第17話 17 魔王と土人形

 魔王が生き残ったエルフと共に無力化した盗賊団を縛り上げ、屋敷に戻った時には既に勝負は決着をしていた。


 泣き崩れる片腕のマキシム、両親に心配そうに話しかけるシャロ、それを一人満足そうに眺めるローラン。

 そう言った構図が目の前に並んでいた。


「全て片付いたのだな」


 魔王は一人佇んでいるローランへと話しかけた。


「魔王か。すまなかったな、面倒臭い方を押しつけて」

「勇者、私は掃除が好きだと言っただろう?」

「そうだったな」


 召喚して二日目に掃除に全力投球だった魔王。

 恐らく、床のシミも盗賊団も同レベルなのだろう。

 可哀想に、盗賊団。


「それにしても、魔王が協力的になるとは思わなかった」

「それだけ、私もあのエルフを気に入っておるのだ」


 そう言って魔王もシャロを見つめる。

 二人からの視線を感じたのか、シャロは二人に気付き手を振ってきた。

 魔王はそれに手を振り返す。


「なんか、調子狂うな。前世じゃお前、そんな性格だったか?」

「勇者が知らないだけで、私はこんな性格だぞ。

 人間は、人間が想像で作り上げた魔王と戦っていた過ぎんのだ。

 私は私で仲間を思いやる優しい魔軍の総指揮官だっただけだ」


 種族は違えど、ローランと立場は同じであった。

 ローランもまた、仲間思い出あった。

 結局は似た物同士なのである。


「ローラン、マオさん。本当にありがとう」


 両親から離れ、シャロが二人の元にやってきた。

 両親と色々と話が済んだようだ。


「マキシムと盗賊団は魔法国の魔法騎士団に預かってもらうことにしたよ。今のエルフの村じゃ、あの数の罪人の面倒は見れないからね」


「シャロはこの後どうするんだ?エルフの村も大変になるだろう?」


「パパからは残って欲しいって言われてるけど、学校に戻るつもりだよ。パパにははっきり、継ぐつもりはないって伝えたし」


 ローランはシャロの後ろを見る。

 そこには、先程から泣き崩れているマキシムの他に、フィリップも泣き崩れていた。

 エルフの村の実力者二人をこんな状態にしているシャロが一番エルフで強いのかもしれない。


「ボクはもっと、ローランとマオさんについて行きたい」

「分かったよ。でもパパさんをしっかり納得させろよ。あれじゃ、落ち着いたらまた言ってくるぞ」

「そう……だね。頑張る」


 話していると、クララがフィリップを屋敷に連れて行くのを手伝って欲しいとシャロに頼んできた。

 シャロは言われた通り、再び両親の方へと行ってしまった。


 その背中を勇者と魔王はじっと見つめていた。

 そして、勇者はやはり思う。


(シャロの胸、膨らんでね?)


 シャロは男なんだよな?

 ルームメイトだ。男女で相部屋はどこの部屋でも無かったはずだ。

 でも、さっき両親に娘と言われていた。

 さらに、この村に来て、牢屋でシャロと再開してからの違和感。

 娘という言葉でその違和感に気づいてしまった。

 あの魔王には劣るが、しっかり存在感主張している胸はなんだ?

 腫れたのか?マキシムに虐められて腫れたのか?

 だから、あんなに誤っているのか?

 そんな訳ないだろう。


「なぁ、魔王」

「なんだ?」

「もしもの話なんだが、な?」

「うむ」

「シャロが女の子だったら、どうする?」


「何を言っておる。あいつは女の子だろう」


 ローランはこの一年の行動を振り返りつつ、膝から崩れ落ちた。


 ―――――


 結局、ローランと魔王はその実力を買われ、騎士団が来るまでの間、罪人の監視役としてエルフの村に滞在してもいたいとフィリップからお願いを受けた。


 もちろん、村の恩人でもあるので待遇はとても良く、屋敷にそれぞれ部屋を貸してくれた。


 ローランもシャロも数日の休日は貰っているので、学校に帰るのにそう慌てていなかった。


 次の日、朝ごはんを食べようとローランは屋敷の食事部屋へと足を運んだ。

 そこには、シャロとその両親あと魔王が既に席に座っていた。


 そして、仲睦まじい家族や会話が花を咲かせている。

 訳ではなかった。


 やはりというか、話題は族長を継ぐか継がないであった。

 フィリップは諦めていなかったのだ。


「だーかーらー、ボクは継がないって言ったでしょ!」


「でもだな、マキシムが居なくなり、私も怪我をしている。ここでまた何かあったら守れるエルフがいないのだ。シャーも十分強くなったし、もう戻ってきていいんじゃないか?」


