サクラと文化祭デート
なんとか書き直せました!
お知らせで頂いた励ましのお言葉、大変ありがとうございました。
来週分は出来るだけ頑張りますが、間に合わなかったらまたお知らせします。
それでは本編どうぞ。
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なんとか遅延吸精に耐えきり、休憩を挟んでからリリスと別れた。
今日の文化祭デートは一人辺り一時間の持ち時間を設けてプランを立てており、その中で色んな所を回るつもりだったのだ。
しかし予定に無い吸精によって六割が流れてしまったのである。
そのことをリリスに謝罪したのだが、彼女はおれと一緒に過ごせた方が良かったと快く許してくれた。
安堵こそしたものの、次のデートはこうならないように反省しないといけない。
そんな反省を抱えながら、二人目の巡視パートナー兼デート相手の元へと向かう。
さっきスマホに送られていた待ち合わせ場所である2―C組の教室へ着くと、思いのほか行列が出来ていた。
俺達の作ったダンジョン風お化け屋敷は順調らしい。
だが感心ばかりもしていられない。
何せ行列の人達の視線は入口ではなく、廊下の脇で俺を待っているサクラへと向けられていたからだ。
異世界から大勢の人が来る都合上、銀髪のままでは騒ぎになってしまうので、今の彼女はジャジムさんの魔法具で黒髪に変えている。
相変わらずの美貌故に、忌避ではなく好奇の視線が集まっていて、何人かひそひそと声を掛けようか思案している様子が伺えた。
……なんというか腹が立ってくる。
もしサクラが銀髪だったら、好奇の目が一転して挙って非難する様が容易に想像できてしまう。
髪色一つで態度を変えるような男達に、大切な恋人をジロジロと見られるのは気分がよくない。
「! 伊鞘君!」
「よっ」
そんな不満を懐いているとサクラが俺のことに気付いた。
彼女に不機嫌を悟られないように笑みを繕いながら片手を上げると、嬉しそうにはにかみながら歩み寄ってくる。
「悪い、待たせたか?」
「いえ。さきほどまで教室にいたので問題ありませんよ」
和やかな会話を交わす俺達に、サクラを狙っていた男達からどよめきが立つ。
さっきまでクールな表情だった彼女が、俺に対しては別人のように明るい笑顔を見せるのだから、それだけで浅からぬ関係だと悟らせるには十分だろう。
それでも『あんな冴えないのが彼氏なのか?』なんて疑惑の視線は絶えない。
普段なら無視していたが、ここは腹いせついでにもう一押ししておこう。
そう判断した俺は教室に置いていたある物をサッと取りに行く。
手に持った物……文化祭に合わせて作られたクラスパーカーをサクラに羽織らせた。
唐突に着せられた俺のパーカーに、彼女は頬を朱に染めながらあわあわと困惑する。
「い、伊鞘君? これは……?」
「さっき外に出た時、かなり寒かったんだよ。廊下だからって楽観できないし、冷えないようにしようと思ってな。あとは……虫除けも兼ねてる」
「虫?」
俺の言葉にピンときていないのか、サクラは疑問符を浮かべて首を傾げる。
すると何を思ったのか、肩に掛かっているパーカーに顔を寄せてスンスンと匂いを嗅ぎだした。
無意識なのか大胆な行動に驚きを隠せない。
「伊鞘君の匂いしかしませんが、何か防虫加工でもしているのですか?」
「……ふ、あっはは。まぁそんなとこ」
密かに狙っていた男達にトドメを刺すような返答に堪らず吹き出してしまう。
それにあながち間違いでもないので、特に否定せず笑って頷いた。
何はともあれ遠回しな釘指しとサクラの行動によって、周りの男達はちょっかいを掛ける気を失くしたようだ。
結果オーライながら望んだ結果に胸がスカッとする。
「さて、そろそろ行こうか」
「伊鞘君はどこに行くのかもう決めていますか?」
「もちろん。今から第一体育館でやってる軽音部のライブに行くつもりだよ」
「あ、私もちょうど行きたかったんです! パンフレットで『アクアリウム』の楽曲を演奏するバンドがいたので気になっていまして……」
「おぉ場所も目的も同じだったんだな。っじゃ、早速行こう」
「はい」
サクラが好きなアイドルグループの曲を演奏すると知り、狙いを付けていたのが功を奏した。
俺の誘いを快諾した彼女は、そうするのが当然のように手を繋いだ。
少しだけ冷えたサクラの手を温める様にしっかり握りながら、俺達は雑談を交えつつ第一体育館へと移動する。
ほどなく着いた会場では、ちょうど前のグループの演奏が終わったところだった。
場所としては後ろの方だが、ステージを観る分には問題無い。
舞台上に置かれた楽器の入れ替えが終わると、次のグループがステージに上がった。
盛大な拍手で以て迎え入れられたグループは、
海族の女子がマイクを持っていることから、十中八九彼女がボーカルだろう。
海族は他の種族より声帯が特殊で、水中でなんなく会話をこなせる他、歌唱においては幅広い声域とセンスを先天的に持っている。
その中でも『アクアリウム』の二人は同族からも天才と称される、圧倒的なパフォーマンスで多くの人達をファンにしているのだ。
