第52話:脱出/入院
氷室はなんとか
(はぁ…はぁ…あと、もうちょっとですねぇ)
氷室はリリを背中へと背負い直し、さらに意識のないリリが落ちないようにスーツの袖を破いてリリと己を縛り付ける。そして一歩、また一歩と手すりをのぼいき、入り口を蓋をしているマンホールをずらすと頭だけを外に出す。
「あっ、氷室さん!?」
「おや、
「ええ、氷室さんのお陰で私と同じ部屋に居た子供達は一緒に逃げ出すことが出来ました。 …背中に背負っているのは天野…?」
「ええ、詳しいことはあとで説明しますからとりあえずここから離れましょうか。手をお借りしても?」
そう言って氷室はマンホールから名瀬の手を借りて這い出ると、リリを背負い直す。そして応援を呼ぼうとポケットから携帯を出そうとしたとき、地面が揺れ始める。
「おおっ?」
地震かと氷室が考えたとき、ふと己が先程まで居た下水道から不可思議な音が聞こえるのに気がついた。咄嗟に氷室は横に立つ名瀬を巻き込みながら、そのマンホールから距離を取って倒れ込む。
「氷室さん、なにをっ!?」
そう名瀬が叫んだその瞬間、爆音を伴ってマンホールから火柱が上がる。熱気と爆風が一番近くにいた氷室と名瀬、そしてリリを巻き込んでいき、すぐに収まっていく。
「…これで終わったんですかねぇ」
氷室は煙の上がる下水道を見ながらつぶやく。
遠くから聴こえてくるサイレンの音を聞きながら、氷室と名瀬は立ち尽くすのであった。
――――――
そして数日後のこと。
リリは病院の個室に居た。真っ白で清潔なベッドの上で、天井をただ見つめていた。リリは奏矢と出会ってから半月ばかりのことを思い出していた。
(…なんだったんだろう)
思い返せばまるで夢の様であった。だが、テレビをつけると、ニュースでは
(はぁ…奏矢さん、居る?)
返事は、ない。リリはため息を吐いてぼんやりとした記憶を振り返る。最後に奏矢と分かれた時のことを。なにか囁かれたような気もしたが、なにを囁かれたのか思い出せない。そして時間潰しにつけたテレビを見ていると、個室のドアがノックされる。
「はーい」
「…よう」
個室の扉が開き、そこにはクラスメイトの
「…お見舞いに来たよ。具合はどう?」
「あっ、うん。もうすぐ退院出来そうって先生が」
「そっか…」
暫く二人の間に沈黙が流れる。
二宮は喋るまいか喋らないか微妙な表情を浮かべていたが、口を開く。
「"利用して悪かった"って」
「えっ?」
「最近、寝ると男が出てくるんだよ。なんか無精髭を生やしたおっさんがさ。それであたしに言うんだよ。『全部嘘だ、利用して悪かった』ってリリに伝えてくれって。 …だから、伝言を伝えに来たんだ。 …これを言いたくてここにきただけだから、あたしは帰るね」
そう言って立ち去ろうとした二宮であったが、突然リリのベッドの上へと倒れ込む。驚きながらも、リリは二宮を支える。
「首がっ…熱い…」
「二宮さん、大丈夫っ!? 誰か、誰か来てくださいっ!」
リリはナースコールを押しながら叫び声をあげる。一方で二宮はうなじの辺りを抑えながら低く唸り声を上げるばかり。『どうしよう』、そう考えていたリリの目の前で、二宮の首から銀の液体が滴り落ちた。
(あっ)
リリは咄嗟にその銀の液体を受け止める。片手でも十分に握り込められる程度のそれは、手のひらの上でぷるぷると震えていた。
(これって、まさか)
リリはそれについて考えてると、すぐさまナースコールを受けた看護師と個室を警備していた警察官が個室へと入ってくる。リリはそっと銀の液体を背中に手を回して隠した。
「看護婦さんっ、急に友達が倒れてっ!」
意識を無くした二宮は看護師たちにストレッチャーに乗せられると、個室から連れだされる。その喧騒の中、リリはそっと机の引き出しを開けると、小さなガラス瓶の中に銀の液体を移したのだった。
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