Chapter2 嘘吐ルーガルー
第19話 19 勇者と新学期
「新学期早々、災難だったな」
新担任のセシル・エルマネに呼ばれたローランは従うように職員室に向かうと、沢山の連絡事項の紙や始業式の次の日に決められた委員会の割り振りなどを教えられている。
授業についてはアーサーの怪人書のお陰でなんとかなったが、それ以外の学校運営についてはマーリンからは特に引き継ぎが無かった。待っていれば先生から教えてもらえるだろうと言うことだ。
セシルは気難しそうな印象を受ける女教師だ。勿論、魔術を得意としており、攻撃魔術で彼女の教鞭はとても為になるらしい。
眼鏡をかけており、その内側から見つめる目つきは少々鋭く、不良なことをすれば即その眼光に収められるのだろう。
新学期につき、クラス替えもあったが、去年と同じくマーリンやアーサーとは同じクラスだ。
アーサーの取り巻きについては何人か別々のクラスになっしまったらしい。
それはどうでもいいことだ。
さて、今ローランは少々面倒なことを頼まれていた。
と言うか、決定事項を告げられていた。
それはクラスの委員についてだった。
去年は幸運なことに参加しなくて済んだのだが、今年は仮病で席を外していたことをいいことに委員に選ばれてしまったらしい。
しかも、それはマーリンとかいうチビが主導して決めらしい。
恨むぞ。
それで決められた委員が『植物委員』と言う物だった。
これは、名前の通り植物を育てる委員だ。魔法学校では魔術科と治癒科で植物を扱った授業をする。それは、調合することで魔術の威力を上昇させる作用や薬草による回復ポーションの生成など将来役に立つことを教わる。
その植物たちは学校内の大きなビニールハウスで育てられている。つまり、その植物たちの世話をする委員なのだ。
その温室では学生の森林浴や自己研究のために開放されているため、昼休みや放課後などは植物に興味のある学生が来るらしいのだが、それ以外は殆ど寄り付かない。
しかも、世話は朝と夕方の二回と拘束時間がある。
幸いにも委員はローランの他に治癒科からもう一人委員がいるらしく、話し合えば交代制なども提案できるだろう。
「治癒科からはルナってルーガルーの女の子が委員に選ばれている」
「ルーガルー?」
「獣人を知らないのか?まぁ、馴染みの無い地域にいたんだったな」
転生についてはそんな都合の良い言い訳をしている。
ルーガルー、それは獣人の中で狼の血を持つ種族の事だ。その他に、ケットシーという猫の血を持つ種族もいる。
「お前が休んでいる間はそのルナって子がずっと面倒を見てたらしいぞ。今日放課後、顔合わせのついでに謝っておけよ」
それは確かに申し訳ない。
本当は二人でしなければいけないのに任せっきりなっていたようだ。
「分かりました」
「よし、では伝えることは以上だ。教室に戻るついでにこのプリントを持っていってくれ」
そう言うとセシルは高層ビルかと見間違うほど高く積まれたプリントを指さした。
授業で使う物らしいが、その量は異常である。
ローランは苦笑いを漏らしつつも、セシルの言われるがままにそのプリントを持っていくのであった。
――――
我ながらバランス感覚は素晴らしかった。
あの高さを一度も倒さずに教室に戻ったのだ、誰か褒めてくれてもいいだろう。
「おかえり、パシリ」
このチビは褒めてはくれなかった。
肩まで伸びる綺麗に手入れされた銀髪にやる気の無い目つき、子供のような身長のちんちくりんな少女、マーリンである。
一年生の時はクラス首席と華々しい経歴を持ち、委員決定の際にローランを売った首謀者だ。
まぁ、ルームメイトであるシャーロッテ・ルメートルが故郷で騒動に巻き込まれ、それを召喚獣の魔王と二人で助けに行った際、学校に仮病の口裏合わせをしてくれた恩人でもあるのだが、それと委員については別の話である。
「お前が、俺を売ったな!」
「私だけじゃない。みんなで」
みんなで売られた!
それはそれで悲しいけれども。
先陣を切ったのはマーリンだとセシルから聞いている。
「いいじゃん、家庭菜園してるんだし」
「あれは魔王のだ」
「召喚獣のものは主人のものでしょ」
「あんなのいらん」
魔王はエルフの村から帰ってきてから特に変わった様子はない。
相変わらず、料理洗濯、家庭菜園にシャロの稽古と忙しそうに動いている。
家庭菜園についてはマーリンと意気投合することあったみたいで、放課後にマーリンが家庭菜園目当てで訪れることがあった。
お互いに魔術を極める者として相性がいいみたいだ。
「はぁ、治癒科の子が一人で面倒見てたんだと」
「あー、ルナでしょ?あの子なら大丈夫だと思う」
「知ってるのか、マーリン」
「変な絡みしないで、ルナとは前に温室に行った時に少し話したくらい。私が一方的だったけど」
マーリンは基本的に口数が少なく端的だ。しかし、興味があることについては極端に饒舌になる。
魔王と家庭菜園で語り合うほどだ、温室でも何か興味を持って行ったのだろう。
「どんな感じの人なんだ?」
「うーん、流石は治癒科首席だ。私の質問に全て即答してきた。と言う感じの人」
「無茶苦茶エリート!?」
「えへ、それ程でもある」
「お前じゃない」
どうやらルナというルーガルーは頭が良いみたいだ。
そしてマーリンからも信頼を得ているあたり、中々出来た人ということだ。
「ただ、ちょっとクセがある」
「クセ?」
「うーん、それは言葉にするのが面倒くさいから会って確かめて」
「面倒くさいって……」
急に冷めたように話すマーリンに少々呆れ気味なるローラン。
気分屋であるから仕方ないと言い訳をしつつ、放課後に一度会ってみようと決意を見せてみる。
しかし、ルーガルー。獣人はクラスにはいない。
学校を歩いていると見かけることもあるのだが、直接接触するのは初めてだ。
狼ってことは肉食系なのだろうか。腕とか噛みちぎられたりしないだろうか。
まぁ、自分の肉体は強靭であるからそれはないだろう。
なんて、会ってもないのに襲われる心配をする自分を可笑しく思いつつ、ローランは放課後になるのを待ったのだった。
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