イケメン転校生は勇者様で……




 サクラへの告白が終わったと思ったら、今度はリリスへの告白が始まった。


 なんなんだこれ。

 俺が知らなかっただけで、こんなにも告白って頻発する出来事なの?

 形容出来ないデジャヴに頭を抱えたくなる思いだ。 


「自分以外の告白の場を見るのは初めてですけれど、これは確かに出て行き辛いですね……」


 一緒に隠れているサクラがそう呟く。

 さっきまでの自分が当事者だった光景を前に気まずそうな顔をしていた。


 その気持ち凄く分かるぞ。

 たまたま居合わせただけなのに、なんでか自分が悪いことをした気分になるんだよなぁ。


 共感を覚えている俺達に気付かないまま、告げられた想いに対してリリスは口を開いて……。


「ゴメンなさい~。リリ、先輩のこと知らないのでお付き合い出来ないですぅ~」


 なんとも軽い調子で断った。

 まぁリリスの恋愛観を思えば当然の返事だ。


 呆気ない振られ方をした猫耳先輩はポカンと目を丸くする。


「えっと、聞き間違いかな? 俺、陸上の県大会で優勝してて──」

「そうなんですねぇ~」


 自らの功績を語る猫耳先輩だったが、リリスの返答は如何にも興味なさげなモノだった。

 いやホントに微塵も関心が無いな。

 女子が使う『さしすせそ』の『そ』から言ってる時点で明らかだ。


 いっそ猫先輩が憐れになる空気に包まれる。


「な、なんで俺じゃダメなんだよ! 誰とも付き合ってないんだから良いだろ!」


 自分が毛ほどの興味を持たれていないと悟ったのか、彼は血相を変えて憤慨する。

 その言い分はあまりにも身勝手だった。


「誰と付き合うかはリリスの自由なのに……馬鹿馬鹿しくて見てられませんね」

「同感」


 似たようなことを言われたからか、サクラが嫌悪感を露わにした。

 なんだってこうも諦めの悪いヤツが多いんだか。

 呆れるを通り越して辟易していると、感情的になった猫耳先輩は言った。


「それとも辻園ってヤツと付き合ってんのか!?」

「!?」


 とんでもない誤解と共に俺の名前を。


 またかよ!

 人の名前が拡散するの早くないか!?

 しかもリリスと付き合ってるっていう炎上付きとかやってらんねぇ!!


 愕然とする俺が居ると思いもしていない猫耳先輩の疑問に、リリスは目を少し見開いてから思案するように視線を逸らす。


「いっくんとは仲良しさんですけどぉ~、付き合ってないですよぉ~」

「で、でも精気は吸ってるんだろ?」

「雇い主が用意してくれたエサですからぁ~。いつも美味しく頂いてまぁす」

「ぐぐっ……」


 俺との交際を否定しつつも、恍惚とした笑みで感想を述べる。

 出来たらその、俺へのヘイトを煽る断り方はしないで欲しかったなぁ。

 こっちに報復が来そうで恐いんだよ!


