第14話 14 魔王と盗賊団
今も襲撃で騒々しい村の中であったが、その中で氷の様に冷え切ったオーラを放ちながら歩く絶世の美女がいた。
金髪の多いエルフの村では珍しい黒髪でありながら、その顔立ちはエルフを凌駕している。
その膨らんだ胸はすれ違う男を即座に魅了していた。
着飾られたドレスはまるで女王の様な風格であったが、その目つきは魔王であった。
コツコツと石畳の上をリズミカルに進む美女を目の前に盗賊団たちは息を呑む。
それぞれに、あの美女を捕まえてどんなプレイをしようかと考えているのだ。
下品で下衆な愚かな奴らであった。
彼女はこの世で一番敵に回してはいけない存在とは知らずね。
一人の盗賊がナンパ感覚で声をかけた。
手には剣を持ち、抵抗すれば殺すというのを暗に示している。
ただ、その美女は怯む事なく笑わぬ瞳でにっこりの微笑んで見せた。
「美しい……」
そう、呟いてしまった。
しかし、その男は自分が影に飲み込まれていくのに気づいてしまった。
底無し沼に飲み込まれる様に、己の影に引き摺り込まれていく。
次第に影からいくつもの手が出てくる。
そこで気づくのだった。これは闇魔術であり、この女は俺たちの敵であると。
「なんだ……?魔術?結界を解いたのか?」
「いや、完全制圧まで解かない作戦のはずだ」
「ではなぜ、あいつは魔術を使っている」
盗賊団は混乱に陥った。
その一人の美女をどう扱えば良いのか分からないでいる。
ただ、闇魔術は夜と相性が良く、そして闇魔術に対するレジストができる魔術師が今村の中に居ないことだけは把握していた。
だから盗賊たちは足を揃えて逃げようとした。
しかし、
「逃がすわけないだろう」
静まり返ったその空間に鈴の様な声が響く。
美女の影から伸びた細い糸は全ての盗賊の首に絡みつき、真綿を絞めるようにジリジリのその首を絞めていく。
異変を聞きつけた大柄の男が現れた。
その大きな棍棒と何人かの部下を携えていた。
「なんだぁ?女一人になに手こずってんだ」
「親分!!よかった!」
何人かの盗賊から安堵の声が漏れる。
盗賊団のリーダー、カークであった。
「お前がこいつらの親玉か?」
「ほう?こんな美人さんから声をかけられるとは俺も売れたもんだ」
カークは下衆な笑みを浮かべながら、舐める様にその女性を品定めする。
エルフではない。しかし、その容姿は素晴らしい。
ボディラインなどカークの好みドストライクであった。
「お前、世界の半分をやろうと言ったらどうする?」
美女の突然の言葉にカークは首を傾げるが、その質問の意味を考えて答える。
「悪かねぇ。そしてもう半分も奪ってやるぜ」
「とことん欲の深いやつだ。勇者とは程遠いな」
「盗賊が勇者だぁ?変なこと言いやがって。頭のネジでも飛んでるのか?」
カークはけたけたと笑う。
その様子に安心したのか盗賊たちも緊張がほぐれる。
恐怖心は消えていった。
「私は勇者にお前を殺すなと言われている。とても残念だ。死にゆくものこそ美しいというのに」
ローランは盗賊団の処遇についてはエルフに任せる姿勢らしい。今回は捕縛を目的としていた。
影から伸びる糸がカークの腕に巻きつく。
これを宣戦布告と見たカークはその糸を自慢の怪力で引き裂いた。
「なんだぁ?アンチマジックエリアの中で十分な魔術を使いやがる。効いてないのか?」
「効いているとも。今の私は、いつもより三分の一しか力が出せておらん」
「こけおどしが。それが本当なら、ここで気絶させておかないといけないなぁ!!」
いくつものエルフを殺したその棍棒を振り上げ、叩きつける。
気絶どころではない、肉塊になってしまう攻撃である。
魔術師であれば受け止めることはできまい。
しかし、その一撃は魔王の片手によって受け止められてしまった。
「なにっ……!?」
「軽い、弱い、殺気が足りない」
受け止められた棍棒を離し、カークは女から距離を取る。
何者なんだ、この女は。人間ではないのか。
夜ということもあってか、そこで気づくのだった。頭にある角の存在に。
「アークデーモンだと!?」
「大味の武器というのがどういうものか見せてやる」
魔王は詠唱を唱える。
それは影より愛剣を召喚する魔術であった。
地から生える様にその剣は現れた。
二メートルはあるカークの身長と同じ大きさのその剣。
人間が持つことができるものではないと分かる剣だった。
魔軍の敵、パラディンを馬ごと引き裂く為に作られたその剣。
それは、勇者とのいくつもの激戦を繰り広げた魔王の愛剣であり、名を『エッケザックス』と呼んだ。
召喚が完了すると、その剣は魔王にもたれかかる様に倒れ込む。
魔王はひょいと片手で支えた。
「いくらなんでも、そんなもん持てる分ないだろう。脅しだ!馬鹿にしや――――」
一瞬であった。稲光の様に何かが光った。
闇夜に走る閃光と共にカークの持つ棍棒の断面が露わになった。
先端は地面に落ち、そのままカークの頬に傷をつけていた。
「すまぬ、踏み込みが甘かった。次はもう一歩前に出ようか」
魔王の一振りであった。
目にも止まらぬ速さで振られた斬撃に誰も反応できなかった。
カークは全てを悟った。
こいつは、本物の悪魔であり、自分はこれから地獄に連れて行かれるのだと。
そして抵抗しても無駄だということも。
完全なる戦意喪失であった。
白目を剥き、泡を吹き出しそうになる。
「今すぐお前の仲間を全員ここに集めろ。あと、忠告しておこう。大魔王からは逃げられない」
「は、はいぃ…………」
まるで蟻の行軍を潰す何色にも染まらぬ子供の様に無邪気で残酷な美女、いや、大魔王がそこにいた。
天をも貫き大剣を片手に持つ大魔王にその場の盗賊はみな白旗を振った。
盗賊団は魔王によって無力化されたのだった。
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