第16話 16 シャーロッテとマキシム

 マキシムにとって近接部隊は憧れだった。

 小さな頃はフィリップの父親であるアレックス・ルメートルの強さに憧れて、剣の稽古に励んだ。

 周りは皆、魔術を扱う中、剣に拘った。

 エルフの村を守る剣になりたかった。


 エルフとしての華やかさは捨てた。

 肉体を磨き、剣術を磨き、理想を磨けあげた。

 友であり、アレックスの息子、フィリップと共に剣の道を極めていった。


 フィリップは強かった。

 マキシムが認めざるおえない強さであった。

 だから、彼とならエルフの村は守っていけると確信していた。


「シャーロッテは、時期族長にさせる」


 この言葉を聞くまでは。


 フィリップのズボンの裾を掴み隠れる少女。

 誰とも目を合わせようとしない少女。

 物怖じし逃げ腰の少女。

 秘事の多い少女。


 私の知るシャーロッテは少女であった。


 ――では、この女性は誰だ。



 切り落とされた腕はごろりと地面に落ちる。

 マキシムはシャロを殺す気で戦った。

 彼女はそうでは無かったらしい。

 自分は生きていた。


「私の敗けだ……」


 認めざるを得なかった。

 その強さはフィリップに勝るとも劣らない。

 素晴らしい戦士だ。


『シャーはまだ若い、それはこれから我々が育てていけば良いと言っただろ』


 フィリップの言葉が蘇る。


『お前は一体、いつのシャロを見ているんだ?』


 かの少年の言葉が蘇る。


 シャーロッテは成長したのだな。

 彼女は努力したのだ。友と共に磨き上げてきたのだ。

 自分とフィリップのように。


 自分を恥じるべきだと思った。

 人とはこんなに変われるのだな。


「私を……殺せ」


 この子になら殺されても良いと思った。

 自分のこれまでの愚行を恥、悔い改め死ぬつもりでいた。

 しかし、


「マキシム、ボクはあなたは殺さない」

「何故だ!私は死ぬべき人間だ、生きてはいけない」

「あなたが生きることを嫌がるのなら、ボクは生きろと言う。生き地獄を生き、自分の罪を償って」


 その凛としたシャロの顔は女神だった。

 髪の短い金髪の女神だ。


「あなたが罪を償ったらまたここに帰ってきて。エルフの村は改めて、あなたを歓迎します」


 それがシャロとフィリップの間で交わされた約束であった。

 フィリップはマキシムを処刑するつもりであったが、シャロが反対した。

 彼の心はエルフの村のためである事を知っていたからだ。

 ただ、手段を誤っただけだと。


 また、マキシムが同じ過ちを繰り返すのなら次はボクが止めると言った。

 フィリップは驚いた。彼女の器の広さに。

 そして、我が娘を誇らしく思った。


 マキシムは泣いていた。

 肩を震わせて、泣いていた。

 その大男の背中はとてもとても小さかった。


「すまなかった。……本当にすまなかった」


 マキシムはひたすら誤っていた。

 自分の過ちをシャロに懺悔していたのだった。



 ふと、ローランはフィリップとクララの話し声が耳に入った。


「本当に娘は素晴らしく成長した」


 娘……?

 ローランはその言葉について考えて、その後のことは特に覚えていなかった。

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