生徒会に呼ばれちゃった


 俺達が通う泉凛せんりん高校は日本では五校のみ存在する、異世界人の留学生を受け入れている学校だ。

 これは世界規模に照準を変えても百数校しかない。


 当然ながらこの留学制度も異世界交流の一環で、概ねは外国人の技能実習制度と同様だ。

 尤も後者との違いとしては、家族揃って地球で暮らせる点だろう。

 そういった人達の生活の保障を受け持つのが、お嬢の生家であるスカーレット公爵家である。


 各国の政府も住民票やら戸籍やらで色々と動いているが、直接的な支援を実施している公爵家の方が注目されがちなのが現状だ。


 閑話休題。


 登校した俺達は所属クラスである2ーC組の教室へと入った。


「それでは伊鞘君。またお昼休みに」

「楽しみにしててねぇ~」

「あぁ、またな」


 一旦、サクラとリリスの二人と別れた。

 俺にも彼女達にも友人付き合いはあるので、恋人だからと変に縛り付けるのは良くない。


 尤も校内トップクラスの知名度を持つ二人と違い、俺に関してはほとんどの男子達から目の敵にされているんだが。

 何せサクラとリリスは泉凛高校の二大美少女……故に憧れや好意を抱く男子は多い。

 そんな彼女達と交際している俺を良く思わないのは自明の理なワケで。

 紆余曲折あった今では遠目で睨まれるだけに留まっている。


 今日も今日とて背中に突き刺さる視線を感じながら自分の席に着く。

 そうして程なく、前の席に座っていた男子がこちらに振り向いた。


「おはよう、伊鞘。今日も元気そうで何よりだ」

「おはよ、白馬はくま


 挨拶をして来たのは中学からの親友である壱角いすみ白馬はくまだった。

 男子ながらサラサラと輝く白髪、キリッとした鋭い青色の瞳を持つ仏頂面がデフォのイケメンだ。


 俺が奴隷になる前の貧乏生活を知っている数少ない相手で、お嬢の元で暮らすようになってからも色々と相談に乗って貰ったりした。


「お嬢のおかげだよ。まさか奴隷になった方が良い暮らし出来るとは思わないだろ」

「違いない。だがその幸せを掴み取ったのは、紛れもない伊鞘自身の努力あってこそだ。親友として誇らしい」

「大袈裟だなぁ」


 やたらと俺を高評価してくれる親友に、面映ゆさを感じながら会話を続ける。


「こうやって話せるってことは、身体の方は大丈夫なのか?」

「あぁ。突然でなければ触れられても悪寒で済む。強いていうなら少々鼻につく匂いがあるが……まぁ耐えられる程度さ」

「恋人と進展する度に親友と物理的に距離が空くの、やっぱ複雑以外の感想が出てこねぇよ」

「僕だってそうだ。しかし高潔たるの血はどうしても抗い難いな」

「はは……」


 己の不甲斐なさを恥じるように歯を食い縛る親友に、堪らず渇いた笑いが零れる。


 白馬の正体は異世界において非常に珍しい幻獣──ユニコーンだ。

 心身の清らかな女性にのみ関心を抱く難儀な本能を持つため、十二歳以下の異性しか恋愛対象にならない。

 童話の王子様を彷彿とさせるイケメンなので告白こそされるが、悉くを手酷く振るため女子達の間で『ロリコン王子』なる悪名が付けられている。


 そんな彼にとって俺は唯一の親友だと認められる存在だったが、サクラ達と付き合ってから……まぁそのなんだ、恋人らしい進展があったことで友情にヒビが入ってしまったのだ。

