サービスたっぷりのスペシャル吸精



 咲葉さん──リリスと名前で呼び合うことになり、一歩前進した喜びに俺の心は安らかさに満ちていた。



 ──目隠しされて両手足を椅子に縛られるまでは。



 吸精する時はこうなるってド忘れしてた。

 リリスと屋敷に帰って来て、吸精用の部屋に入った途端にこれだよ。

 それでも二回目だからか、ちょっと慣れてきてる自分が恐い。


「さ~てとぉ。さっきも言ったけどぉ、たぁっぷりサービスしてあげるからねぇ~」

「サービスって単語がこんなに恐く聞こえる日が来るとは思わなかったよ」

「助けてくれたお礼なんだからぁ~、ヒドいことなんてしないよぉ~」

「目隠しと両手足が縛られてる時点で十分ヒドいんですが」


 表情は分からないけど、リリスがのほほんとした調子で言う。

 しかし見えないし動けない身からすれば、怖じ気づくなという方が無茶な話である。


 身体も声も強張っているのが面白いのか彼女はクスクスと笑う。


「あははぁ~。それじゃお仕事もあるしぃ~、吸精始めちゃうねぇ~」

「おぅ、こうなったらどんとこい」


 開始を告げられたのでいざ来いと構える。

 ドSに攻めてくるのは分かってるから、一回目より比較的余裕は保てるだろ。


 さぁいつでも来い!


 ……。


 ……。


 ……。


 ……おい、なんで来ない?


 待てども何も起きないまま時間だけが過ぎていき、静寂が長引いていくにつれて不安が募ってきた。

 どうしたんだって呼び掛けたいけど、それだとなんか期待してるみたいで逆に恥ずかしい。

 我ながらみみっちいプライドから沈黙を貫いていると、段々と耳が冴えていく感覚に包まれる。

 寝る前の静かな時に自分の鼓動が聞こえてくるアレだ。

 つまり何が言いたいかっていうと……。


 ──シュル、シュル……。


 なんか後ろから布擦れが聞こえて来るんだよ!!

 え、待って何してんの??

 まさか人の後ろで着替えをしてんのか? 


 いやいや落ち着け俺……焦ってはいけない。

 布擦れが聞こえるからって、ここで着替えてるはずがないだろ。

 こうやって勘違いさせるためにわざと音を立てて聞かせてるに違いない。


 そう結論付けたら、脳裏に手で服を擦ってニヤニヤしてるリリスの顔が浮かんで来る。

 なんだかんだ彼女のことも分かって来てるなぁ。


 そこはかとない嬉しさに頬が緩んでいきそうな時だった。

 後ろにいたリリスが前に回り込んで来たのだ。 


「ねぇねぇいっくん~」

「? なんだ?」

「目隠し、外して欲しい~?」

「えっ? そりゃ外して欲しいに決まってるけど……」

「それじゃ解いてあげるねぇ~」


 思わぬ提案を疑問に思いながら応じると、リリスは実に軽快なノリで目隠しのために巻いていた布を解き始めた。

 一体どういうつもりなんだろうか……?

 そんな疑念が頭に浮かぶが、次の瞬間には塵も残らないレベルで吹き飛ぶことになる。


「はい、解けたぁ~」

「う、まぶし──ぶぉっ!!!?」


 塞がれていた視界が解放された途端、目の前にこれでもかと見せびらかされた大きな谷間が映り込んだ。

 完全に油断していた俺は堪らず噴き出してしまう。


 おっぱいちっっっっっっか!!


 反射的に頭を後ろへ仰け反らせたものの、身体は変わらず椅子に縛られたままなので首だけしか動かせなかった。

 勢いよく動かしたせいで少しだけ首を痛めてしまうが、そんなことより目と鼻の先にまで迫っていた大きなソレに注意を奪われてしまう。

 目前に巨乳を見せつけられたのもそうだが、近いせいで甘ったるい匂いがこれでもかとするので心臓がバクバク鳴ってしまっている。


「なっ、なんな、なんっっ!!?」

「あっはははぁ~。いっくんったら顔真っ赤だよぉ~♡」


 動揺を露わにしている俺をリリスが意地悪そうに笑う。


 だがそんなことはないと反論するより先にあることに気付く。

 リリスの服装が学生服からメイド服に変わっていたのだ。

 彼女のメイド服は谷間や太ももが露出しているミニスカタイプなので、その豊満な身体に目が向いてしまいそうになる。


 ん?

 服が替わってるってことは、さっきの布擦れはガチの生着替えだった?

