生徒会長様からの依頼


「冒険者体験学習会……?」

「そう! 簡単に言うなら、職場体験の冒険者版っていうところだね」


 俺の聞き返しに本條さんはフフンと胸を張って答える。


 なるほど。

 実際に冒険者活動を体験して貰って、その過酷さを見に染み込ませることで現実を突き付けるって魂胆か。

 確かにそれなら下手に説明するよりよっぽど効果的だ。


「既に冒険者ギルドには依頼として企画は提出してるの。向こうも元々無謀に冒険者を志す地球人が多いことに懸念を懐いていてね。予想よりサクッと受理してくれたんだ」

「俺も何回か聞いたことありますよ。無根拠に調子に乗って外に行ったけど、怪我してから二度と来なくなったとかザラですし」

「運動部入ったけど筋肉痛になって退部したみたいな話だねぇ~」

「分からなくもないですけど、その例えは少々緊張感に欠けますよ」


 俺が挙げた例題をリリスが学生風に解釈する。

 分かりやすいけど、サクラの言うようにもっと深刻な例は山ほどある。

 

 まぁそれは一旦置いておこう。

 既に受理されている企画で俺に協力して欲しいことは……。


「俺が手伝うことって、参加者の指導役ってところですか?」

「ご明察! 地球人で冒険者、それもS級となればキミ以上に適任はいないでしょ?」


 俺の解答に満足げな本條さんがサムズアップを披露する。

 王女様とは無縁なはずのそれに、少しだけ苦笑してしまう。


「現地の冒険者と同郷出身の冒険者では説得力に差がありますからね。伊鞘君なら両世界の視点で指導出来ると思いますよ」

「いっくん、大役だねぇ~」


 俺の抜擢理由を知ったサクラとリリスが誇らしげな感想を口にする。

 なんとも面映ゆい気持ちにくすぐったさを覚えてしまう。


 そんな俺達の様子を本條さんはからかうようなニヤけ面で眺めていた。

 人前で申し訳ないと咳払いをし、気を取り直して次の質問をする。

 

「えっと、その学習会の日程や内容が書かれた資料ってありますか?」

「もちろん。これが生徒会で配るチラシだよ」


 気前よく渡して貰えたチラシを受け取り、さっそく目を向ける。

 冒険者としての視点を意識して読み込んでいく。

 

 日程は十一月の土日と祝日を使った二泊三日で募集は明日から開始……募集期間は二週間で締め切り。

 当日は参加者とベテラン冒険者による班行動が主となる。

 注意事項に関して特に違和感はないどころか分かりやすいし、目立った不備も見当たらない。

 

「どうかな?」

「問題無いと思います。ただ日程は一日とかじゃないんですね」

「普通の職場体験でも日数は掛けるでしょ? 冒険者だと尚更一日で教えきるのは難しいかなって」

「なるほど。でも俺が気になったのはそっちじゃなくて……」

「ん?」


 正直、二泊三日でもかなりスケジュールを詰めないと時間が足りないとは思う。

 けれど俺が一番懸念している部分は企画の方では無い。

 

 何が気になっているのかというと……。


「本條さんは知ってるか分からないので敢えて説明しますと、お嬢が俺を買ったのはサクラとリリスのエサにするためなんです」

「あら」


 少し……いやかなり気まずい思いをしながら理由を口にすると、本條さんは目を丸くしながらもある程度察してくれた。

 

 この学習会に協力する場合、彼女達と三日も離れることになってしまう。

 流石に二人はそんな短期間で体調を崩すほど柔じゃないけれど、吸血と吸精は俺にとっても恋人と交わすコミュニケーションの一環になっている。

 有り体に言えば三日でも離れたくないし寂しいってだけなんだが。


 それはサクラ達も同様で、日程を知るや否や眉を顰めて険しい面持ちを浮かべている。


「三日も伊鞘君と離れるなんて……」

「やだぁ~! リリ、そんなに待てないよぉ~!」

「……まぁそういうワケなんで、生徒会に協力するとなると彼女達にも同行して貰うことになります」


 まだ確定してないのにヒシッと腕を掴んで離さない彼女達の様子に、嬉しさと恥ずかしさが混じりながら苦笑する。

 そのやり取りを見ていた本條さんが手で口元を隠しながら微笑む。


「ふふっ。私としては人手が増えるなら願ってもないよ。そうやって恋人を大事にするとこも個人的には高ポイントだしね?」

「どこに好感持ってるんですか」


 条件として受け入れてくれたのはいいけど、妙に思わせぶりな言葉を含めるの止めて欲しい。

 呆れ半分に聞き返す俺に本條さんは少しだけ前のめりになり、若干の上目遣いをして魅せる。

 いやなにそのあざとい仕草、自分が可愛いって分かってないと出来ないヤツだよね?

 そんな俺の困惑を置き去りにしたまま彼女が口を開く。


「だって恋人でもない女の子のお願いをすぐに聞く浅慮な人より、キチンと線引きしてくれる人の方が安心出来るでしょ? 不公平だって喚く人もいるだろうけど、私からみれば自然とそう考えられるのって素敵だなぁって思うよ」

「え、えぇっと光栄で──だぁっ!?」


 下手に狼狽えないように表情を繕って返事をしようとしたら、またしてもサクラとリリスに両脇腹を抓られてしまう。


「だから痛いって!」

「い、伊鞘君がレイラ様に靡かないようにしてるんです」

「そうだよぉ~。リリ達、悪くないもん~」

「……これ、褒められたことと真逆の対応されてません?」

「そこは個人差だよ。むしろ辻園くんが大事にされてる証拠だね」


 聞いた話と違うと非難の眼差しを向けるが、本條さんはパチンといい顔でウィンクを決めて返す。

 嫉妬させるような原因を作った人に称賛されても嬉しくねぇ。


 この十数分で分かって来たけど、本條さんって王女様なのに性格はあまりよろしくないようだ。

 リリスとは別ベクトルのサディストぶりに項垂れるしかない。


 逸れた話を戻すために咳払いをして場を整える。

 

「……生徒会への協力に関しては、サクラとリリスの同行を認めて頂けるなら引き受けます」

「ほんと? 良かったぁ。それじゃ生徒会としてS級冒険者のキミへ正式に依頼っていうことで」

「はい。……ただ念のために言いますが、俺の身柄はお嬢のモノです。なのでお嬢から断るように言われたらその時は……」

「分かってるよ。でもエリナちゃんに関しては大丈夫。私の名前を出せば、あの子はすぐに察してくれるから」

「? えっと、それじゃよろしくお願いします」

「うん。こちらこそ」


 なんだかんだ振り回されたけど、依頼の受諾という形で落ち着いた。

 ちょっとだけ気掛かりなことを言っていたが、まぁ伝言通りにしておこう。


 こうして俺達は生徒会の企画に協力することになった。


 ========


 次回は1月5日です。

 

 今回が本年最後の更新となりますので、この場をお借りしてご挨拶を。

 今年一年間、ありがとうございました!


 

 

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