 今でこそ落ち着いているが、不意に触れようモノなら喀血かっけつするほどヒドい発作が出る。


 軽く思い返していたら、ふと白馬が悩ましい面持ちを浮かべているのに気付く。


「伊鞘。一つお前の耳に挟んでおいて欲しいことがある。最近になって男子の間で広まっている噂についてだ」

「噂?」

「教えるか悩んだが、一応伊鞘にも関係していることだからな」

「俺に? また体育祭前のやっかみ関連ってことか」


 パッと思い付いたのがそれくらいだ。

 今も嫉妬の眼差しを一身に浴びてる状態だが、体育祭辺りは本当に針のむしろだった。


 だが白馬は俺の推測に対し、首を横に振って否定する。


「いいや、緋月達は関係ない。あるのは伊鞘の肩書きだ」

「肩書き……」


 親友の言葉を呑み込んで思案しようとしたその時だった。


 ──ピーンポーンパーンポーン……。


 予鈴じゃない、校内放送を報せる前の警告音が鳴った。

 それまで雑談で賑わっていた教室がシンッと静まり、壁に設置されたスピーカーへと注目が集まる。


『──生徒会からの呼び出しです。2ーC組の辻園伊鞘さん。本日の昼休みの際、生徒会室に来て下さい。繰り返します。昼休みの際、生徒会室に来て下さい。以上です』


 ……え?


 突然の呼び出しに茫然とする間、校内放送は静かに終わった。

 にも関わらず教室は依然として沈黙に包まれたままで、クラスメイト達の視線は俺一人へと向けられる。


 ──なんで!?


 ========


「どうして伊鞘君が、生徒会に呼び出されなければならないのでしょうか?」

「いっくん~。心当たりないのぉ~?」

「俺が何かした前提で聞くの止めてくれない?」


 普通に心外なんだけど。


 あれから時間が経った現在、昼休みを迎えた俺は昼食を手早く済ませてから生徒会室に向かっている。

 午前中、頭の中で呼び出される理由を考えてみたけど、やっぱり思い当たる節はなかった。

 放送が挟まったせいで、結局白馬から噂について何も聞けなかったし……。


 あとどうしてサクラとリリスも一緒なのかというと、俺に関わることなら放っておけないと付いて来たからだ。

 俺としてはありがたいけど、呼んでいない二人を見て不興を買わないか心配になる。

 呼び出したのがなら大丈夫だろうけど……。


 一人で考えても仕方が無い。

 不安を振り切って歩みを進めていき、俺達は生徒会室の前に着いた。


 あぁ、めっちゃくちゃ緊張する。

 何せこの先にいるであろう待ち人は泉凛高校の生徒会会長だ。

 彼女はあらゆる意味で有名かつ特別な人物なのだから。


 公爵家の奴隷として粗相のないように気を付けないといけない。


 気を緩めば震えそうな身体を強張らせながら、生徒会室のドアをノックする。


「2ーC組の辻園伊鞘です。今朝の呼び出しの件で来ました」

『──どうぞ』

「……失礼します」


 入室の許可を貰い、一言告げてからドアを開ける。

 生徒会室の内装は非常にシンプルだった。

 コの字に並べられた机、無機質なパイプ椅子、行事予定が書かれているホワイトボード……至って普通だ。


 だが窓を背に部屋の奥に座っている女子生徒……彼女こそが泉凛高校の生徒会長。

 光沢のある艶やかな黒髪に、常に微笑みを讃える柔らかな茶色の瞳、如何にも大和撫子といった雅な雰囲気の持ち主だ。

 そこに存在するだけで迂闊に言葉を洩らせない程の緊張が走る。


 それはサクラ達も同様で、少しでも緊張を和らげようと俺の制服の裾を摘まんでいた。

 そんな俺達の様子を見ていた女子生徒はクスリと小さく笑う。


「ようこそ生徒会室へ。いきなり呼び出してしまってごめんなさいね?」

「……いえ、問題ないです」

「ふふっ、そんなに畏まらなくたって良いよ? だって同級生じゃない」


 気さくげに話す彼女の言葉はありがたいが、それでもやっぱり無理なモノは無理だと声を大にして言いたい。

 いくら同級生といえど生徒会長……特に彼女相手には難題過ぎる。


 泉凛高校生徒会会長2ーA組、本條ほんじょう麗良れいら


 本名──レイラ・セシル・


 彼女は異世界を救った英雄、ヴェルゼルド王の長女にして現王家の第一王女。

 即ち異世界のお姫様なのだから。


 =======


 次回は12月22日に更新です。


 ↓新作更新してます↓


【迷子になっていた妹を助けてくれた清楚な美女は、春からクラスの副担任で俺達の母親代わりになった件】https://kakuyomu.jp/works/16816700425926526591

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る