第34話:証拠なし

「本当に、何も知らないのかしら?」



 再度名瀬は質問をリリへと投げかける。

じっと顔を覗き込み、リリのちょっとした表情の動きも見逃さないようにする。だがリリの表情は固く、変わることはない。



「…はい」



 嘘だ。

上司の氷室ほどではないにしろ、それなりに事件を通して尋問してきた名瀬は直感的に分かる。分かるが、何を隠しているかまでは分からない。リリに尋問をしようにも、犯人一味とまでは言えないリリを尋問室に連れていくことは出来ない。



「そう、なの。わかったわ、ごめんね天野さん。時間取らせちゃって」



「いえ、大丈夫です」



「ああ、一応クギも刺しに来たんだけど今月から夏休みに入るじゃない? 夜遅くまで出歩いていて、補導でもされたら児童福祉給付金が打ち切られちゃうから気をつけてね」



 そう言うと名瀬は机に並べた書類をカバンに戻すと、立ち上がって玄関まで歩いていく。そして玄関で靴を履くと扉に手を掛けてからリリへと向き直る。



「お茶、ごちそうさま。なにか小さなことでも気がついたことがあったら連絡してね」



 そう言い残して名瀬は玄関から外へと出て行く。

リリは名瀬が出た後、気配が消えるまで待ってから鍵を閉める。そして大きくため息を吐くと、部屋の隅に隠れていた奏矢へと目を向ける。



奏矢ソーヤさん、さっきの話なんだけど」



「なんだい?」



 いつの間にやら、畳まれた布団の間へと隠れていた奏矢が這い出てくる。そしてふるふると体を震わせる。



「奏矢さんは嘘をついてないよね? 私の味方だよね?」



「うん、僕はリリの味方だよ。ずっとね(さっきの名瀬とかいう女、どう見てもリリを疑ってたからな。良いタイミングで来てくれた)」



 リリはじっと奏矢の言葉を確かめるように見つめていたが、あとは言葉を発さずに机の上に残る名瀬に出した麦茶を片付け始めるのだった。

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