サディスト系サキュバスの生ASMR



 吸血を終えて10分後。


「よろしくねぇ~辻園くん~」

「は、はい……」


 お嬢に言われた通り、次はサキュバスである咲葉さんに吸精させる時間となった。

 緋月さんと違い、咲葉さんはフレンドリーな様子で一安心だ。

 しかし、俺はどうしても理解出来ないことがある。


 それは……。


「あの、咲葉さん。一つ質問して良いですか?」

「同僚なんだからぁ~敬語じゃなくて良いよぉ~」

「あ、そうなのか? ……じゃなくて! なんで俺は拘束された状態で椅子に座らされてるんだ!?」


 ユルいテンションで誤魔化そうったってそうはいくか!


 そう俺はお嬢と入れ替わりで部屋に入って来た咲葉さんによって、何故か目隠しをされた上に両手足を縛られているのだ。

 おかげで動けやしない。


「俺がお嬢の命令で手が出せないようになってるって知ってるよな?」

「うん~見てたからねぇ~」

「じゃあ縛る必要ないだろ! 緋月さんといい、俺ってそんなに信用ない!?」


 警戒心が強いとは訊いてたけど、ここまで信じられてないと普通に傷付く。


 すぐに信じろとは言わないが、もう少し手心を加えて欲しい。

 じゃないと今度は俺が人を信じられなくなる。


 困惑を隠せないでいる俺の反応を見て、咲葉さんはクスクスと笑う。


「あはぁ~ごめんねぇ~? 辻園くんのことは信じてないワケじゃなくてぇ~、リリの吸精に必要だからなのぉ~」

「俺を拘束することと吸精にどんな因果関係が……?」

「ちゃぁんとあるよぉ~」


 まるで結び付かんのだが。

 疑問が晴れない俺の様子がおかしいのか、咲葉さんが笑いながら背後に回ったのが気配で分かる。


 何をする気なのかと思った瞬間だった。



「──こぉ~ゆぅ~ことぉ~♡」

「うひぃっ!?」


 それはあまりにも耐え難い感覚だった。


 耳に吐息が掛かるくらいの近さで咲葉さんの声が聞こえた途端、鼓膜を通して脊髄と脳にぞわりと電気が走ったのだ。

 咄嗟のことで判別が付かなかったが、言うなればそれは……快感だった。


 言葉にすればそれだけのことだが、今の俺にはとてつもないクリティカルヒットを叩き出している。

 何せ目隠しをされているため、視覚以外の五感──特に聴覚が鋭敏になっているせいだ。


「あはぁ~。辻園くんってぇ~可愛い声で鳴くんだねぇ~♡」

「お、ぉう、ぅぁ……!」


 咲葉さんの蕩けるような声音が鮮明に響く度に、背筋にゾクゾクと走る快感で声を洩らしてしまう。

 女子に情けない声を聴かれる恥ずかしさから手で口を防ぎたくなるが、生憎と両手は縛られているため動かせない。

 そのもどかしさが余計に俺の羞恥心を加速させていた。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 これは緋月さんの吸血とは違うベクトルでヤバいヤツだ!!


 何がヤバいってとにかく恥ずかしくて堪らない!

 もう今にも顔から火が出そうなのに、胸の内はギンギンに滾ってやがる!

 聴覚だけじゃなくて嗅覚も敏感になってるから、咲葉さんの甘ったるい匂いで頭がクラクラしてるんだよ!

 確かにこっちの方が痛くないけど、理性がゴリッゴリに削られていくのが恐過ぎる!!


「んふふ~♪ 辻園くんの顔ぉ、真っ赤だねぇ~?」

「だ、誰のせいだと……!」

「反論よわよわぁ~♡ でもこれがリリの吸精なんだよぉ~」

「え? これが?」


 思っていたのとはあまりに掛け離れていた方法だと明かされ、戸惑いを隠せず聞き返してしまう。

 困惑する俺の反応が面白いのか、咲葉さんはクスクスとサキュバスらしい小悪魔的な笑い声を零したと思うと……。


 ──不意に俺の胸に細い何かを這わせるような感覚が走った。


「ぅ、ぐ……!」

「ふふっ……」


 くすぐったさから逃れようと、反射的に背中が仰け反ってしまう。

 咲葉さんに何かされているのは確実なのに、目隠しのせいでその詳細が一切分からない。

 だから俺はただただ耐えるしかなかった。


「こうやって辻園くんの身体をエッチな気分にさせるとぉ~、精気が全身にブワぁ~って広がっていくのぉ~。どんどん興奮させていけばぁ~とぉっても濃いのが溜まっていくんだよぉ~」

「オイ待ってくれ。その原理だとつまり俺は……」

「えへへぇ~わかっちゃったぁ~? リリが良いって言うまで我慢してねぇ~? ほらぁ~……がぁ~まぁ~ん~♡」

「ノォォォォォォォォっっ!!?」


 生殺しという拷問を前にして俺は叫ばずにはいられなかった。


 咲葉さんはユルいテンションとは裏腹に、人が羞恥心で悶える姿を見るのが好きなサディストだったのだ。

 ある意味で緋月さん以上に厄介な地獄になるなんて思いもしなかった。


「ねぇ~辻園くん~」

「な、なに……?」


 休憩して持ち直した余裕が見る影もなく死んでいく最中で、咲葉さんから意味深な感じに呼び掛けられる。

 色んな意味でドキドキが収まらない俺に対して、彼女はある言葉を投げ掛けた。


「さっきぃ~リリの吸精を『これ』って言ってたよねぇ~?」

「言ったけどそれが何!?」

「ちょっと気になったんだけどぉ~。






 ──どんな方法で吸精すると思ったのか教えて欲しいなぁ~」

「──……ぇ?」


 一瞬、脳がフリーズする。


 程なくして再起動した後、遅れて言葉を理解した瞬間……かつてないレベルで湧き上がった羞恥心で全身が火照った。


 顔は今にも火が出そうなくらい熱くて、心臓の鼓動も破裂しそうな勢いで早くなっている。

 呼吸が上手く出来てる自信がない。

 もう過呼吸一歩手前なんじゃないか?


