一気飲みよりちょい飲みの方が健康的
占って貰った女運の結果になんとも釈然とないまま3ーA組の教室を出た。
「なぁリリス。なんで俺の女運なんか聞いたんだ?」
「ん~?」
校内を進む中、先程から気になったことを尋ねた。
その問いに対し、リリスはゆるりとした調子で首を傾げる。
「別に教えても良いんだけどぉ~、ちょっとだけ付き合って欲しいとこがあるんだぁ~」
と、リリスからの提案を断る理由もないため、了解して彼女と共に校内を進んでいった。
そうして辿り着いたのが……東棟の屋上だ。
交縁祭で盛り上がってる様子を一望はできるが、他のクラスの出し物やボランティアの出店もない場所に何の用だろう。
人気のない所でないと話せない内容なのか?
意図が読めず思案する間、リリスは軽やかな足取りでベンチに腰を下ろしたので俺も彼女の隣に腰掛ける。
「それでさっきの話だけど──『チュッ♡』──んんっ!?」
再度尋ねようとした瞬間、不意にリリスからのキスによって口を塞がれる。
突然の行動に驚愕して思考が真っ白になってしまい、その空白を埋めるかのように彼女の舌が口の中に入ってきた。
「んちゅ、あむ……」
「~~っ!!」
舌で撫でられる度に背筋にゾクゾクとした甘い痺れが走り、身体から徐々に活力が無くなっていく。
勘違いなどのしようがない、リリスはキスのついでに吸精をしているのだ。
普段よりも控えめではあるが、問題は量よりも場所にある。
──ちょっと待って、ここ学校なんだけど!?
理解した状況のまずさで背中に冷や汗が流れだす。
いくら人気の無い屋上だからって誰も来ない可能性はゼロじゃない。
俺とリリスは恋人だから疚しいことは何も無いけど、やらしいことしてるから目撃されたらどうなるのか考えたくも無かった。
見られたくないなら離せば良いんだろうけど、万が一ケガをさせてしまうことを考えると迂闊に手を出せない。
それに言ってしまえば場所がまずいだけで、彼女とのキスがイヤなことなど断じてないワケで。
動揺しつつなんだかんだキスを続けている俺も大概だろう。
そんな自虐を浮かべている内に、リリスがキスを止めて顔を離す。
艶やかに細められた紫の瞳は妖しい光を放っており、頬は真っ赤なまま肩を揺らして呼吸を直す様子はエロいとしか言い様がない。
かく言う俺も長めのキスと吸精の影響で、頭が茹でって思考がうまく纏まらない状態だ。
深呼吸をして息を整えていると、リリスはニコリと微笑む。
「あはぁ~♡ いっくん、顔真っ赤だねぇ~」
「……リリスも同じ顔色だけど?」
「んふふ~だってぇ~、いっくんの精気ってとぉっても美味しいんだもぁん~」
「そりゃエサ冥利に尽きるよ」
とても他人には聞かせられない会話だなと思わず苦笑する。
なんとか落ち着いたところで、リリスはひょいっと俺と向かい合う姿勢で膝に乗って来た。
目前に迫った豊かな双丘に対し反射的に顔を後ろに反らす。
そんな反応すら面白いのか、リリスの表情はニヤニヤと意地悪なモノになっていた。
照れ臭さから瞑目しているとクスクスと彼女の笑い声が耳に入る。
「リリがいっくんの女運を占って貰ったのはぁ~、これからのためなんだよぉ~」
「これから?」
不意に告げられた先の占いにおける真意に、いまいち意図が読めず聞き返す。
二の句を口にする前にスルリとリリスの両腕が首に回される。
「これからタトちゃんみたいにぃ~、奴隷になる前のいっくんと知り合った女の子達が出てくかもって思ったらぁ~、どれだけいるのか把握しておいた方がいいでしょ~?」
「うぐ……」
その言葉にあり得ないとは言い返せず噤んでしまう。
タトリに告白される前だったら言っていたかもしれないが、今となっては否定できる材料が少ない。
むしろこの先、後輩のように交際相手がいても臆さず告白してくる可能性は大いにある。
もちろん断るつもりではいるが、それでも諦めなかったタトリという前例ができてしまった以上、振ったからハイおしまいで済むかと言われると頷けない。
