第10話:拒絶反応
奏矢が
無残にも下半身は融解し、上半身だけとなりながらも両手を天井へと掲げて何かを探すような仕草をしていたがそれも束の間の話。下半身と同じく、上半身も融解したかと思うと気化し始めて消滅した。
(…哀れな最期だな。とりあえず良い身体が手に入ったし、こんな場所から逃げるとするかな)
壊れた壁や天井、まだ火の残る周囲、そして遠くから聞こえるサイレンの音、あまり悠長にしている時間はなさそうであった。『一旦ここから離れるか、あるいは哀れな被害者”天野リリ”を演じるか』そう悩んでいたときに、不意に奏矢は吐き気を覚える。吐き気だけではない。頭が割れんばかりの激しい頭痛に加えて突然身体の自由が効かなくなる。
(は? え? え?)
口から銀の液体が漏れ出してくる。咄嗟に口を強く閉じるが、中からの圧力に唇の力が負けて吐き出されていく。
それが自分自身であることに気がつくのは、手の平大の大きさのスライムとなって床に広がって倒れてくるリリを受け止めたときであった。
(なんで? なんで? なんで?)
まるで
『拒絶反応』、その言葉が奏矢の脳裏に浮かぶ。人体が自身の細胞以外の細胞が浸入した際に起こす反応であり、自身にとって外敵たる細胞を追い出そうとする人体のメカニズムである。不思議と傷に馴染んだ銀の液体部は肌と完全に同化しており、血色の良い肌色となっていた。そして奏矢が身体から吐き出されたためか、先ほどまで身を包んでいたピンクのふりふりのついたワンピースではなく、地味で破れ掛けたパジャマへと変化していた。そうこうしているうちにけたたましいサイレンが辺りに響き、ドタドタと大きな足音が近づいて来るのが奏矢にも聞こえてくる。
(……とりあえず、ここから逃げなきゃ)
奏矢はリリを見捨てて逃げ出そうとする。”拒絶反応のない別の身体を探せば良い”と、そう思っていた。だが、奏矢の身体は硬直して動くことが出来ない。
そして足音がどんどんと近づいて来て、とうとう倒れているリリと硬直している奏矢の元までやってくる。
「おい、ここに子供がいるぞ!」
「早くここから連れ出せ! 崩れてきてるぞ!」
ボンベを背負い、耐火服を着込んだ消防士2人組がリリを見つけて叫ぶ。同時に隠れることも出来なかった奏矢も視界に入っているはずだったが、不定形に揺らめく銀のスライムである奏矢をまるで見えないモノのように無視する。
『あれ……? なんで俺を見てなんの反応もないんだ?』そう思うのもつかの間、リリを消防士の1人が抱きかかえると外へと駆けていく。そのリリを追う形で自身の意志とは無関係に奏矢の身体も動き出すのであった。
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