最終プログラム、決闘ゲーム開始!


『皆さん、お待たせ致しました! いよいよ体育祭最終プログラム『決闘ゲーム』の時間です! 全クラスから一名ずつ、計九名によるトーナメント式のガチンコ対決が始まります!』


 熱血感溢れる実況のテンションに、会場の空気が一気に燃え上がる。

 それもそのはず、この決闘ゲームは泉凛高校の体育祭で一番の人気があるからだ。

 何故なら……。


『さて、改めてルール説明をさせて頂きますね! 各選手には特殊な素材で作られた防具と木剣を着けて貰います。そして対戦相手と一対一で勝負して頂き、どちらかが気絶か降参をすれば勝者が決まります! 魔封じの腕輪を着けていらっしゃる方はご安心を! 今ゲーム中においてのみ、一時的に解除が許可されます!』


 魔封じの腕輪の解除、つまり地球で表立って魔法が使えるようになるからだ。

 異世界に行ったことがない地球人にとって数少ない、魔法を目に出来る機会という側面がある。

 毎年、決闘ゲームで垣間見た魔法に憧れて、その力を修めようとする学生は多いと聞く。


 大半は簡単に習得出来ない現実に打ちのめされるのだが……今は関係ないか。


『まぁ観戦者を巻き込むような大規模魔法は即失格となりますけどね。腕利きの回復魔法使いも待機していますので、アフターケアも心配ありまっせん!』


 欲を言えばビフォアもケアして欲しいけど、それじゃ競技を行う意味から問い質さないといけない。

 怪我を減らすために防具と木剣を装備させるんだ。


 説明が終わると大きなモニターが運ばれ、そこにトーナメント表が映し出される。


 参加する俺達には事前に配られているが、改めてみても変わったところはない。

 その表を見た限り俺がユートの当たることになるのは決勝戦になる。

 つまりお嬢の命令を遂行するためには、そこまで勝ち残ることが最低条件だ。


 面倒だけど……負けるわけにはいかない。


『なお、勝ち上がった順位によって点数が加算されます! 優勝すれば逆転出来るかもしれませんよー? では、各選手は準備に移って下さい』


 クイズ番組なんかによくある、過程を無視した逆転要素に歓声が沸き起こる。

 ここまでの種目を通して、一位は俺達のクラスだ。

 他のクラスからすれば優勝出来るチャンスなので、出場した選手に期待を寄せるのは当然だろう。


 そもそも決闘……つまり戦闘において優れた人物が出ている。

 勇者がいなければ、本来ウチのクラスからはフレアさんが参加していたはずだ。


 周囲の囃し立てがあったとはいえ、参加枠を奪う形になってしまったワケである。

 リリスの見舞いに行く前、当人に参加したかったのか尋ねたのだが気にしてないと返された。

 竜族だからって必ずしも戦闘に興味があるようではないらしい。


 何はともあれルール説明を聞き終えた俺達は、控えスペースへと進んでいく。


「辻園伊鞘」

「……なんだよ」


 その途中、いつの間にか近くに来たユートに呼び止められた。

 煩わしさを隠さずに顔を顰めながら要件を聞く。


 対してヤツは気にした素振りを見せないまま、何故か得意げな面持ちを浮かべる。


「今回は逃げなかったね」

「逃げられなかった、が正しいけどな」


 主に嫉妬に狂った男子共のせいで。


「そんなことは構わない。重要なのはキミと決勝まで当たらないという点だよ」

「はぁ……それで?」

「まだ分からないのかい? もしボクと戦うよりも先に負けたら、その時点でこちらの不戦勝。つまりキミはリリス達と関係を絶つことになる」

「へぇ、自分は決勝まで残る前提なんだな」

「当然さ、ボクは勇者だからね」


 不思議な気分だ。

 コイツの言ってることは相変わらずウザいのに、前ほど過剰に反応していない自分がいる。

 ゲームの画面越しでキャラクターの会話を読んでるような、そんな感覚だ。

 でもやっぱウザい。

 この分じゃすぐに蓄積していきそう。


 それよりもコイツ……。


「リリスのことは聞かないんだな」

「保健室で安静にしているんだろう? 無事で良かったよ」

「……ふぅ~ん」


 心配要らないとばかりに微笑むユートを見て、ますます冷ややかな気持ちになっていく。

 こんなヤツの人生をねじ曲げてしまったかもと思い込むなんて、リリスも心優しいのだと実感する。


「それだけなら話は終わりだな。俺、第一試合なんだよ」

「そうか。精々初戦敗退にならないようにね」


 早々に話を切り上げてユートと別れる。


 実行委員の男子から防具を受け取り、体に装着していく。

 硬いのに軽い……試しに木剣で叩いてみると伝わって来る衝撃はそこまでない。

 例え全力で振るったとしても、壊れる心配はなさそうだ。


 そうして装備を整えたところで、今度はサクラが近付いて来た。


「伊鞘君。リリスは?」

「あぁ。さっき起きたところ。もう少し休んでから戻るってさ」

「意識が戻ったのなら安心しました。伊鞘君の試合が終わったら私も様子を見に行ってきます」


 俺と見守りを交代してからも心配で仕方が無かったんだろう。

 リリスの容態を簡潔に伝えると、彼女は胸を撫で下ろして安堵した。


「おぅ。カッコつけて出てきたから、結果報告もよろしくな」

「ふふっ、任されました。では吉報を伝えられるように、まずは勝たないといけませんね」

「仰るとおりで」


 たおやかに微笑むサクラと会話していると、さっきまで心の中で渦巻いていた激情が少しだけ落ち着いた。

 無意識に肩に力が入っていたようだ。


 その様子を察したのかサクラは両手で俺の手を包み込み、紅の瞳をまっすぐに向けて告げた。


「──いってらっしゃい、伊鞘君」

「あぁ、いってくる」


 多くは語らなかった。

 けれども短い言葉の中に、俺が為そうとしていることを後押しする思いが感じ取れる。

 送り出してくれた彼女に恥じないよう、気を引き締めて挑もうと応えた。


 そうして俺はグラウンドの中央へ足を運ぶ。


『第一試合の選手が揃いました! まずは現在五位の3ーA組、バルオーグ=ベイア選手! 熊獣族らしさ溢れる恵まれた体格は威圧感に満ちています!』

「フンッ。人間……それも地球人など相手にもならん!」

『対するは首位の2ーC組、辻園伊鞘選手! 今年の決闘ゲームで唯一の地球人ですが、騎馬戦のような大活躍に期待です!』

「よろしくお願いします、先輩」


 十メートルの距離を挟んで睨み合う中、実行委員が俺と先輩に着けられている魔封じの腕輪を鍵で解除していく。

 外したからといって特別に体が軽くなったりするワケじゃない。

 とはいえ枷がない状態というのは気持ち的に楽だ。


『それでは決闘ゲーム第一試合、スタートです!!』


 そしてついに、決闘ゲームの火蓋が切って落とされた。

 

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