 いやだって仕方ないだろ?

 サキュバス相手に吸精って言ったら……ねぇ?


 そっち以外で想像出来るヤツがいたらこっちが知りたいくらいだわ。


「い、言えるわけ、ない、だろ……」

「セクハラだとか言わないよぉ~? だってリリが訊いたんだしぃ~……あぁ~でも仕方ないかぁ~」


 恥ずかしさで震えながらも断るが、咲葉さんは寛容な言葉から続けて言った。


「──辻園くんってぇ~『童貞どぉてぇ』だもんねぇ~?」

「!!?!??!?!」


 心臓を貫く勢いの図星に驚愕するあまり、声にならない悲鳴を上げてしまう。


 今、明らかに息が止まった錯覚がしたんだけど。

 待って待って、え、なんで分かったの?

 そりゃバイト漬けで彼女とか居たことないけど、経験の有無なんてカミングアウトでもしなきゃ分からないはずだろ??


「あはぁ~すぅっごく恥ずかしそぉ~♡ 隠してても匂いで分かるよぉ~? リリ、サキュバスなんだもぉ~ん」

「お嬢ぉぉぉぉ! 一秒でも早く来て俺を殺してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」


 初対面の時点でバレていた羞恥に耐えきれず、さっき助けを乞うたお嬢に向けて今度は殺人教唆をこいねがった。


 せっかく拾った命を投げ捨てるのも厭わない程、咲葉さんの攻めがえげつないんだから。

 美少女のエサになるのって、こんなにもしんどいとは思わなかった。


「それでぇ~? 辻園くんはどんな吸精を想像してたのぉ~?」

「人の貞操を暴いた直後なのによく平然と話を戻せたな!? 分かったよ! もうここまで辱められたんだからやけくそで答えてやるよ!!」


 貞操まで赤裸々にされた以上、失うモノは何もないと開き直る。

 その勢いのままに俺は息を整えて言う。 


「サキュバスから吸精されるって聴いて……その、ぇと……せ、せせ、こ……ぅぃをして、ですね、あの…………アレから、出た、た~……ヤツを……吸うと、思ってました……」


 はいやっぱ無理でした。

 いくらサキュバス相手でも女子の前で猥談する度胸はないっす。


 結局日和ってしまったが、言わんとすることは伝わったと思いたい。

 そう思って咲葉さんの様子に意識を向けると、いつの間にか耳元まで迫ってることに気付く。

 ビックリして息を詰まらせた瞬間……。


童貞どぉてぇさんなのに頑張ったねぇ~。だからぁ~これはご褒美だよぉ~──あぁむっ♡」

「あ──」


 右耳が生暖かい感触で包まれたと同時に、身体中を駆け巡っていた熱が一気に外へと放たれた。

 後になって思えば、咲葉さんはこの時に俺の精気を吸っていたんだろう。


 しかし今の俺にそんな冷静な思考は欠片も残っていなかった。

 なにせあまりの気持ち良さから目の前が真っ白になり、全身はビクビクと痙攣していたからだ。

 耐えている間は苦痛極まりなかったのに、いざ解き放たれるとクセになってしまいそうな程の幸福感で満たされていた。


 悔しい、でも悪くない……。 


「んくっ……んくっ……ちゅぱっ。はぁ~~ん……♡ ごちそぉ~さまぁ♡」

「おぁ、ぁ……」


 やがて耳から口を離した咲葉さんが、恍惚とした声音を零す。

 その色っぽい吐息が耳に掛かるだけで、身体がビクンと震えるくらいに敏感になっていた。

 多分、今めちゃくちゃ人に見せちゃいけない顔になっている気がする。


 未だに引かない余韻に思考が覚束ない中、俺の目を覆っていた黒い布が解かれた。

 照明の光の眩しさに思わず目を閉じてしまうが、ゆっくりと瞼を開けて前を見る。


 パチリと、咲葉さんの円らな紫の瞳と目が合った。

 吸精をしてお腹が膨れたからなのか、ただでさえ可愛らしい彼女の表情が魅惑的に映っていて、逸らすことも出来ずに見惚れてしまう。

 そうして無言のまま咲葉さんは俺の両手足を縛っていた縄を解いていく。


 茫然としている内に手際よく解いた彼女は余所にドアまで進み、そこで足を止めてこちらに顔だけを向ける。


「辻園くんのせーき、とぉっても美味しかったよぉ~。次もいぃ~っぱいごちそぉしてねぇ~」


 にんまりと微笑んで手を振りながらそう告げて、咲葉さんは部屋を出て行った。


「そんな風に言われたら断れるワケねぇだろ……」


 一人残された俺は自由になった手で熱を帯びた顔を覆いながら、そんな独り言を零すのだった……。


=====


今後はストック尽きるまで毎日更新よ~。

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