 当然ながら猫耳先輩は悔しそうに歯をギリギリと軋ませていく。

 なんとなく嫌な予感がした俺は、いつでも飛び出せるように身構える。 


「モテるからって偉そうにしやがって! サキュバスなんだから大人しくヤらせろよ!!」


 程なくして逆上した猫耳がリリスへ襲い掛かろうとする。

 結局こうなるのかと呆れながら、俺は地を蹴って一気に走り出して……。


「危ない!!」

「きゃっ」

「ぐえぇっ!?」


 駆け付けるより先にリリスと猫耳先輩の間に誰かが割って入る。

 その人物は先輩の鳩尾に肘を食らわせていて、見事なカウンターを決めていた。


 猫耳先輩は獣族としての頑丈な身体故に意識は保っていたが、敵わないと感じたのかお腹を押さえながら去って行く。

 一体誰が……そう思って割って入った人に目を向ける。


 短く切り揃えられた茶髪、内面の溌剌さが表れた勇ましい緑色の瞳、顔立ちは白馬に勝るとも劣らないイケメンだ。

 ネクタイの色からして同学年だと分かるが顔に見覚えはない。

 目まぐるしい状況の中、彼は場が落ち着いたと悟ると勢いよくリリスの方へ振り返り爽やかに微笑む。


「怪我は無いかい?」

「え、う、うん……」


 突然のことに混乱を隠せないながらもリリスが返事をする。

 ここでやっと俺とサクラは茫然から立ち直って彼女の元へ駆け寄った。


「リリス!」

「大丈夫ですか?」

「いっくん、サクちゃん? どうしてここにぃ?」


 当たり前というべきかリリスは俺達が都合良く現れた疑問を口にする。

 先にサクラが告白されていた現場に俺が遭遇したこと、その後でさっきの状況になってしまったと説明した。

 一通り聞き終えた後、リリスは眉を下げながら申し訳なさそうな笑みを浮かべる。


「そっかぁ~。なんか心配掛けちゃってゴメンねぇ~」

「いいえ、悪いのは諦めの悪い向こうの方です」

「あぁ。リリスに怪我が無くて良かったよ」


 二人で慰めた後に、改めてリリスを助けてくれたイケメンへ視線を向ける。

 こっちの話が終わるまで待ってくれていたみたいで、自分の番だと悟った彼はニコッと人当たりの良い笑みを浮かべた。


「初めまして。ボクは今日この学校に転校して来たユート・ブレイブランだ。同じ学年としてよろしく」

「ブレイブラン……まさか子爵家の?」

「知ってる家柄なのか?」

「えぇ。下級貴族ではありますが、練度の高い兵士の育成が特徴の武闘派です。ゲートの検問所の衛兵もブレイブラン領で鍛えられた精鋭なんですよ」

「へぇ~」


 お嬢の顔パスで通った時のおじさんもそうだったのかもしれない。

 それに戦闘に秀でているのならさっきの一撃の精度にも納得だ。


 感心する俺の反応で気をよくしたのか、ブレイブランは殊更笑みを深めながら胸を張る。


「その通り! 跡継ぎとしての社会勉強と目的を兼ねて留学に来たんだ。同じ学校に通うことなるんだから畏まる必要は無いよ。気軽にユートと呼んでくれ」

「じゃあそうさせて貰うよ、ユート。それで俺は──」

「あぁすまない。先にどうしても伝えたいことがあるんだ」

「つ、伝えたいこと?」

「うん」


 こっちも自己紹介しようとするより早く、ユートに制止される。

 わざわざ人の話を遮ってまで言うのだから、よほど大事なことなんだろうか?


 そう思っていると、ユートはスッと流れるように膝を折って屈む。

 さながら姫に忠誠を誓う騎士のような振る舞いだ。

 そのまま彼女の手を取って、真摯な眼差しで見つめながら言う。


「十二年前の約束通り、立派な勇者になって会いに来たよ。高校を卒業したら結婚しよう──

「はぇ?」

「「え゛っ?」」


 人前にも関わらずリリスに向けたプロポーズの言葉を。


 約束?

 勇者?

 結婚?


 そんな長いことを言った訳じゃないのに、脳が理解するまでに時間が掛かってしまう。

 だが嫌でもすぐに意味を呑み込んだ俺は……。


「ええええええええええっっ!!?」


 驚愕から空気をぶち壊すくらいに叫んでしまった。

 サクラも声こそ出さなかったが、同様に愕然としているのが分かる。


 なんなんだよ今日は!

 告白現場に二回も遭遇しただけに留まらず、プロポーズまで目にするとか厄日かなんかか!?


 キャパオーバー寸前でフラつきそうになっている内に、リリスは自身へのプロポーズを前にして紫の目を大きく見開く。

 どれくらい静寂が続いただろうか。

 やがてリリスはゆっくりと口を開いて──。


「──全然記憶にないのでお断りしまぁ~す♪」

「え」

「ええええええええ!?!?」


 断り方かっる!?

 あまりにあっけらかんとした拒否にまた叫んでしまうのは許して欲しい。

 二転三転しすぎで付いて行けそうにないし、もう帰って良いか?

 

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