第49話:身落ち

(一体、なにがどうなってるっ!?)



 奏矢は不定形な体を揺らしながら考えるが答えはでない。一方で拳銃を突きつけた体制で氷室は固まっていた。目の前で起きた出来事に理解が追いつかなかった。



「…天野リリが急に現れた? まさか、さっきのワンピースの子は天野だったのか?」




 目の前で意識を無くした少女を見て、氷室は絞り出すような声をあげる。理解の範疇を超えたことに遭遇してばかりの氷室であったが、目の前で見たことのある少女がいきなり現れたことに驚きは隠せなかった。



(…少々驚きましたが、まあ。天野リリが一連の事件の鍵であったのは間違いなかったですねぇ? とりあえず天野を連れ帰ってから尋問しますか)



 氷室はリリを抱き抱えると一歩、前へと踏み出す。

そのときに足元の銀色の液体――奏矢を踏み潰してしまう。その瞬間、氷室の背筋に電流が走ったかのような衝撃を受ける。



(おい、刑事さんよ。その子をどうするつもりだ?)



(!? 頭の中に、声が?)





 氷室は体が動かせなくなる。そして足元の銀色の液体が、冷たい感触を伴って脚をゆっくりと昇ってくる。氷室は冷や汗を流しながら、されるがままになっていた。



(…くそっ、なんで氷室こいつに寄生できない?)



「き、寄生…?」



 氷室は体を強張らせ、そして理解する。一連の事件は天野リリではなく、この不可思議な銀色の液体のせいだと。そして、次に寄生されるのはリリではなく、己だと言うことを。



「…や、やめ」



「…は、は。あははっ」



 突如として場違いな笑い声があたりへと響き渡る。

氷室はなんとか瞳だけを動かしてその笑い声の主を見やると、そこには先程に奏矢の手によって首だけになったイズミが笑い声を上げていたのだった。



「あはははっ! 私が、怪人飼い犬反抗される手を噛まれるを想定していなかったと思うかしら〜? 言っていなかったけど、アンタたち怪人には私に害を及ぼしたら自壊するようにしてあるのよ〜」



(テメェ…!)



「アンタが苦しんで死ぬところをみたいけど、まあ、この格好じゃしね〜。もうこっちの世界じゃ良くなさそうだし、一旦逃げさせてもらうわ〜」



 首はだけとなったイズミの髪の毛が触手のように動き始める。そして生首に髪の数本の触腕がついた蛸のような形態になると、一気に動き始めたのだった。



 

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