本職のアイドルまでとは行かずとも、海族というだけである程度の期待は保証されたも同然と言える。
軽い自己紹介とMCを挟んだ後、ライブが始まった。
ギターやドラムをこれでもかと激しく鳴らすロックバンド調の演奏が響いた瞬間、固唾を呑んでいた会場内の観客達が一斉に歓喜で声を震わせる。
──アクアリウムの3thシングル『
アクアリウム初心者の俺でもよく知ってる曲だ。
アイドルらしからぬメタリックな曲調と、それに反した常に前へ進む想い人の安らぎを祈る少女のラブソングが特徴で、SNSのバズから動画サイトや楽曲配信サービスで一位を取るなど、アクアリウムの知名度を爆発的に広めた大ヒット曲である。
そんな誰もが知る曲を前に、観客達は大賑わいでサイリウムを振っていく。
妙に息の合った動きに戸惑いつつも、会場の雰囲気に胸が弾んでいた。
サクラは楽しんでいるのだろうか。
そう思って横目で見やると、彼女は胸元で小さく手拍子をしながらキラキラした目でライブに夢中だった。
喜んでくれてよかったと安堵しながら俺もライブに集中する。
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『ありがとうございましたー!』
ライブはあっという間に終わり、もっと聞きたいと惜しまれながらも終了した。
演奏はもちろん海族の女子生徒の歌声が特に良く、これからあのグループは注目されそうだと期待に胸が弾む。
「はぁ~とっても良かったですね」
「あぁ。俺、こういうの初めてだったけど楽しめたよ」
「アクアリウムのライブはもっと素敵ですよ? と言っても私はDVDでしか見たことがありませんが……」
「あ~……」
苦笑する彼女の言外に言わんとすることを悟り、なんとも返す言葉が浮かばなかった。
半吸血鬼として恐れられるサクラにとって、ライブに参加することはかなり難しいことだ。
行きたい気持ちはあっても、自分のせいで中止になるのは避けたかったのだろう。
理解を示した俺の表情にサクラは慌てて手を振る。
「そ、そんな顔しないで下さい。来年の二月に開かれる武道館ライブには行くつもりですから。これは異世界出身のアイドルとして初の快挙なので、絶対に見逃せない貴重な機会なんです」
「え? 大丈夫なのか?」
行きたくても行けないと思っていただけに、サクラの口から参加すると聞かされて驚いてしまう。
心配を感じ取った彼女は首肯してから続ける。
「地球でのライブですし、何より今のように髪色を変えることにも抵抗は無いので、よほどのことが無ければ問題ありませんよ。ですからその……チケットが当たったら一緒に行きませんか?」
言われた理由を聞いた限りでは無理をしてるようには思えない。
それどころか顔を赤くしておずおずと俺も誘ってくれた事実に胸が暖かくなる。
せっかくの誘いを無下にして悲しませるなんて論外だ。
だから俺の答えなんて一つしかありえない。
「そうだな……うん、約束だ」
「はい!」
俺の快諾にサクラは喜びを露わにして微笑む。
本音を言うと一瞬だけ迷った。
何せライブに行くということは、あの二人と再会する可能性に自ら首を突っ込むことになるからだ。
だが当日は多くの観客がいるだろうし、その中で俺一人が見つかることは早々無いだろう。
そう結論付けてサクラの誘いを受けることにした。
それにしても、と頭に過った言葉を口にする。
「サクラって本当にアクアリウムが大好きだよな」
「初めて『
「へぇ~。あの曲がファンになったきっかけなのか」
「はい。最初はルルちゃんの歌声に惹かれて、今となっては歌詞もまとめて好きです」
「その言い方だと、歌詞は遅れて好きになったように聞こえるけど?」
「恥ずかしながら伊鞘君を好きになるまでは、歌詞にピンときていなかったのが原因です」
大ファンとして恥ずかしいのか、サクラは頬を指で掻きながら苦笑する。
俺を好きになるまでって……あぁ。
少し遅れて理由を察する。
何せ『剣の鞘』はラブソング……恋を知るまで人間不信が強かったサクラが共感しづらいのも無理もない。
そう感心した時だった。
「それにちょっとした連想ですけど、伊鞘君の名前と曲名に同じ漢字があるので、そういう意味でも一層気に入ったと言いますか……」
「ん、ぐ……」
照れくさそうに顔を赤くして目を逸らして漏らされた理由に、心臓がギュッと締め付けられて堪らず苦悶の声が出てしまう。
いやいやなんだその可愛すぎる理由。
あまりの不意打ちに俺まで顔が赤くなるのが分かるほど熱い。
互いに真っ赤な顔を伏せて黙り込んでしまい、なんとも形容し難い甘ったるい空気に包まれた。
その甘さから少しでも気を紛らわそうと思考を切り替える。
俺の名前と曲名に同じ漢字かぁ~……なんだか無視が難しい偶然だ。
……もう俺のことなんて忘れてると思ってたけど、あの件も含めると逆に覚えられたままかもしれない。
いやでもまさかな?
どうしてか否定できない予想に頬が引きつりそうになるが、ひとまず目的のライブが終わったので俺とサクラは体育館を出ることにしたのだった。
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