泉凛高校の生徒会長様
挨拶も程々に、俺達は生徒会長の対面の席に座った。
サクラとリリスはいつものように俺の両脇に座っている。
何も言われなかったってことは、二人も会話に参加していいらしい。
例に漏れず非常に麗しい容姿の持ち主でもあるので、彼女を一目見た男子は憧れざるを得ないのだとか。
じゃあなんでそんな本條さんは、サクラ達と同じ二大美少女扱いされていないのかって?
王女様にいきなり告白とか、他の女子と比較とかしてみ?
フッツーに処罰されそうだろ?
なのでサクラ以上に不可侵の高嶺の花扱いされているワケだ。
ちなみに一度は無効になった俺の特待制度を復活させてくれたのは本條さんだったりする。
お嬢の父親であるゼノグリス様と、王女様の父親であるヴェルゼルド王は親友なので、その伝手を使ったのだ。
つまり本條さんも恩人の一人と言っても過言じゃない。
そんな彼女は柔らかな微笑みを讃えて、俺達と向かい合っていた。
「久しぶりだねサクラちゃん、リリスちゃん。前に会ったのはエリナちゃんの誕生日パーティーの頃だったよね」
「お久しぶりでございます、レイラ様」
「お元気そうでなによりですぅ」
「そんな畏まらなくたっていいでしょ? 知らない仲じゃないんだし」
恭しく挨拶する二人に対し、本條さんはにこやかに返す。
続け様に俺の方へ顔を向けられる。
瞬間、全身に力が入ったのは言わずもがなだ。
「辻園くんとは前から一度会って話してみたかったんだ。エリナちゃんの買った奴隷がどんな人なのか気になってたけど忙しくてね。今日やっと会えて良かったよ」
「は、はぁ……」
「辻園くんさえよければだけど、これからは私とも仲良くしてくれると嬉しいな?」
「こちらこそ、光栄です……」
朗らかに話してくれるけど、相手が王女様とあって緊張が拭えない。
もし何かしらの無礼を働いたら、公爵家の奴隷だろうと処罰は免れないだろう。
強張りすぎて震えそうになりながら賛辞を返すと、クスリと笑みを零す。
「そういえば辻園くんって、エリナちゃん達と付き合ってるんだよね?」
「え? はい……物凄くありがたいことに」
「ふふっ。だったらちょっと怖いかな~」
「な、何がですか?」
やたらと含みを持たせた物言いに、得も言われぬ恐怖を覚えてしまう。
身構える俺に対し、本條さんは目を細めて可愛らしい笑顔を浮かべる。
「もしかしたら私もエリナちゃん達みたく、うっかりキミに恋させられちゃうのかなって。実際、体育祭の決闘ゲームで優勝した時はカッコ良く見えちゃったし?」
「えぇっ!? い、いえそんな畏れ多いことは……」
「ないって言い切れる? だって恋って落ちるモノだって言うじゃない?」
「諸説ありますけど、俺には恋人がいるんでそのつもりは微塵も──って痛い痛い痛い!! 両方の
とんでもない発言に戸惑うのも束の間、両隣にいるサクラとリリスから理不尽な攻撃を受ける。
なんでだよ、俺ちゃんと否定したじゃん!
まさかありえなくないって思われてんの!?
視線でそう問い掛けてみれば、二人はツーンと顔を逸らしながら口を開く。
「伊鞘くんのことですから」
「リリ達も身を以て知ってるからねぇ~」
「……少なくとも彼女がいるのにそんな不義理な真似はしないって」
とんだ心外だと断言したものの、彼女達が信じた様子はない。
ただでさえ三人の彼女がいるんだから、浮気なんてしたら殺されたっておかしくないし。
そんな俺達のやり取りを眺めていた本條さんはクスクスと口元に手の甲を添えながら笑みを零していた。
「あははっ冗談だから安心して。エリナちゃん達の恋人を盗ろうなんてはしたないことはしないよ」
「「ほっ……」」
「あまり王女様が口にしていい冗談じゃないと思うんですけど……」
「だって羨ましいんだもの」
呆れ混じりに苦言を呈すると、本條さんはあからさまに唇を尖らせる。
「私は王女だからって敬遠されて告白もされないのに、キミ達はラブラブしちゃってさ~」
「えっと……婚約者とか居ないんですか?」
「いないよ? お父様達からは好きに恋愛して良いって言われてるし。けどそもそもそういう雰囲気になる人がいないんじゃ、する以前の話なんだけどね」
「……」
少しだけ寂しげに語る本條さんに、俺達はどう言葉を掛ければ良いのか口を噤んでしまう。
そうして閉口していると、彼女はさっきとは真逆の笑顔を浮かべる。
「というわけで辻園くんに恋しない可能性はゼロじゃないから、いざその時がきたらゴメンね?」
「「ダメ!!」」
舌をペロッと出してあざとい仕草を見せる本條さんに、サクラとリリスが大声で非難する。
もう完全に会話のペースは彼女の手に握られてる。
見た目以上に強かな手腕は、流石はヴェルゼルド王の娘としか言い様がない。
まともに対峙出来る相手はお嬢くらいじゃないだろうか。
残念ながら俺達じゃ翻弄されるだけで終わりそうだ。
それはサクラも同様に感じたのか、咳払いをして姿勢を正す。
「コホン。その……伊鞘君を呼び出した要件について説明をして頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん? あはは、そうだったね。家族以外で肩肘張らずに話すのは久しぶりだったから、つい夢中になっちゃった」
