第46話:怪人の頂点

 奏矢は地面へと叩きつけられ、芝生を抉りながら顔面から無防備に地面へめり込む。その衝撃で微かに地面が揺れるが、奏矢はすぐさま地面を転がって距離を取る。



「あら〜、可愛いお顔が泥塗れよ〜?」



(…イライラする)



 奏矢はイズミを睨みながら考える。

奏矢が反応すらできない程の瞬発力。重さが数百キロはあろう大理石の円卓を軽々と投げ飛ばせる怪力。リリが放った死角からの銀の矢を受け止める反応力。いずれをとってみても今まで戦った怪人を上回る力であった。



 だが。

いくしか、ない。



「っらぁ!」



 奏矢は足元の地面の蹴ると、イズミの顔目掛けて土塊つちくれを蹴飛ばした。土塊は余裕ぶっていたイズミの顔へと当たり、イズミの顔もまた奏矢と同じく泥まみれになる。



「テメェの顔も泥まみれだっ!」



 イズミの顔に跳ねた泥はイズミの視界を奪う。その隙を狙い、奏矢は一気に踏み込むとイズミの胸部―――怪人の核があろう場所へと銀の被膜に覆われた右手を突き出す。



「っ!」



 渾身の力を込めた一撃がイズミの背から伸びた腕に絡めとられる。そしてそのまま奏矢の体を両手足を拘束した状態で、イズミは鼻と鼻を突き合わせるぐらいに顔を寄せて囁く。


「我が陰謀団カバルから逃げたあとのことを是非聞きたいわね〜? 早乙女奏矢くん?」



「おかげさまで楽しい第2の人生を送れたよ、クソッタレ」



 完全に手足の動きを止められた奏矢は、頭を振りかぶると思い切り頭突きをする。イズミとぶつかった箇所は銀の被膜が張られており、傷の修復と硬化の役目を果たしていた。何度も何度も、奏矢は頭突きをする。奏矢の銀の体液とイズミの真っ黒な体液が地面へと溢れていき、奏矢は自身の体の修復が追いついていなかったがそれでも止めることはなかった。



 そしてイズミの体がぐらりと体勢を崩す。そして奏矢の体を掴んでいるイズミの腕の力をが緩まる。そのまま奏矢が力任せに逃れようとした、そのとき。



「…調子に乗らないでくれる?」



 イズミのどす黒い感情を込めた冷たい声が響く。

そして奏矢の右腕が肩から先を力任せにねじ切られて宙を舞ったのだった。



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