第45話:火蓋は切られた

 先程まで己の首を掴んだ手から逃れようとリリはバタバタと足を揺らしていたが、それがゆっくりと動きをなくす。そして頭が完全に項垂れて、腕が完全に下に落ちてピクリとも動かなくなる。



「あら〜、意識なくしちゃったかしら〜」



 イズミはリリの顔を覗き込みながら、無表情で様子を伺う。ぷらぷらとイズミがリリの意識を確かめるように動かすと、それに伴ってリリの体もまたぷらぷらと動く。イズミはその様子を見てつまらなさそうにため息を吐く。



「怪人を倒したから、期待していたのに。こんな程度だったのかしら〜」




 そして完全に息の根が止まる前に地面へと下ろそうとしたとき、リリの腕が突然動く。そして握り拳を作ると、イズミの顔をリリはいきなりぶん殴る。完全な不意をついた一撃がイズミの頬を捉え、リリの体が投げ捨てられる。



「…なに、かしら〜?」



 頬を殴られたせいでイズミの口端から真っ黒な血が垂れて行く。それを白衣の袖で拭いながら、リリを見つめる。一方でリリは弾かれたように飛び退くと、イズミと距離を取る。そしてイズミの目の前で傷口に身体の至る所から水銀の膜が貼られていき、瞬く間に体の傷が治っていく。



「あっぶねぇ…」



「あら、アンタはそんな顔をしていたの〜。可愛い顔ね〜」



 リリの体を乗っ取った奏矢は、涼しい顔をしたイズミを睨みつける。そして身構えようとしたその刹那、距離を取っていたはずのイズミが目の前に現れる。



「えっ」



「あんなむさ苦しい顔だったのに、今は本当に可愛いわね〜。本当に何があったのかしら〜」



 イズミの粘液に濡れた手が奏矢の顔を撫でる。そしてそのまま、地面へと叩きつけるのであった。


 


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