第37話:鱗粉の壁
「どいてっ!」
リリは事態を飲み込めずに硬直して壁となっているクラスメイトを左右に突き飛ばす。そして銀の弓を構えようとしたが、遅い。
「がぁああああっ!」
「ああっ!?」
リリは右腕をモスマンに抑えられてしまう。そして
「ぐっ…ぐっ…」
「…痛い」
リリの右腕にはハッキリとサメに噛まれた様な鋭い歯形が残り、血が床へと滴る。一方でモスマンのほうも右目に矢が突き刺さり、完全に潰れていた。お互いに、かなりの痛手を与えている形であった。
「…お前だろ、
「…」
リリは返事を返さずに無言でモスマンを睨みつけるのみ。そして銀の矢をたがえようとしたとき、リリは自身の腕から流れる血に違和感を覚える。
(…なに、これ)
(リリ、早くそこから離れるんだっ!)
奏矢が頭の中で叫び、リリは咄嗟に横へと跳躍する。次の瞬間、リリが床へと流した血が沸騰して蒸発する。それだけではない。まだ教室の隅で固まっていた生徒たちも叫び声を上げて床に転がっていく。
「沸騰、してる…?」
「ぐっぐっ。俺の鱗粉に触れた生き物は"焼ける"ぞ」
リリは目の前に漂うキラキラ光る鱗粉に気がつくと思わず息を止める。もし、この鱗粉を気が付かずに吸ってしまったら、肺から焼けて行くのだろう。そして鱗粉を吸ってしまったであろうクラスメイトを見やると、痛む右腕で銀の矢を引く。だが。
「ぐっぐっ」
銀の矢はモスマンが"居た"後ろの壁へと突き刺さる。モスマンは矢が撃たれた瞬間に一歩横へと移動して、矢を避けていた。再度矢をたがえて放つも結果は同じ。全て避けられていた。
「ぐっぐっ。"見えてんだよ"。それに、気が付かないのか?」
勝ち誇った表情を浮かべてモスマンは教室の中央あたりを指さす。モスマンは教室の窓際に、リリは廊下側いたが2人の間にはまるで壁の様にキラキラとした鱗粉が厚く光っていた。そしてそれはゆっくりとであるが、リリへと迫ってきていた。
「"当たって!" …痛っ!」
リリは願いを込めて銀の矢を放つが、痛みから狙いがぶれる。あらぬ方向へと放たれた矢を見て、モスマンは腹の底から楽しそうに笑う。
「ぐっぐっ。どこを狙ってっ!?」
笑うモスマンの背中へと跳弾した銀の矢が突き刺さる。リリの目からは理解出来たが、モスマンにとっては不可視の一撃。モスマンは背後に意識をやってしまうが、当然そこには矢だけがあるのみ。
「なんだぁっ!?」
「はぁあああっ!!」
(えっ、リリ!? なんでっ!?)
奏矢の静止を振り切ってリリは間髪を入れずに鱗粉の壁へと突っ込む。身体の表面には鱗粉がつき、皮膚が蒸気を出しながら泡立つ。モスマンもまた矢に気取られたこと、そして弓矢を使わずに突っ込んできた予想外の行動に反応が遅れる。
「ここから! 出て行って!」
「がはっ!?」
リリは矢を槍の様に持ちながら鱗粉の壁を超えてモスマンへと突っ込んでいく。そしてモスマンの体に矢を突き立てながら、割れた窓からモスマンと一緒に外へと落下するのであった。
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