第43話:陰謀団の目的

「そうね、まあ多層世界パラレルワールドって言えばわかるかしら〜。 …1999年に何があったか、わかる?」



「えっ」



(1999年…? 世紀末だってすごい騒いでたり、2000年問題だとかでニュースで騒いでいたな。あ、そういえば世界が終わるとか話題になってたっけ。確か、あれは)



 リリはリリが生まれる前よりずっと前の話題を急に振られて困惑する。一方で奏矢にとっても幼い頃の話しであり、かなりあやふやであった。



「ノストラダムス予言集第10巻72詩、『1999年7か月。空から恐怖の大王が来るだろう、アンゴルモアの大王を蘇らせ、マルスの前後に首尾よく支配するために』 …聞いたこと、ないかしら〜?」



(…ノストラダムスの大予言、か? でも、あれって嘘だったんじゃ)



「ノストラダムスの大予言…?」



 奏矢が思わずリリに囁いた言葉を、リリはおうむ返しに口にする。



「そうよ〜、大正解。じゃただの嘘ってことになってるわ〜。でもね、私たちの居た世界じゃ本当のことだった。その年は異様に暑くてね、異常気象だって騒いでいたわ。ある日の夕方、ものすごい夕立が来てね。それはすごかったわ〜、なんて言っても、雨の代わりに真っ黒な芋虫が降り注いんだから」



 イズミは芋虫の大きさを手で表す。

手のひらを尺取り虫のように机の上で動かして、その大きさと動きを如何にも気味が悪いように再現する。



「芋虫はただの虫じゃなかったわ。それは人間の中に入り込むの。それに入り込まれた人間は人間じゃなくなるのよ〜。まるで人間の身体自体がその芋虫のサナギの殻になったみたいに。"羽化"して奴らと言ったら、まあ、虫と人間を混ぜて再形成したら"ああ"なるんだって思ったわ〜」



(…まるで2流のパニック映画みたいだ)



「まあ、あとは言わなくてもだいたいわかるだろうけど、その虫人間は普通の人間を襲い始めたのよ。時々、芋虫雨も降るようになってね〜、普通の人間はどんどん居なくなっていったわ。虫人間には拳銃なんて効かないし、打つ手がなかったんだけど〜。私、思いついちゃったのよ、"同じ"になれば良いってね〜。まあ、色々あってたまたま私1人だけ多層世界パラレルワールドに渡る方法を見つけてね〜。向こうじゃ実験するにも被検体が居なくてね、ちょうどよかったわ〜。作った改造人間は一方通行になった"向こう"にいくらでも送れるしね〜。高く売れるのよ、改造人間って。虫人間を真っ向からねじ伏せられる改造人間、言い値で売れるからやりがいがあるわ〜」




 一通りイズミが話し終えると、リリをじっと見やる。一方でリリはイズミを怒りを込めた目で睨み返す。



「"ちょうどよかった"? "高く売れる"? そんな、そんな理由で沓野輪くつのわ園長先生を? みんなをこんなことに巻き込んだの?」



「まあ、多少の犠牲は仕方ないわよね〜。 …それに"養殖"よりも"天然"のほうが良い素材になるしね〜」



(…だからか。こんな力があれば国だって裏から操れたのに、しなかった理由はそれか)



 奏矢はここでようやく合点がいく。今まで隠れて陰謀団カバルが拉致をしていたことに。つまり、国を操って人を怪人改造手術用に増やすのではなく、普通の人間―――"天然物"を使いたがった結果であると。



「さて、楽しいお話しはもうおしまい。さて、今度はアナタがお話しをする番よ。早乙女 奏矢さおとめ そうやさん?」



(…まずい、俺の素性がバレてる)



 奏矢はリリに伝わらぬように心の中で呟く。一方でリリはイズミの返事を返すことなく机をイズミへと蹴飛ばすと、すぐさま銀の弓矢を生成する。リリとイズミの間に机が舞い、イズミから見たリリへの視線が遮られた。



沓野輪くつのわ園長先生をっ、よくもっ!」



 リリは銀の矢をたがえて、引き絞り、放つ。何本も何本も、撃って撃って撃ちまくる。イズミの姿は机のせいで見えなかったが机には無数の銀の矢が突き刺さりまるでハリネズミのようであった。その裏側のイズミへも跳弾で何本も矢が直接突き刺さっている感触もあった。リリは肩て息をつきながら、イズミがまだ生きているか耳を澄ます。



「…なかなか、痛いじゃないの〜」



 イズミの間延びした声が机の裏側から響く。そして机の端に手が掛けられる。さらに手が掛けられれ、手が掛けらていく。ぬめぬめと粘液に濡れた右手と左手が各々4本ずつ。そしてゆっくりと机が縦に裂かれ、口元が裂けて目元が異様に広がったイズミの姿が現れたのだった。





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