第12話 12 エルフと襲撃
日も沈み、エルフの村に夜がやってきた。
森に囲まれる村の夜はとても静かであった。
それは、多くのエルフが盗賊団の動きを警戒して、外の監視をしているからだ。
木作られた柵は高く、上には物見櫓が組まれている。
エルフ達は村総出で見張りをしていた。
ただ、誰も村の内側を警戒しているものは居なかった。
ルメートル家とマキシムは中央の屋敷に待機していた。
代理団長であるマキシムが見張りに出ていないのは、今は捕らえた侵入者を牢獄に放り込み、見張っているからだ。
シャロ自身は積極的に参加するつもりも無いので、今は捻挫をし寝込んでいるフィリップの元で談笑に花を咲かせていた。
母クララもまた、同じ部屋にいる。
家族の仲睦まじい空間が出来上がっていた。
ガチャリとドアが開く。
現れたのはマキシムであった。
地下牢での仕事を部下に引き継ぎ、シャロの護衛に移るため、部屋に入ってきたのだ。
「マキシム、侵入者の様子はどうだ?」
「驚く程大人しい。特にあのアークデーモンは冷静すぎて不気味だ」
「アークデーモン!?」
フィリップとマキシムの会話にシャロは驚く。
アークデーモンとはシャロが知っている単語だ。
まさか、ローラン達が来ていて、マキシムたちに捕まったのか?
「はい、シャーロッテ様が部屋にお戻りしている間に侵入者が来ましてな。拘束に成功し今、地下牢にて厳重に管理しております」
「その人たちはボクのこと何か言ってなかった」
「ルームメイトだ。と言っておりましたな。しかし、私の一撃を喰らい、へらへらした顔で立っておりました。あの様な者が学生とは考えにくいですな」
間違いなく、ローランだ。
ローランは学校の敷地にクレーターができる一撃も捌くことができる。
置き手紙はして来たけど、なんでもうこの村にいるの?
シャロは立ち上がり、マキシムに内容を聞こうとした時、
「伝令!!大規模な盗賊団の侵入を確認!!」
「侵入だと!?どういう事だ。見張りは何をしていた」
「それが、盗賊団が現れたのは内部からでして、エルフの抜け道が利用されました!!」
エルフの抜け道。
それはエルフのみが扱う極秘の呪文を使った移動方法であった。
森の中にある入口とエルフの村にある出口を呪文の詠唱で移動する魔術だ。
門外不出の魔術であるため、盗賊団が扱うことは出来ない筈だ。
「なんだと、それではエルフに内通者があると言うことに……」
その時だった。
その伝令で訪れたエルフ兵の背中から大きな血飛沫が噴き出したのは。
エルフ兵は白目を剥き、息絶えて地面へと倒れ込んだ。
その後ろに立っていたのは、マキシム・ベルナールであった。
その大きなファルシオンはエルフ兵の血がベッタリと付着し、ぽたぽたと血液を垂らしていた。
「マキシム、何を……?」
フィリップもクララもシャロも動揺していた。
マキシム・ベルナールが突如としてエルフの村を裏切ったのだった。
「申し訳ない。族長……いや、フィリップ・ルメートル。これからのエルフの村のため、大人しくしてくだされ」
――――
盗賊団統領カークは高笑いをしていた。
エルフのいかつい近接部隊の副団長から襲撃の提案が来て数ヶ月、入念な打ち合わせにより、エルフの村を追い詰めることに成功した。
人攫いのクラスターに接触し、エルフの副団長と口裏を合わせ族長に怪我を負わせ、その娘すら呼び戻す。
これで、族長一族とその関係者を丸ごと捕まえる計画が実を結ぶのだ。
村の外では盗賊団の魔術師によるアンチマジックエリアを展開していた。
アンチマジックエリアとは、魔術の威力を弱める結界であり、広範囲になればなるほど沢山の魔力と人員が必要になる。
その規模は都市レベルのエルフの村を包む物で、大量の盗賊団の魔術師を使用している。
エルフの抜け道から侵入した戦闘員は三百人、魔術を使えず、近接戦闘部隊の指揮者がいないエルフなど敵ではなかった。
「女は全員生捕だ!処女は売る、それ以外は留守番共の手土産だ。精々、いい慰め者になってくれるぜ!」
