それぞれの適正


「随分失礼な奴が来たな」

「マイリィ、許してちょうだい。この子たち影の世界から今日来たばかりなのよ」

「何? 影の世界からだと?」

「そうよ。私が連れてきたの」


 マイリィと呼ばれたドワーフがじろりと睨み上げると、アルフォンソは頬に手を当ててニコリとほほ笑んだ。


「アル……。なんで影の人間をこっち側に連れてきたんだ?」

「うん? まぁ、そうね。自分探しの旅をしてもらうため、かしら」

「ハッ、そんな表向きな話をしてるんじゃあねぇよ。おめぇいつ腹割って話やがるんだ」

「まだ話せないのよ。ごめんなさいね。それに今日はこの子たちに見合う武器を売ってほしいのと、適性を視てもらいたいの」


 二人のやり取りは何やら意味深だった。

 マイリィの話を聞く限りでは何か理由があってアルフォンソは自分たちをこちら側に呼んだと言う風にも聞こえる。当然、それを聞き逃さなかった二人はこそこそとまた話をし始める。


「ねぇ、今のどういう意味だと思う?」

「どうって……つまりそう言うことだろ?」

「やっぱそうだよね……」

「黒い失せ物を集めるコレクターと関係があるはずだよな」

「そいつ魔王なんだよきっと」


 そんな会話をゴソゴソと続けていると、ふいにアルフォンソは二人を手招いた。


「こっちへいらっしゃい。まずは二人の適性を鑑定してもらいましょ」

「……」

「……」


 呼ばれるままに二人がカウンターに近づくと、マイリィはギョロギョロとした目でこちらを見上げて来る。

 ドワーフたちは皆身長が低いが、このマイリィは殊更小さく見えるのはこのカウンターのせいだろうか。椅子に座っているせいもあるのだろうがカウンターからは生首のように顔だけしか見えない。

 何も言わずにじろじろと稔を見つめるマイリィに、居心地が悪くて思わず目を泳がせてしまう。


「お前」

「は、はい」

「お前はソルジャーだな。今はひ弱だが鍛えればいい線行くはずだ。あと、多少の回復魔法も使えるし攻撃魔法も一つ二つは覚えられるが、大したのじゃねぇから期待するなよ」


 そう言うとマイリィは椅子から降りると、カウンターの奥から一本の剣を取ってきて再び椅子によじ登りカウンターの上にその置いた。

 見た感じただのロングソードのように見えるが、柄の部分に幾つか何かを嵌め込めそうな穴がある。


「今のお前にはこれがお似合いだ。腰にぶら下げてる剣はしばらく扱うこたぁできねぇだろうよ。そんなひょろっこい体じゃな」

「……っ」

「で、その剣わしに預けてみないか」

「え……」

「何、悪いようにはしねぇし、時が来たらちゃんと返すよ。ただ今のお前じゃ扱えない上にタダの荷物にしかなんねぇだろ?」


 ずばりそうなのだが、これを預ける事には多少の気が引ける。まして今日、今さっき出会ったばかりのドワーフに、だ。

 困惑してアルフォンソを見ると、彼はニッコリ笑って頷き返してくる。


「大丈夫よ。こう見えてマイリィは良い奴なの。間違っても換金したりがめたり粗末な扱いをするようなドワーフじゃないわ。そこは私が太鼓判おしてあげる。ほんとよ?」

「……ほんとに?」


 訝しむ稔に、マイリィは不機嫌そうに顔を顰めた。


「そんなに信用できなきゃずっと引き摺って持って行くんだな。ただ、こっから先は預かってくれるような場所はねぇぜ? その剣のせいでモンスターに襲われて逃げ遅れたなんて話は、辛気臭くてわしは聞きたくねぇけどよ」

「……」


 稔は言葉に詰まった。確かに、マイリィの言葉は大いにあり得る事だ。それに何より今ここで一番信用できるアルフォンソがそう言っているのだからと、稔は腰に下げていた剣をカウンターの上に置いた。


「へぇ。こりゃあ随分立派な剣だ。じゃあ、確かに預からせてもらうぜ」


 マイリィはそう言うと、稔にとっては重たいその剣をひょいと片手で軽々と持ち、再び椅子を下りて店の奥に置きに行きまたすぐに戻って椅子によじ登る。


「それで、この剣な。この穴の開いている部分に魔法石を嵌めることが出来る仕様になっている。魔法がほとんど使えないお前向きだ。よく考えて石を使い分けるこった。一つ魔法石をサービスで付けてやるから、お代は1万5千ペアンでどうだ?」

「あら、魔法石も付けてくれてるのに随分破格ね?」

「珍しい剣を預からせてもらうんだ。これぐらいの値段が打倒だろうが」

「あらぁん、マイリィったら優しいのねぇ」

「うるせぇ。で? どうすんだ? 買うのか買わねぇのか?」


 ギロリと睨まれるようにマイティに稔は「買います」と言って金貨の袋をドンとカウンターの上に置いた。


「俺たち、ここのお金の価値がまだよく分かってないんで必要な分だけここから取って貰っていいですか?」

「なんだ。ガキの買い物もできねぇお子ちゃまだったのかよ。……ッチ、しょうがねぇな」


 マイリィは袋の中から必要な分だけを取るとすぐに金貨の袋を横に置くと、今度は美空の方をじろじろと見た。当の美空は緊張感とワクワク感が拭えない様子でマイリィの口が開くのを待っている。


「お前」

「うん!」

「お前はシーフだな」

「えぇ~っ!」


 思っていた物と違ったのか、美空は思い切り不満そうに声を上げた。

 美空自身は、自分にとって一番の適正と言えば最前線に立って戦えるもの以外ないと考えていたのだろうが、それを遥か斜め上に行くものを言い渡されたようだ。


「シーフしょぼっ!!」

「何だ。シーフは案外役に立つんだぞ?」

「だって魔法も使えないし剣も使えないじゃん! つまんない!」

「つべこべうるせぇ嬢ちゃんだな。シーフは察知能力も高けりゃ、敵からお宝をぶんどることだって可能だ。上手く行きゃあ一攫千金を手にする事だって夢じゃあねぇぞ?」


 魅力満載に言ってのけるが、美空はぷっと頬を膨らませてふてくされた。

 もっとカッコ良く戦える物が良かったと、その表情に隠す事無く駄々洩れで現れている。さすがのマイリィも大袈裟なため息を履いて椅子を下りると、しばらくして小さなポーチを一つ持って戻ってきた。


「ほらよ」

「何これ」

「シーフに大事な七つ道具が入ってる。ロープ、合鍵用の輪、ナイフ、フック、楔、針金、手鏡だ。どれも冒険には欠かせない道具ばかり。ここまで揃ってるものを渡すこたぁねぇんだけどよ、お前にはこれの他にブーメランを付けてやるよ。これを1万3千ペアンで売ってやろう」


 美空は差し出されたブーメランを見つめ、物珍しそうに見つめる。


「いいんじゃない? ブーメランって結構便利よ。攻撃も出来るし」

「……むぅ……。じゃあいいよこれで」


 最後のアルフォンソの一声で、美空は承諾するとマイリィは金貨の袋からまた必要な分だけを取って突き返して来た。

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