第31話:世間の反応

 ショッピングモールで陰謀団カバル牛型怪人ミノタウが引き起こした凶行は、翌日の日曜日のニュースのトップを飾っていた。新聞の一面はその事件一色に染まり、どのニュースでも大きく報道されていた。リリは自室にて遅めの朝食であるトーストを口に運びながら、お昼のワイドショーを眺めていた。奏矢もまた、机の上で不定形に動きながらリリと同じくニュースをみる。



『それで教授。捜査本部の発表では死亡者14名、重軽傷者多数、それに行方不明者まで出ています。戦後最悪とも呼べるこの事件、どう見ますか?』



 テレビの中のニュースキャスターは、薄く頭が禿げた小太りの男―――教授へと質問を投げかける。教授は一拍間を置くと、大仰に答える。



『事件の目撃者の証言から犯人たちはなんらかの宗教に入信していると思います。犯人たちの常軌を逸した行動や服装などからも、何らかの教義によるものだと考えられます。犯人グループの犯行声明や犯行目的なども、近いうちに犯人側から出されるでしょう』



『教授、常軌を逸した行動や服装とおっしゃりましたが、犯人たちが着ぐるみや全身タイツといった服装だったのは何故かある程度わかりませんか? それにこちらの画面を見てください。ショッピングモール内の至る所に酷い損傷が見られます。教授、犯人たちがなんらかの武器密売に関わっている可能性は?』



『さあ、分かりかねますね。ただ、このようにマスクなどではなく、顔や体を覆い隠していたということは素顔だけではなく体型だけでも何か問題があるのかもしれません。それに公開されたこちらの現場写真には銃器というよりも爆破物が使われたように見えるので、海外マフィアが関わっている可能性は十分にありますね』



『そうですか。あとは犯行方法も被害者を投げ飛ばした。という話もあるんですが』



『…犯人たちはなんらかの薬品を摂取してトランス状態であったか、あるいはパワードスーツのようなものを着ていたか、ですかね。後者なら着ぐるみといった奇抜な格好もそのパワードスーツを隠すため、という理由にもなります』



『そういう可能性もある、と。本日はありがとうございました、教授』



 ニュースキャスターは教授へと頭を下げると、カメラに向き直って次のニュースを読み上げ始める。リリは黙ってテレビの電源を切ると、頬張っていたトーストの欠片を口の中に放り込んでカフェオレで飲み干す。そして黙って奏矢をじっと見つめる。そのリリの様子に気がついた奏矢は、リリへと明るい口調で声を掛ける。



「どうしたんだい、リリ。そんな目をして?」



奏矢ソーヤさん。聞きたいことがあるの」



「え、なんだい? そんな改まって」



「…記憶がおかしいの。昨日の、あの牛の怪人と戦っていた途中から。 …ううん、園長先生に酷いことをした犬の怪人のときも、そう。途中から記憶があやふやになって、自分の記憶なのにテレビのコマ送りみたいにしか思い出せないの。それに昨日のことで二宮さんに"資質"があるって言っていたでしょ、でも二宮さんが戦っている記憶がないの。これっておかしいよ」



(…ちっ、やっぱり無理がある説明だったか。あの状態で仕方なかったとはいえ、どうするか)



 奏矢はじっと黙り込むと、答えをどうするべきか悩むのであった。



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