第48話:決着
「かっ…がふっ」
「ほら、さっきみたく笑えよ」
奏矢の千切れた右腕がイズミの怪人の核を握りつぶしたあともイズミの体内で蠢き回る。そしてイズミは口から真っ黒な体液を吐き出しながら、ゆっくりと体が溶けて行く。
「な、んで…」
「ああ、なんで千切れた右腕がって? さっき、お前が時間をくれたおかげで触手を伸ばせたからだよ」
千切れた奏矢の右腕の切断面から、細い銀色の糸が伸びており、それの根元は奏矢の背中へと繋がっていた。そしてその細い銀糸の微かな動きに反応して、千切れた右腕も動く。
「じゃあな、イズミ"所長"」
奏矢はそう言い放つと、右肩から腕の代わりに生えさせた銀色の杭を大きく振りかぶる。そしてイズミの首へとその杭を振り抜いた。
「あっ…」
それがイズミの最期の言葉となる。
イズミの首は地面へと転がっていく。残された体は糸の切れた人形のように倒れるとタールへ変化して行く。そしてすぐさま揮発していくと、イズミ
「…ふぅ」
奏矢は自身の落ちた右腕を糸で引き寄せると、元の位置へとくっつける。右腕と肩の接合部に銀の体液が滲んで、元あったように自由に動くようになる。一方で体のあちこちに出来た傷口にはいつものように銀の被膜が張られずに、痛々しい傷口がそのままであった。
(…傷が治らない?)
不審に思う奏矢であったが、突然奏矢の頭に硬い感触が当たることで思考が中断される。奏矢の背後から声を掛けたのは、拳銃を構えた氷室であった。氷室は左手で血の滲んだ脇腹を押さえつつ、右手で拳銃の引き金に手を掛けて奏矢の頭へと照準を向けていた。
「…氷室刑事、だったか? なんでここに」
「いやぁ、まったく。部下を追ってきたら大変なことに巻き込まれましたねぇ。あなたのその服装、先日のショッピングモールにいらっしゃいましたね? …ところで私の名前をご存知で?」
「…アンタの可愛い部下なら近くに捕まってるよ」
奏矢は話題をわざと逸らす。
普段ならば拳銃など撃たれたところでまったく問題などなかったが、不思議と今は無理に抵抗をする気が起きなかった。
「ええ、知ってますよぉ。私が見張りに囮になっている隙に、
「あー、まあ。敵じゃないよ、たぶん」
「…全部話してくださいよぉ。その上で判断します」
「あーあ、まあ…っ!?」
会話を続けることで体力の回復を図っていた奏矢であったが、突如として口から銀の体液が吐き出されて行く。まるで命そのものが吐き出されていく感覚を覚えながら、奏矢は"最初にリリに寄生したとき"のことを思い出す。そして止めどなく吐き出された銀色の液体が地面に広がったとき、そこには変身が解けたリリと不定形に広がる銀のスライム―――奏矢へと分かれていたのだった。
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