美少女達の水着披露


 地球との交流が始まって三十年の間、異世界には無かった施設やイベントが流入して来た。 

 その一つがパーティー前の慰安先となっている異世界ビーチランド『アクア・ドーム』だ。

 遊園地みたいに大がかりな工事が必要ないことから、異世界で最も早く建設された海水浴場である。

 青く澄んだ広大な海に豊富な飲食物を取り揃えたモール型のテナントエリア、果てはリゾートホテルにも泊まれる地球文化に触れやすい側面から有名な観光名所だ。

 

 馬車に乗って着いたもののシーズン真っ只中なのもあって、入場ゲート前には気が遠くなりそうなくらい長い行列が出来ていた。

 

「うわぁ、凄い人の波……」

「リリ達は馬車の中だから涼しいけどぉ、普通に並んでたら暑さで倒れちゃいそぉ~」

「それでもこうして並ぶということは、よほど楽しみなのでしょうね」


 各々の感想を述べつつ、受付が済んだのか俺達の乗っている馬車は行列を尻目にゲートを通過していく。


 スカーレット公爵家だからここも顔パス……という訳では無く、お嬢が事前に購入していたプレミアムパスのおかげだ。

 優先的な入場はもちろん、テナントエリアでの食事や浮き輪などのレンタル代もタダになるし、ホテルで泊まる部屋もVIPルームという好待遇を受けられる。

 当然それだけのパスが安いはずがなく、一度の販売数は極僅かな上に並の貴族でも手が出ない高額の支払いが必要だ。

 

 具体的な金額は聞くのが怖かったので知らない。

 そもそも日帰りだからホテルには泊まらず、スカーレット家の本邸に向かうことになっているので一部無駄になってしまっているが。 


 勿体なさを感じつつも目的地に辿り着いた俺達は馬車を降りる。


「では我が輩が迎えに来るまで、存分に遊び倒すがよい」

「え、一緒に遊ばないんですか?」


 ここまで御者として馬車を動かして来たジャジムさんが来ないことに驚きを隠せなかった。

 思わず聞き返すと、彼は心配するなという風にニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「姫様達の荷物を屋敷まで持って行く必要があるのでな。護衛に関しても小僧がいれば心配もあるまい」

「そりゃいざという時は身体張るつもりですけど……」

「であれば問題あるまい。それにここは異世界故、小僧も惜しみなく全力を出せるであろう」

「叶うなら荒事は無いのが一番良いんですが」


 トラブルが起きる前提で対処を求めないで欲しい。

 ナンパくらいならお嬢達でも簡単に処理できるだろうから、俺が出張るような事は起きないだろう。

 フラグじゃないよ?


 ともかくジャジムさんと別れた俺達は、男女別で更衣室へと入った。


 ハーフパンツ型の水着とラッシュガードを羽織る。

 三分と掛からずに終わった。

 男の着替えなんてそんなモノだ。


 更衣室を出てからビーチへの通路でお嬢達が来るのを待つ。

 先に行くより、こうした方がすぐに合流出来るしナンパも躱せる。

 

 五分くらい経ってからようやくお嬢達が出てきた。


「イサヤ、待たせたわね」


 最初に声を掛けてきたのはお嬢だ。

 胸元に大きなフリルがあしらわれた水色のワンピースタイプの水着で、サイドテールで束ねた金髪はそのままであるため、可愛らしさと快活さを重ね合わせた雰囲気を漂わせる。

 手首に巻かれた赤とオレンジのシュシュが良いワンポイントになっていた。


「似合ってるよ、お嬢」

「ふふっ、ありがと」


 素直な称賛に対して彼女はフフンと胸を張って自慢気な笑みを浮かべる。

 こういう余裕を持った受け取り方はいい女らしい。

 

 そう思いながら次はサクラに顔を向ける。


 サクラの水着はビスチェタイプの淡い緑色のトップスに、ボトムの上には白と黄色の花柄のパレオを巻いていた。

 移動中に被っていた麦わら帽子の紐を首に掛け、ハーフアップにした黒髪も相まって優雅さを全面に押し出した組み合わせとなっている。

 彼女に合いそうな水着のイメージとして大人っぽいモノと答えたが、まさかここまで完璧に仕上げてくるとは予想外だった。


「どうでしょうか? 伊鞘君」


 目が合ったサクラは恥ずかしそうに赤らめた顔を逸らしつつ、それでも視線は俺の方に向けたまま似合っているか尋ねる。

 いじらしさと水着という新鮮さが合わさり、思わずドキリと胸が弾んでしまう。

 

 可愛い……って呆けてないで早く答えないと。


「え、っと……凄く、綺麗だ。サクラにとても似合ってる」

「っ」


 見惚れそうになった頭をなんとか働かせ、改めて感想を述べる。

 今にも燃え上がりそうなくらい恥ずかしいがなんとか言えた。

 