 ってことはほんの少しの間だけとはいえ、俺の後ろで下着姿になって……。


「あぁ~。今ぁ、後ろで着替えてるとこ想像したでしょぉ~?」

「! ししし、してないって!」

「ふぅ~ん、そっかそっかぁ~」


 心を読んだかのような図星を衝かれ、必死に否定するもリリスはニマニマと察したような笑みを浮かべる。

 想像していたと見破られてるのは明らかだ。


 クッソ……ここまで掌の上だったかぁ。

 わざと音を聞かせるところから既にリリスの術中だったのだ。

 ものの見事にドキドキさせられては完敗を認めるしかない。 

 めちゃくちゃ動揺したし照れるけれど……悪い気がしないっていうのが一番厄介だ。


 個人的にはもうお腹いっぱいの気分だが、まだリリスから精気を吸われてない。

 つまり彼女の攻め手はこれで終わりじゃないということだ。


「ふふ。いっくん、さっきからチラ見してるのバレバレだよぉ~?」

「っ、わ、悪い……」


 俺が仰け反っている間もずっと視界にチラついていたが、見られる側からしたら丸わかりに決まってるよなぁ。

 咄嗟に謝罪したところ、リリスは大して気にした素振りもなく手をヒラヒラと振る。


「謝らなくてもいいってばぁ~。リリが好きでこーゆー格好してるんだしぃ~、見えてたら見ちゃうのが男の子だもんねぇ~」

「だからって見られるのはイヤだよな?」

「ん~そこは人によるとしか言えないかなぁ~。ちなみにいっくんなら良いよぉ~」

「え」

「吸精のためには見て貰った方が都合良いもぉん」

「あ、そっすか……」


 上げて下げられたことで声が沈んでしまう。

 けどまぁそもそもリリスの吸精を受けられる事自体、白馬以外のクラスの男子からすれば羨ましい状況か。


 そう気を取り直していると、不意にリリスから呼び掛けられる。


「そんないっくんにもんだぁ~い! 正解したらご褒美あげちゃうよぉ~」

「問題?」

「リリのおっぱいはAカップかHエッチカップのどーっちだぁ?」

「はぁっ!?」


 唐突な二択問題に愕然から大声を出してしまう。


 なにそのセクハラまっしぐらのクイズ。

 しかも選択肢に作為的な意図しか見えない……その大きさでAは無いだろ。

 実質一択だが、こんなに正解が言い辛い問題はズルいとしか言い様がない。


「ほらほらぁ~どっちだと思う~?」

「っ……」


 答え辛い俺を更にからかうかのように、リリスは自らの大きな胸を持ち上げる。

 うわぁそんな簡単に形変わるんだ……柔らかそ~。

 って、待て待て誘惑に負けんな俺!

 つい釘付けになってしまう視線をどうにか逸らしつつ、なんとか穏便な答えがないか頭を働かせる。


 しかし次の瞬間、俺はまだまだリリスを舐めていたと突き付けられることになった。


「難しいならヒントあげるねぇ~。アルファベットのGの次はなぁ~んだ?」


 何がヒントだ。

 もう答え言ってるようなもんじゃねぇか!


 それはわざと外すという逃げ道を塞ぐのも同然の所業だった。

 こんなお膳立てされて外したらバカ以外の何物でもない。

 何が何でもHエイチカップだと言わせる強固な意志が窺える。

 不毛でしかねぇなぁ、この腹の探り合い……。


 ともかく、俺には正直に答えを言うしか選択の余地はなかった。

 そう理解していても、女子の前でカップ数を答えるという羞恥は凄まじい。

 今すぐにでも身投げしたいくらいだが、生憎と身体が椅子に縛られてる状態じゃそれも不可能だ。


 だからもう……腹を括るしかない。


「……、す」

「ん~?」

「ぇ、ぇぃち……カップ、です……」


 カラカラの雑巾を絞ったみたいな小さい声で答えを口にした。


 あぁ恥ずかしすぎて死にたい。

 一秒後に全身が燃えて灰にならねぇかなぁ。


「惜しい~! いっくん、もう一個の方で言ってみてぇ~?」

「ねぇ号泣して良い? あまりにも無情すぎて泣いちまいそうだよ」

「実はGからHエッチに大きくなったんだよねぇ。いっくんはHエッチカップのおっぱいなんてイヤ?」

「ついに問題って建前すら捨てやがったな」


 そんな答える人を辱めるだけの問いがあっていいのかよ。

 答えたくねぇ……でも答えないと吸精終わらないしどうしようもねぇ……。


 バクバクと喧しい心臓の音に囃し立てられるように、俺は苦虫を噛み潰したように唇に力を入れながら口を開く。


「ぇ、エッチな方が、いい……です!!」

「あはぁ~だぁいせぇかぁい! それじゃご褒美あげるねぇ~♡」

「は、ちょ──」


 身体の内から爆発しそうな羞恥心を押し殺して答えた途端、リリスは正解と祝福しながら動き出した。


 ──ムニュンッ。


 そんな効果音が聞こえたと同時に、俺の視界が肌色一色に染め上げられる。

 端的に言えばリリスに抱き寄せられたことで、彼女の豊満な胸に顔を埋める格好になったのだ。


「~~~~っ!!」


 状況を理解すると同時に、顔面を埋め尽くす極上の柔らかさから心の底から形容出来ない情動が全身を駆け巡った。


 なんだこれ。

 温かくて柔らかくて心地良い……幸せが溢れて止まない……。

 理想郷はここにあったのか……このまま枕代わりにして寝たいなぁ……。


 段々と意識が朧気になっていく。

 そういえばなんか頭から吸われてる感じがする。


 あ、吸精中なのか。

 つむじに口付けて吸精していると気付いた時には、リリスは肩を押して俺の顔を離していた。


「んっん……やだぁ~すっごい美味しぃ~♡ はぁん、クセになっちゃうかもぉ~♡」


 リリスは恍惚とした笑みを浮かべながら満足そうに語る。

 一方で骨抜きにされた俺は前後不覚の状態で茫然自失としていた。

 とてもじゃないが受け答えする余裕はない。


 ただ言えることは一つ。


 ──めっちゃくちゃ気持ちよかったです。


 これが夢見心地かと悟りながら、俺はゆっくりと意識を手放すのだった……。

 


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