第47話:死闘
奏矢の右腕が宙を舞う。
ねじ切られた傷口から銀の色の体液を撒き散らしながらも、なんとか絡み付いたイズミの腕を振り払って距離を取る。
「はぁ…はぁ…」
奏矢は自身の落ちた右腕がイズミに踏まれるのを見ながら、大きく肩を上下させる。なんとか肩の傷を手で押さえながら、銀の体液が流れ落ちるのを押さえつける。一方でイズミもまた額からも真っ黒な血を流しながら、奏矢を睨みつける。
「へへ…」
奏矢はイズミの余裕を無くした顔を見ながら笑う。
だが、次の瞬間にはイズミが猛然と一直線に突っ込んでくる。光の明滅にしか見えないような速度であったが、今度は奏矢はその速度へとついて行く。
「よくもっ! よくもっ! 私の顔をっ!」
「元から人外顔だろうがっ!」
イズミは奏矢のワンピースの襟元に掴みかかり、同時にイズミの背から出た左右4対の腕が奏矢の体を掴んで裂こうと迫る。だが奏矢の背中からも自身の体を守るように銀色の触手が伸びて、イズミの腕へと絡んで動きを止める。お互いの力が拮抗して、お互いの顔に吐息すら掛かる距離で動きが止まる。だが、それも束の間のこと。ゆっくりではあるがイズミの方が力が強く、触手の拘束を超えて少しずつではあるが奏矢の体へと指が伸びて行く。
「…生きたまま、手で解剖してあげるわ〜」
「…ちっ」
そしてとうとう、イズミの指が奏矢のワンピースへと触れようとしたその瞬間。
パァン。
乾いた発砲音が1つ。いや、さらに続けて5発。この空間に響いた。奏矢は脇目でチラリとその音の出どころへと目を向ける。そこに居たのは、拳銃をイズミへと向けて立つ氷室の姿であった。そして氷室の拳銃から吐き出された弾丸は、6発とも正確にイズミのこめかみへと穿れていた。
「っ、この」
「私の部下が大変お世話になりましたねぇ? お礼にわざわざ来ましたよ」
よく見ると氷室のスーツはところどころ酷く裂けており、元は真っ白であったシャツには鮮血が至る所にこびりついていた。それでも氷室は手早く拳銃に装弾すると、イズミに向けて発砲をし続ける。
(隙ができた…!)
イズミにとって蚊に刺されたような衝撃であったが、
(くらえっ!)
無くした右腕から銀の体液が溢れ出すとそれは瞬く間に腕の長さ程度の鋭い銀の杭と化す。そして全力の力を振り絞ってイズミの胸部へと―――怪人の核へと突き立てる。
「…そんなの、見えてるわ〜」
イズミは裂けた目で奏矢を睨むと、その銀色の杭となった右腕を掴んで受けとめる。そしてその杭の切先を力で捻じ曲げながら、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「…へぇ? なら」
奏矢は顔をイズミへと寄せながら、吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
「これはどうだ?」
「…はっ?」
イズミの背に先程千切れた右腕が突き刺さっていた。その銀色の被膜に包まれた右腕はイズミの体内へと入り込み、そして仄かにオレンジに光る怪人の核を握りつぶしたのであった。
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