「嫌だよ、強くなったのは冒険者になりたいから」

「ぼ、冒険者に!?いけない、危険な職だ。死なれたら困る」

「エルフの軍にいても危険なのは変わらないでしょ」


 ローランの入室に気づいたクララが申し訳なさそうに話しかける。

「ごめんなさいね、さっきからずっとこうなの」と、

 ローランも昨日シャロに頑張れと言ったし、とことん話してくれて構わない。


 しかし、父のいう、守る者がいないというのは確かだ。

 今のシャロはエルフの村で十分やっていける戦闘能力を持っている。

 マキシムやフィリップの代わりになり得るのだ。

 本人にその気はないようだが。

 その守備の補強を何とかしなければ、フィリップは納得しないだろう。


 それよりも、なんでこんな騒々しいのに魔王は優雅に食べているのか。

 なにやら、全てお見通しみたいな顔してるし。


「魔王、何が秘策でもあるのか?」

「あの二人のことか?」

「お、おう。なんか知ってそうな顔してるから」

「勇者も少しづつ、私のことをわかってきたようじゃな」


 そう言ってお茶目に笑う魔王を見て複雑な気持ちになる。


「こほん、エルフどもよ」


 魔王はシャロとフィリップに話しかける。

 言い合っていた二人の注目が魔王に注がれる。


「私よりエルフの村の守備についてある提案がある」

「なになに?マオさんの提案気になる!」


 シャロは自分に有利になると分かったのか急かすように話しかける。


「少し魔術を使わせてもらう。構わないか?」


 家主であるフィリップに了承を問いかける。

 フィリップは頷いた。


 魔王は席を立ち上がると、魔術の詠唱を始める。

 基本、簡単な魔術は無詠唱の魔王だが、詠唱をする時は高難易度になる。

 それだけ難しい魔術を今、目の前で行なっているのだ。


 そして、詠唱が終わった時、そこに現れたのは一人のエルフだった。

 ただ、その風貌はエルフの村の人たちとは違っていた。


 勿論、エルフであるためその顔立ちは美しい。

 しかし、キュートと言うよりクールが似合う顔つきであった。

 髪は銀色であった。肌の色は太陽によく焼けた褐色である。

 また服装は露出が多く、そのお腹の腹筋は拍手をしたくなるほどの女性らしく美しい控えめなシックスパックを見せていた。


「エルフ……なのか?」

「エルフでは無い。エルフを模倣した土人形だ」


 そう、人ではなく人形であった。

 身体の材料は高位の土魔術で作られた土人形。いわゆるゴーレムだ。

 身体を動かすのは魔王から注がれた魔力である。魔王が注ぎ込んだ魔力量は計り知れない。


「私の趣味で少々セクシーになってしまったが、『ダークエルフ』としては十分だろう。こいつは近接戦闘に特化させた作りにしておいた。

 ここのエルフが束になっても勝てぬと思うぞ。それに、人形だから命令には従順だぞ」


「すごい!マオさん。パパ!これなら村の守備は十分だよね!」


 魔王が言うのだ、間違いないのだろう。

 しかし、フィリップは悩み込んでいた。

 父の本音をいうと娘と居たいだろう。


「しかし、だな……。うむ……」


 そう渋る父にクララが近づいた。

 シャロやローランには聞こえないほど小さな声で会話をしている。


「パパ、もういいでしょう?これ以上、お客様のお世話になるわけにはいかないわ」

「しかし、ママよ。どうしてもシャーに残ってもらいたいのだ」

「パパ、シャーをよく見て」


 フィリップはシャロを見る。

 シャロはローランと話しているようだった。

 その表情、仕草、話し方を見る。

 普段なら気づくこともないだろう。

 クララに指摘されて気づいた。

 シャロはあの少年に恋焦がれているのではないのか?


「おい、まさか」

「そのまさかよー。あの子、帰ってきた時に想う人がいるみたいだったのよー。しかも、シャーの異変を感じて追いかけてくるくらいの紳士よ」

「つまり……?」

「あの子が冒険者になりたいのは、あの男の子について行きたいのよ。

 シャーもいずれ冒険者に飽きて帰ってくるわ。その時、横にいるのは……」

「娘が勇者をしょってやってくる!?」

「プランBへ変更よ!」


 その後、フィリップは手のひらを返したようにシャロの希

 望を聞くのだった。

 急な対応の変化にシャロは当初戸惑っていたが、クララから「頑張って射止めてみなさい」という耳打ちに全てを察したのか、

 耳まで真っ赤にしてコクコクと首を縦に振っていた。

 シャロは生まれて初めてクララを尊敬したいと思った。


 あと、ダークエルフの実力は相当のものだった。

 強さの証明のため、ローランが手合わせをしてみたが、その強さは魔軍の幹部クラスであった。

 こんなものを世に解き放って良いのか?と魔王に尋ねたが、「死ねと言えば自壊する。私とあのエルフ親子の命令だけを聞くように設定してある」と言っていた。

 ちゃっかり命令権に魔王を入れている。

 エルフが魔王を怒らせたらこの村は終わるなと思った。


 因みに、ダークエルフの契約期間は千年だそうだ。

 契約が終わると停止するらしい。

 それだけあればエルフの村の守備は十分固められるだろうと魔王が話すと、フィリップは十分すぎると返していた。

 ダークエルフの存在により、エルフの村に安寧が続くのであった。


 こうして、エルフの村でのとある問題は解決したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る