「で、でも誓って言うけど、俺は好かれようとして動いたつもりは一度だってないぞ?」
サクラ達の時だってそうだ。
困ってたり落ち込んでいたから、なんとか支えようと必死だった。
その結果が彼女達からの好意に繋がっただけで、元からそんな下心を持って接した記憶は無い。
俺の言葉に対してリリスはウンウンと頷く。
「それは分かってるよぉ~。そ~ゆ~下心の無い優しいいっくんだからぁ~、リリ達は大好きなんだもぉん」
だからねぇ~、と彼女が続ける。
「いっくんの気持ちがリリ達から離れないようにぃ~、こうやってたぁっくさんチュ~して身体に覚え込ませてあげるんだぁ~」
「あ、そこでキスしてきた理由に繋がるんだ……」
「後はまだ知らない子達にも分かるくらいぃ~、リリの匂いも付けていっくんが売約済みって知らしめるのぉ~」
「すっげぇ陰湿な牽制」
いやそうさせてしまうくらい俺が不注意なだけかもしれないけど。
何はともあれリリスの意図はよく分かった。
それで彼女達の不安が和らぎ、恋人がいるのに迫られることも無くなるなら願っても無い。
ただキスと占いの件は納得したんだが……。
「……吸精の方はどういう意味なんだ?」
「え? ただの小腹が空いたからつまみ食いしたかっただけぇ~♡」
「えぇ……」
そっちは特に深い意味無いのかよ。
真剣な話と地続きだと思ってただけに肩透かしを貰った気分だ。
「で、そこから降りるつもりは?」
「もっと欲しいからやだぁ~」
「だと思っ──んんむっ!」
分かり切っていた返答に対するツッコミを遮るように、リリスは俺の両頬に手を添えてから唇で塞いで来た。
まだ話の途中なのに遠慮なしか。
内心で呆れている間にも彼女の攻めは止まらない。
「れろ、んむ……
そんな方便を口にしながらもリリスはキスを続ける。
ただ舌を絡ませるだけじゃない。
俺の舌を啄むように唇で挟んだり、息継ぎする間もないほどの舌技で蹂躙して来たり。
もはやサキュバスの独壇場と言って良い形勢だ。
当然、正面から抱き合ってキスをしているので彼女の豊満な胸がこれでもかと押し付けられている。
腕を組んでいた時とは比較にならない接触比率が、ジワジワと俺の理性を削り落としていく。
「ちゅ、ぁんん……はむっ」
キスを重ねる毎にリリスの舌技もヒートアップしていき、恋人同士のキスというよりケダモノのそれに近付いていた。
それに吸精が加わっているのだから、常人ならとっくに理性を手放したっておかしくない。
こうして俺が耐えられているのだって、日頃の成果で多少は耐性が付いているからだ。
尤もされるがまま受け入れてるだけなのだが。
……。
…………。
キス、長くない?
途中で何度か息継ぎを挟んでるとはいえ、もうかれこれ十分くらいこの状態なんだけど?
学校で行為に及ぶわけにいかないからキスに留めてるのに、これ以上されると我慢の限界が近付いてくる。
キスの時間もそうだが、一度のキスにおける吸精の量もなんだが少ない……ハッ!?
そこまで考えたところで、俺はようやくリリスがキスを止めない理由を悟った。
彼女はTPOを弁えて抑えている……のではなく、普段より敢えて少ない量で吸い続けることで、キスの時間を引き延ばしている。
そしてそれは俺に対する焦らしとしても作用しており、じわじわと突かれる焦れったい感覚に理性がゴリッゴリに削られるワケで。
つまり理性と性欲で葛藤する俺を至近距離で眺め続けるためなのだ。
恋人に対しても容赦のないサディストぶりにはお手上げである。
これから現れるであろう冒険者時代に出会った女の子達のこととか、嘘ではないにしても比重としては自身の性癖のためな気がしてきた。
そうして俺はリリスが満足するまで、文化祭を余所に彼女から齎されるキスの雨に晒され続けるのだった。
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