 感想を聞いたサクラは目を大きく見開いて肩をビクッと揺らす。

 目をギュッと閉じて何かに悶えるように全身を震わせたと思うと、長い息を吐いてから顔を伏せたまま俺の着ているラッシュガードの裾を摘まむ。


「あ、ありがとう、ございます。伊鞘君に似合ってると言って欲しくて、頑張った甲斐がありました」

「っ! お、おう……」


 思いもよらぬ言葉になんとも歯切れの悪い返事になってしまった。

 いやだって褒めただけでこんな反応されると思わなかったから仕方ないだろ。


「へぇ~? あたしより随分と熱の籠もった感想ね?」

「からかわないでくれよ、お嬢……」


 ニマニマと意地悪に微笑むお嬢に、力の無い返事を口にする。


 相手は高嶺の花な美少女のサクラだ。

 動揺しない方が逆に神経を疑う。


 ドキドキと落ち着かない心臓を手で押さえつつ、最後にリリスへと視線を向ける。


 なんで彼女を最後にしたのかというと、女性陣の中で一番のスタイルを誇る上に当人の性格を鑑みた結果だ。

 そうして目にしたリリスの水着姿は……凄かった。


 トップスは肩紐がフリルになっている黒のビキニで、本人曰くHカップもある大きな胸がこれでもかと露わになっている。

 ボトムもサイドが紐で結ばれており、全体的に色気の醸し出すグラマラスな着こなしだ。

 緩やかな波を描くピンクの髪とのコントラストが実に映えている。


「えへへぇ~。似合うでしょ~いっくん?」

「うっ」


 俺と目が合った彼女はパチリと瞬きをした後、両手を膝に添えながらわざとらしく前屈みになった。

 当然、そんな姿勢になれば両腕に挟まれた彼女の巨乳がむにゅりと形を変える。

 

 扇情的な光景に堪らず声を唸らせてしまう。


 その反応が面白かったのか、リリスはニヤリと妖しい笑みを浮かべながら俺の胸元を指で突く。

 ラッシュガードの前を締めていないため、指の柔らかさが直接伝わって来る。


「ちょ、リリス!?」

「あはぁ~いっくんの胸筋ここ、かったいねぇ~♡」

「また誤解を招く言い方を……!」

「なんでラッシュ着てるのぉ~?」

「聞けよ」


 ツッコミスルーされると泣いちゃうぞ?

 相変わらず自由人だと呆れつつも、問いに答えるためにラッシュの襟を指しながら口を開く。


「俺の首筋、サクラが付けた吸血痕があるだろ? あんま人前で見せて良いモノじゃないから隠してるんだよ」

「そっかぁ~。でもぉリリ的には悪い虫が寄って来ないようにぃ~、逆に見せ付ける方が良いかなぁ~?」

「そもそも俺に声を掛けるような物好きはいないだろ。な、サクラ?」

「えっ!? えぇっと……う、うぅ~……!」


 冗談めかしてサクラに話題を振ったのだが、彼女は深刻そうに悩ましげな面持ちを浮かべる。

 いやそんなに葛藤するような内容じゃないと思うんだが。

 顔を真っ赤にしてうんうん唸るサクラに戸惑いを隠せずにいると、不意に左腕が柔らかな感触に包まれる。


 ギョッと驚きながら見やれば、いつの間にかリリスが俺の左腕を抱き寄せていたのだ。

 もちろん彼女の大きな胸に挟み込まれる形になっている。


「うぉぉい、何やってんだ?!」


 水着になったせいで鮮明に伝わる魅惑的な柔らかさに困惑の声を漏らしてしまう。

 慌てる俺の反応が面白いのか、リリスは実に良い笑みをこちらに向ける。


「だってぇ~リリ達、すぅっごく見られてるんだよぉ~? いっくんから離れたらぁ、あっという間にナンパされちゃうかもしれないからぁ、こうやって仲良しアピールしてるんだぁ~」

 

 リリスの言い分は尤もだ。

 更衣室から出てきた三人は、すぐさますれ違う男達の注目を掻っ攫っていた。

 彼女達と会話する俺を羨望と嫉妬から敵視する眼差しもセットだ。

 学校じゃすっかり無くなっていたので、逆に懐かしさすら感じてしまう。


 中には恋人や奥さんがいるのに見惚れているヤツもチラホラいる始末で、ぶん殴られて当然の自業自得だ。


 俺の存在がナンパ避けになるというのなら構わない。

 だがしかし……。


「だからってそんなにくっつくことないだろ!?」

「わたわたして可愛いんだぁ~。内心じゃおっぱい当てられて嬉しいクセにぃ~♡」

「っ! うううううう嬉しくねぇわ!!」

「見事に説得力ゼロね」


 お嬢から呆れの眼差しを向けられるが、建前でも強がらないと容易く主導権を握られるから必死なんだよ!

 というかそろそろ離れてくれないとマズい。

 経験上、ここから何が起きるのか予想出来てしまう。


 そう思った矢先、空いている右腕にも似たようで異なる感触が押し付けられる。

 ギギギと油の切れた機械みたいにゆっくりと右に向けば、予想通りというべきかふくれっ面のサクラが抱き着いていた。


 ほらぁ、こうなると思ったんだよ……。

 

「男避けのためですから、べ、別に他意はありません!」

「言われなくても分かってるから、そんなに密着する必要ないぞ~」

「むぅ~!」

「痛い痛い! 額をグリグリってねじ込むな!!」


 何故かご不満らしいサクラの攻撃に肩が焼けそうになる。

 

 まだ砂浜に踏み入れてすらいないのに、こんな状態じゃ先が思いやられそうだ。

 解いてはくれなさそうなので仕方なく両手に花のまま、俺達四人は通路を抜けて海へと足を運ぶのだった。


 

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