぞ」
「あの光るものは目かもしれませんね……あ、こっち見やした」
状況を整理する間もなく、腹の上の残骸を丸太のような腕で払ったソイツは身の丈に合わない俊敏さで立ち上がり、襲いかかってきた。
ぶわりと体が怖気だつのを抑えて、あたしは突き出すように出された2本の腕にメイスの柄を突き出し、押し合いにもつれ込ませる。
3mはある見上げるような巨体、頭の悪そうな顔つきの蛮族。名前はたぶんオークとかいうやつだ。
「ガランゴロンさん!そいつから手を離してください!ねじ切られますよ!」
「モールさんっ、なんでこんな大きな蛮族が出入りできないはずの遺跡の奥に?」
背後に控える非戦闘員の二人がやんやと口々に叫ぶ中、メイスをひねって手を弾き力比べを回避した。あのまま握っていたら確かに危なかったかもしれない。
「た、たぶん幼体の頃にこの遺跡に閉じ込められたんだ!迷い込んだ森の動物やゴブリンを食べて成長したのかもしれない!」
モールモールの言う通り、蛮族のものらしい死体や骨が転がっている。室内がやけに嫌な匂いに包まれてるのもこれのせいだろう。
今度は力比べにならないようメイスを握り直してすぐさま殴りかかる。小さな頭だ、うまく当たれば一撃で沈んでくれるかもしれない。
しかしその攻撃も読まれていて、前腕で柄の部分を弾かれてしまった。
急にメイスに力が入らなくなって、外したことを意識した瞬間頭を大きな手で掴まれる。
「ガランゴロンさんっ!」
どちらが叫んだかわからないが、小さな影があたしとオークの間に入ろうとして弾き飛ばされたのが見えた。
「モールくんっ!」
女の子の叫び声からしてオークに吹き飛ばされたのはドワーフの方らしい、あんな小さな体じゃ吹き飛ばされるのがわかるだろうに。
どうにか痛む頭を堪えながら巨体にメイスを叩き込んじゃいるけどこっちも効いてるように見えなかった。
このまま頭を潰されて終わるのかと痛む頭で考えていたら、直後あたしはふわりと宙に浮いて真っ直ぐ床に叩きつけられた。
衝撃でふらふらするけど、根性で尻尾をはたいて転がるとさっきまでいた場所に足が振り下ろされたのが見えた。
「ゲホッ、ゲホッ、大丈夫かいモールモール」
間一髪で避難しながら部屋の隅に小さな布切れのように転がっているドワーフに声をかけるけど返事がない。
幸いオークの興味は彼よりあたしに向かってるみたいだけど、状況が悪いのに変わりはない。
せめてリーズのお嬢ちゃんだけでも無事に帰さないと。その隙を作るためにも私は一歩前に踏み出した。
「お嬢ちゃん、ドワーフはあたしが抱えて帰るから。あんたは先に逃げな」
ふん、と鼻を鳴らしてオークを威嚇する。
するとオークは優勢にも関わらず一歩引いたように見えた。どしん、とエール樽を落としたような重みを感じさせる足音をさせた。
「あっ」
後ろでお嬢ちゃんの息を飲む声が聞こえる、何に驚いているのかはわからないけど、ぐいぐいとあたしの尻尾を引っ張る感触はあった。
戦闘中にそんなとこ触るのは危険だっての。
「ガランゴロンさんっ!なんかマズそうですよっ」
言われてすぐ、地の底をデカい蛇が這いずり回るような音が鳴っていることに気づいた。
こんな音が最初から鳴っていたなら気づいてたはずだが……?
そんな考えがまとまらないうちに
ボゴン
と、腹に響くデカい音がしたと思ったら、オークの右側の腕が吹き飛んでいた。
『System:防衛モードに変更されました、F魔動機械及びFルーンフォーク以外は攻撃対象に選択されます。直ちに避難してください』
ギャリギャリと岩を破砕するような音を立てて、オークの背後の壁が崩れてゆく。
砲撃を繰り出した、いつのまにか突き出されていた砲門は熱を上げながらその全貌を
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