第13話:尋問開始


翌朝、リリは目を覚ますとちょうど看護婦が朝食を持って部屋へと入ってくるところであった。昨晩リリに注意した看護婦とは別の看護婦であった。

リリが目を覚ましたことに気がつくと、看護婦は優しく声を掛ける。



「おはよう、天野さん。夜中にここで電話してたんだって? 駄目よ、そういうことをしちゃ」



「あっ、ごめんなさい」



「ま、いいわ。まだ中学生なんだし、そういうことをしたくなるのは分かるわよ。もしかして彼氏、とか?」




「いえ、そんなんじゃ」



「はいはい。ま、元気そうだし。どう、朝ご飯は食べられそう?」



 

 トレイに乗ったお椀の半分ぐらいの白米にほうれん草のおひたし、肉じゃが、大根のお吸い物、それに小さな一口サイズのゼリー。それをリリの前に下ろした食台の上に置く。

そして看護婦がお茶を魔法瓶から紙コップに注ぐとお椀の横に置いてリリの様子を窺う。



「どう、全部食べられそうなくらいお腹減ってる? もし、食べられそうじゃなかったら、遠慮なく残しても良いんだからね?」



「あっ、はい。あ、そう言えば私の友達たちも火事に巻き込まれたんです。ここに一緒に入院してますか?」



 スプーンを持ち、ほうれん草のおひたしを口に運ぼうとしたとき、リリは昨晩からの疑問を看護婦へと向ける。

看護婦はその瞬間、じっと見ていた視線を少し反らす。そのことにリリは不安を覚える。そしてさらに質問を投げかけようとしたとき、真っ黒なスーツに身を包み蒸してくる季節だというのに両手に白の手袋を嵌めた背の高い男と、その後ろを歩くパンツスーツのポニーテールの女が個室へと入ってくる。男は見た目30代前半、女は20代後半と言ったところか。看護婦はその2人に驚いて声を上げる。



「誰ですか、あなたたちは!? 今は面会時間じゃないですよっ!?」



「はっはっは、看護師さん。落ち着いてくださいよぉ~、私たち怪しいものじゃありません。ちゃんと許可は下りてますので、婦長さんに確認してくださいよぉ」



「はぁ……?」



 看護婦は内線でナースセンターへと電話を掛ける。そしてしばし話し込むと、2人組に視線を向ける。

ため息をつきながら、電話を置くとそのまま個室から出て行く。



「さて、と」



 男は個室のドアを閉めて鍵を掛ける。そしてリリのベッドの脇に椅子を近づけると、カーテンをベッド周りにぐるりと引く。

狭い空間にリリと怪しげな2人組しか居ない。否、2人組から見えない位置、枕の下に隠れていた奏矢がリリの身体にそっと触れる。




「無事でなによりですよぉ、天野さん。まずは自己紹介からですねぇ。あ、私はから来た氷室ひむろと申します。私の後ろに立って居るのはから来た名瀬なせさんです」



「はぁ……?」



 思いきり身構えるリリ。

そのリリにねっとりとした口調で問い詰めるように言葉を続ける。




「単刀直入に聞きましょうか。昨晩、孤児院で起きた事件で一体何を見たんです? 目撃者の方から”犬のような化け物”が叫びながら火を点けたと聞きましてね。ちょうどその犬の化け物が居た辺りで貴女がが倒れていたと消防士の方の証言もあるんですよぉ」



 そう氷室は言いながらリリの顔をねっとりとなめ回すように観察するのであった。

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