「男はどうします?」
「若いのは労働力で使える。それ以外は邪魔だ。殺せ!」
一方的な殺戮であった。
誰もが油断していたのだ。
村の内側にいれば安心と思っていたが、逆手に取られた。
事態を聞きつけ、柵にいた者が来たときには最愛の家族が人質に取られ、一方的に殴られる構図となっていたのだ。
カークも虐殺に参加した。
マキシムに並ぶ大男であるため、エルフとの体格差は大きく、その手に持つ棍棒の一振りでエルフの身体からは鈍い音を鳴らして息の根を刈る。
日頃の鬱憤を晴らす様にエルフを殺していた。
「しかし、副団長さんも酷いことをする。こんなことして、報復は怖くないのかね?」
「その責任を全て族長に負わせるつもりなんだろ?あのデカブツは」
マキシムがカークに話を持ちかけて来た時、彼は今の族長に不満があると言っていた。
なんでも、次期族長に貧弱な女のエルフを持ち上げておるとか。
エルフの族長が女性であった時代は今のところ無く、それが破滅に向かう可能性で言い争いになったこと。
表面的には和解したが、納得していなかったこと。
そして、ルメートル家を追放することを考えていること。
「まぁ、こんな楽しいことに参加させてくれるだけありがたいことだ」
虐殺、放火、強姦、強奪。あらゆる悪行がそこでは起こっていた。
エルフ達は絶望していた。
――――
ビリビリと光るその剣は電撃纏っていた。
マキシムの扱う剣に施された魔法陣は違法奴隷に印される刻印と同じ者で、電撃を放つ。
剣先に触れたものに電気を浴びせるのだ。
クララはその剣を当てられ、感電させられる。
シャロは恐怖に身を震わせていた。
マキシムへの恐怖、両親が殺されるかもしれない恐怖、窓の外から見える村が襲われておる恐怖。
沢山の恐怖が一辺に彼女の身体を拘束していた。
「マキシム、こんなことして許されると思うのか?」
「これはエルフの村の為でございます」
「エルフの村のため?」
フィリップは眉を寄せる。
この惨劇のどこがエルフの村のためだ。
むしろ逆ではないか?
「エルフの頭領を貧相なシャーロッテ様が継がれる。それが女とは聞いて呆れる。全てのエルフの安寧を約束する戦士の一族は男性のみがその族の長に相応しい。女性が長など歴史に残っていない!それなのにあなたは……」
「また、その話を蒸し返すのか。それはもう、和解した話だろう」
「あなたの中ではな!私はずっと、ずっとその考えに不満を持って来た!」
大きく目を見開いき怒鳴り上げるマキシムにフィリップは呆れた様に返す。
フィリップは話にならんと首を振った。
「確かにシャーはまだ若いが、それはこれから我々が育てていけば良いと言っただろ。誰しも事を成し遂げて産まれてきたものなどいない。段階を踏み、自信をつけ、成長する。そのステップを我々が準備してやる。それが先駆者の仕事だと教えたはずだ」
「たが、彼女にはその才があると思えぬ。今もなお、恐怖に震えている。勇気の一つもない者に村を任せたいと思うか?」
「事を急ぐなと言っておるだろ!」
「貴様の親バカに村を巻き込むなと言っているのだ!!」
マキシムの言葉にフィリップは驚いた様に言葉を飲み込んだ。
これがマキシムの本音なのだ。
マキシムはずっと思っていた。ルメートル家がもう少し子宝に恵まれていたら、兄弟に継承権を譲る選択肢もあったはずだと。
いくらフィリップの娘とはいえ、今マキシムの前にいる少女の肩にエルフの村を背負わせれるほどの器は感じることができなかったのだ。
「フィリップ、貴様の代わりは私がする。
貴様らを騒動が鎮まるまで地下牢へ送る。このエルフ兵たちは私の息のかかったものだ。せいぜい、下の侵入者と仲良くやることだな」
三人は抵抗できないまま、マキシムのエルフ兵たちによって地下牢へと連れていかれるのであった。
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