#4 奴隷と恋と浸りたい幸せ
どこかへいる両親へ
──放課後、友達や恋人と遊ぶクラスメイトが羨ましかった。
でも仕方がないって受け入れた。
何せ我が家は経営の才能が無いクセに、起業しては破産する父さんのせいで借金塗れだったから。
放課後は無理やり始めさせられた冒険者業に勤しむしかなくて、遊ぶ余裕なんてなかったのだ。
たくさん稼がないと、返済どころかその日の食費すら危うい。
生きるために青春なんて無縁だから諦めよう。
そうやって自分へ言い聞かせていたのだ。
──仲良く手を繋ぐ親子が羨ましかった。
仲睦まじい家族の姿を見る度に羨望が過る。
今夜の献立で盛り上がったり欲しい物を買って貰えたり、時には勉強や大会で成果を出したら褒められたり。
初めて依頼の報酬で得たお金を渡したら、両親は俺をよくやったって褒めてくれた。
自分の努力が家族の助けになれたんだと思って、次の依頼も懸命にこなしていったっけ。
もっと頑張ればきっと、我が家も普通の家族になれるんだと期待した……してしまったのだ。
冒険者として実績を積むにつれて両親の中で俺が稼ぐのが当たり前になったのか、お金を渡しても褒めてくれなくなった。
それどころか俺の稼ぎに胡座をかいて、より借金を作ったり生活費を競馬に費やすようになってしまう。
特に母さんからはもっと稼げないか催促されることが増えて、少しでも苦言を口にすれば家族のためなんだと我慢を強いて来る。
けれども同じ家族の俺は両親から何も貰ったことがない。
もちろん、ちゃんとしてくれって何度も説得した。
父さんは今度こそ成功するからって反省しないまま、別の事業に手を出すのを止めない。
母さんは家族の力を合わせれば万事問題ないなんて無根拠に言う。
ずっとずっと平行線だった。
分かってたんだ。
いくら稼ごうが、この人達が心を入れ替えることなんてないって。
途方もないクズなんだと誰よりも理解している。
だから専属契約を持ち掛けてくれたお嬢を突き放す選択をしたんだ。
その甲斐あってS級に昇格した依頼が洩れることはなかった。
とっとと縁を切るべきだったなんて、そんなの何度も考えたさ。
でも出来なかった。
どうしても期待してしまうんだ。
ひょっとしたら明日にでも────じゃないかって。
まぁ、奴隷として売られた今じゃ馬鹿馬鹿しい幻だったワケだけど。
奴隷にされたことに関してはそんなに気にしてない。
だって俺を諦めなかったお嬢が買ってくれて、今までよりもゆったりと学校に通えているし、サクラ達と仲を深めることも出来た。
幸せ、あぁ確かにそうだ。
人生で一番幸せなんだって言える。
しかも俺なんかには勿体無いくらいの綺麗て可愛い女の子が、三人揃って俺を好きになってくれたんだ。
凄く嬉しかったし、付き合えたらもっと幸せになれるんだと理解している。
そのために出す答えは決まってるのに……後一歩が踏み出せない。
原因は彼女達じゃなくて俺自身で、その理由をうまく言葉に出来ないせいだ。
ただ分かるのは、彼女達との未来を考えようとするといつも両親の顔が浮かんで来ること。
二人とも、どうしてるんだろうか。
また誰かに迷惑を掛けていたりしたらイヤだなぁ。
なぁ、父さん、母さん。
「──久しぶりだな、伊鞘。元気そうで何よりだ」
そっちも元気そうだな。
なんだよその態度。
「お母さん、伊鞘と離れていた間はとても寂しかったわ」
いきなり居なくなってたからな。
だったら連絡の一つでも寄越せば良かっただろ。
「なんでも公爵家の奴隷になったそうじゃないか。それなら伊鞘が頼んでくれれば、親の俺達を支援してくれるに違いない」
どうだろう、分からない。
奴隷の立場でそんなこと言っても無理に決まってる。
「伊鞘は家族のために頑張れる優しい子だものね」
そうだよ、ずっと頑張った。
でも二人は俺を捨てたじゃん。
「だから」
「だから」
──いつもみたいに家族を助けてくれるよな?
俺は……。
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