番外編③ サキュバス彼女と同じベッドで……
気付けば時間も過ぎて夜になった。
娘から俺が泊まることを聞いていたからか、ミランダさんは人数分の夕食を用意してくれた。
そうして入浴も終えて準備された寝室へ向かったのだが……。
案内された部屋は白やピンクが目立つラブリーチックな内装になっていて、これ見よがしにデカデカと一人で寝るには大きいベッドが置かれていた。
どう見ても女子の部屋……要はリリスの部屋だ。
「……娘の彼氏だからって同じ部屋に放り込むか?」
あのご両親は娘の身に何かあったらと心配しないのだろうか。
いや問題ないと信頼されてる可能性はあるだろうけど、昼間の反応を思い返す限りむしろヤれる内にヤっとけ感が拭えない。
というか行為を期待されている節すらある。
既に関係を持ってる以上、下手に断れないのがもどかしい。
「あは~。ママもパパもいっくんを気に入ってくれて良かったぁ~」
「この状況を見てそんなポジティブな捉え方する人、初めて見たわ」
困惑を隠せない俺とは対照的に、リリスはニコニコと嬉しそうに微笑んでいた。
彼女の装いがワンピースタイプのパジャマなのはせめてもの救いだろう。
サキュバスらしく扇情的なヤツを着て迫られた記憶があるだけに、流石に両親と同じ屋根の下では自重してくれて助かる。
まぁ一緒の部屋で寝る許可を貰えたってことは、娘の彼氏としては歓迎されてる方なのは確かだろうが。
それにしたって下世話が過ぎると思う。
「夕食がスッポン鍋だった時点で気付くべきだったなぁ……。美味かったけど」
「ママの大好物でぇ~リリも大好きだよぉ~」
「納得でしかない」
スッポンって滋養強壮や精力増強の効能食材として有名だし。
「ちなみにスッポン鍋が出た日はぁ~、パパとエッチしたいって合図でもあるんだぁ~」
「嘘だろオイ。よりにもよって娘の恋人が挨拶に来た日に託けてんの?」
ご馳走されたと思ってた背景でとんでもない誘いがあったよ。
しかも娘に周知されてるのに堂々と素知らぬ顔で提供してたのか。
え、気まず。
彼女の両親が盛ってるって情報を聞かされただけで凄く帰りたくなってきた。
出しにされた上に巻き添え食らった身としては複雑でしかねぇよ。
明日の朝にどういう顔で話せばいいのか分かんないだけど。
そりゃサキュバスだから無理もないだろうけど、出来れば俺がいない日にして欲しかった……。
少なくないショックから頭を抱えたくなっていると、不意にリリスが身を寄せて来た。
石けんの香りと甘いフェロモンがフワリと漂い、ドクンと心臓が大きく高鳴る。
その心音が聞こえたのか、リリスは紫の瞳に含みを持たせながら見上げながら口を開く。
「ママとパパも楽しんでるしぃ~、リリ達もしちゃう?」
「っ」
動揺するなっていう方が無茶だろう。
だだでさえスッポンを食べたせいで体が熱いのに、こうもあからさまに誘われて動じない男がいるだろうか。
無理に決まってるし、その相手が想いを通わせた恋人なら尚更だ。
もしここが屋敷だったら即答だったが……流石に彼女の両親と同じ屋根の下で行為に及ぶのは躊躇ってしまう。
しかしなけなしの理性では抵抗もままならず、気付けばベッドに押し倒されていた。
俺の腹の上に跨がったリリスは、紫の瞳にハートマークを浮かばさせながら妖艶に微笑む。
舌なめずりして見下ろす様はまさしくサキュバスのそれだ。
より加速する動悸に呼吸が激しくなる中、彼女から顔を逸らしつつ口を開く。
「い、いくらサキュバスだからって、学生の内に子供が出来るのは良くないと思うんですが……」
「そう言って現実でシたの最初の一回だけだよぉ~? 夢の中で吸精ついでなんて、なんか作業みたいでヤダぁ~!」
「ぐっ……」
咄嗟の言い逃れも呆気なく封殺されてしまう。
サクラに次いで彼女とも関係を持ったわけだが、妊娠のリスクを回避するために二回目以降は夢の中で行為に及んでいた。
当初は納得していたものの、リリスは内心で不満を感じていたらしい。
口にはしていないが、現実ではサクラの方が多いのも拍車を掛けているんだろう。
こうも言われては俺に反論の余地はない。
観念して長い息を吐くしかなかった。
「……分かったよ」
「あは~。いっくん、やっさしぃ~♡」
「ただしちゃんと準備しような。万が一があったらダメだし」
「ちぇ~」
了承の言葉に浮かんだ満面の笑みが、条件を付けた瞬間に苦々しくなった。
恋人を想って言ったはずなのにどうして不満げなんですかねぇ?