てへへと笑ってから本條さんも背筋を伸ばして俺達と向かい合う。
「実は最近、学校中の男子達の中である噂が広まっていてね。その解決のためにキミの手を貸して貰いたいんだよね」
「噂……」
それは奇しくも白馬から存在だけ知らされていたことだった。
どんな内容か聞く前に校内放送があったから、詳細は聞けないままだ。
ふとサクラ達は知らないか目配せしたが、二人もキョトンと目を丸くしていた。
どうやら知らないらしい。
白馬は休み時間で話せることじゃないって言ってたし……一体どんな噂なんだろうか。
「その噂をざっくり話すとね……」
頭に浮かぶ疑問に対し、本條さんは神妙な面持ちのまま告げる。
「──冒険者になればモテる。っていう内容なの」
「…………は?」
聞かされた噂の内容を咄嗟に呑み込めず、王女様の前で素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
また冗談かと何度も脳内で反芻するが、耳がおかしくなったワケではなさそうだ。
何より本條さんの表情が本当のことだと示していた。
茫然としているのは俺だけでは無いようで、サクラとリリスも揃ってポカンと口を開けてしまっている。
……はぁ、なるほど。
白馬が一応は俺も関係してるって言ったのはこういうことか。
俺が冒険者やってるから、サクラとリリスと付き合えるようになったと思われてるみたいだな。
ようやく理解が追い付いたものの、あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎて頭を抱えるしかない。
隣の二人も呆れを隠さずにため息をついているくらいだ。
俺達の反応を待っていた本條さんも同様らしく、苦笑しながら話を再開した。
「噂について、現役冒険者の辻園くんはどう思ったかな?」
「お耳を汚すようで申し訳ないですけど、バカの発想としか言い様がないです」
言い出しっぺも鵜呑みにする方も揃いも揃ってバカしかいねぇのかよ。
冒険者という職業には数多くの危険が伴うし、今までに何十人もの同業者の死を目の当たりにしたこともある。
明日は我が身だと身構えないヤツから居なくなっていく。
どの界隈も注目を浴びるのはトップ層だらけで、そこに至るまでの苦悩や経験、スポットライトの外で活動する人達には目もくれない。
誰もが目を向けるくらい綺麗な花でも、土の中の長い根に気付かれないように。
そんなサッカー始めたらモテるみたいに、小学生と同レベルのテンションで冒険者を志すなんて命知らずにも程がある。
まぁ出会い目的でなった人も居るっちゃ居るけど……というか現ギルマスのバーディスさんだ。
もし当人が聞いたら『冒険者舐めんなって』ブチ切れるぞ。
「まるで私達が単なる強さで伊鞘君を好きになったような言い草……心外です」
「いっくんがどれだけ苦労したかも知らずにぃ、上っ面の綺麗なとこしか見てないのがムカつくんだけどぉ」
おっとぉ、左右の恋人の怒りが一気に高まってた。
発した言葉から察するに、遠回しに俺への好意をバカにされたのが原因だろう。
愛されてる実感が湧いて嬉しい半面、こんなくだらない噂が切っ掛けというのが悲しくもある。
「噂については分かりましたが、どうやって解決するつもりなんですか?」
「いっくんがどれだけ辛い思いをしたかの演説でもするのぉ~?」
「いきなり体育館に集められた挙げ句、恋人でも無い人の身の上話を聞かされて大人しく聞き入れられると思う?」
「あぁ~無理だぁ~」
サクラとリリスの問いに、本條さんは無理だと言わんばかりに返した。
ウチの学校の男子共、とことん信頼ねぇなぁ。
まぁ底値を更新し続けることばっかしてたし、自業自得としか思わないけれど。
「生徒会から注意を呼び掛けるとか?」
「いくら生徒会でも校外のことに口出し出来ないから厳しいね。それに冒険者活動を趣にした部活を申請もあったし……もちろん、そんな危ないことは却下したけど」
なんで通ると思ったんだろう。
バカばっかかよ……。
もう呆れて何も言えなくなってくる。
けれどこうやってわざわざ呼び出した以上は、きっと本條さんの頭の中では既に解決策が編み出されているんだろう。
現に彼女は心なしか誇らしげな面持ちを浮かべていた。
「だったらどういう方法で解決するのか。とは言ってもそんなに複雑なことじゃないよ」
そう言いながら本條さんは席を立ち、窓側に移動して俺達を見やった。
口元に人差し指を添え、ニマリと美麗な笑みを作る。
「百聞は一見に如かず、何事も経験が大事。というわけで生徒会主導で一つ企画してみたんだよね。
──冒険者体験学習会を!」
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次回は12月28日に更新します。
新作更新中!
【迷子になっていた妹を助けてくれた清楚な美女は、春からクラスの副担任で俺達の母親代わりになった件】
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