俺、何も間違ってないよな?
さてと、肝心のブツだが急だったので用意出来ていない。
じゃあ諦めるしかないかと言われればそれは違う。
今日一日で思い知らされた咲葉夫妻……特にミランダさんのことだ。
きっと枕の下とかに──うわ、本当にあったわ。
予測が当たって良かったはずなのに、半ば当たって欲しくなかった複雑さが悩ましい。
まぁ学生の間は妊娠しない方が良いって言う母親の情だと思っておこう。
そう思わないと色々と萎えそうだ。
何はともあれ準備も整ったため、リリスは楽しそうな笑みを浮かべながら俺の服を脱がしていき──。
========
「ぁ、はぁ~……いっくん、しゅごかったぁ……♡」
「テクがどうこう以前にもう少し体力付けた方がいいと思うぞ」
ベッドでヘトヘトになっているリリスに軽く助言を送る。
目的がおかしい気がしないでもないけど、無いよりはあった方が良いのは間違いない。
しかし当のリリスは頬を膨らませて不満を露わにする。
「運動苦手なんだもぉん。いっくんとのエッチは好きだけどぉ~♡」
「っ……軽い運動なら付き合うから一緒に頑張ろうな」
「はぁ~い」
体は疲労困憊でも口は減らない彼女にドキリとさせられ、顔を逸らして約束を取り付ける。
サクラやお嬢とも一緒に何かしらのスポーツをやって良いかもしれない。
そんなことを考えている時だった。
『あぁん、あなたぁ♡ 今日はいつにもまして凄いわぁ!!』
『まだまだ若い子達に負けるわけにはいかないからね!!』
『んぁぁ♡』
……なんか声が聞こえるんですけど。
いやスッポン鍋が合図だと聞いてたからまだ驚きは小さいけど、それにしたって声が大き過ぎじゃない?
なんとなく漂っていた甘い空気が一気に霧散していくのが分かる。
彼女の両親の嬌声って一発で何もかも台無しに出来るんだなぁ……。
「あはぁ~ママ達も盛り上がってるみたいだねぇ~」
「なんで俺よりリリスの方が冷静なんだよ……」
「昔からこうだから慣れてるだけだよぉ~。家の外にはガチガチの防音加工されてるけどぉ~、逆に内側は無加工なんだよねぇ~」
「とんだ欠陥建築だな!? え、待て待て。ってことはさっきまでの全部──」
「つ・つ・ぬ・け♡」
「ノォォォォォォォォッッ!!?」
「あはぁ~いい顔~♡」
あまりにも惨い真実に堪らず悲鳴を上げてしまう。
過去一とも言える羞恥心に悶える俺の頬を、リリスは愉悦極まりない調子で突いてくる。
こんのドSサキュバス、この瞬間のためにわざと教えなかったな!?
吸精ついでは作業云々は本心だろうけど、それはそれとしてちゃっかりしてやがる。
この叫び声も外には聞こえてない代わりに、ミランダさん達には丸聞こえなんだろうなぁ。
というか向こうはいつになったら終わるの?
このまま続けられるとだと寝れる気がしないんですけど?
この後のことを考えて頭を抱えていると、不意にリリスが抱き着いて来た。
むにゅりと豊満な胸を押し付けられ、彼女を意識せざるを得なくなる。
そうして目を合わせたリリスは、にんまりと愉しそうに微笑む。
「ねぇいっくん~。もう一回くらいしちゃう?」
「変に対抗心燃やさないで?! ひたすらに気まずくて行為どころじゃねぇよ!!」
「あはぁ~顔真っ赤で可愛いんだぁ~♡」
親の喘ぎ声を聞いたにも関わらず、対抗意識から尚も誘ってくるリリスを制止する。
ヘトヘトなクセにヤる気だけは底なしって、エロいより怖いの方が勝りそうだ。
付き合う前より積極的な彼女に困らされこそはするが、飽きとは無縁の騒がしさに少なくない愛おしさを感じながら咲葉家での夜を明かすのだった……。
無論、寝付くまでに相当な苦心をさせられたが。
もし次の機会があった時は絶対に耳栓を持ってこよう。
そう切に願うのだった……。
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