第11話 11 勇者とエルフの村

 エルフの村はウォルフォード領の大規模な森の中に身を潜めるように存在していた。

 深い森を進むといきなり現れる街で、村と言いながらも規模は都市レベルだ。

 中央にはお屋敷のような大きな建物があり、族長が住んでいるとのことだ。


 ローランたちはその村の入り口の門で立ち往生していた。

 ローランと魔王が入ろうとした時、守衛に呼び止められたのだ。

 盗賊団の騒動から、関係者以外は立ち入り禁止だと注意を受ける。


「だから!俺らはシャロの友達だ」

「ほう?シャーロッテ様とはどこで知り合ったのだ?」

「様って……。シャーロッテは偉いのか?」

「そんなことも知らんでよく友達と言えたな!ルメートル家の名を偽計に使う不届きものめ!ひっ捕らえよ!」


「おい、勇者。お前は交渉下手か?」

「うるせぇ!魔王ならなんとかなったのか?」

「無理じゃ、こいつらは自己完結がすぎる」

「じゃあ、俺のせいじゃないだろ」


 二人が言い合いをしていると、武装したエルフ達が二人を取り囲むように現れる。

 剣を持つもの、弓を構えるもの、詠唱を始めるもの。

 一触即発と言ったところだ。


「もう一度問おう!貴様らは何者だ!?」


 守衛が敵意剥き出しの目でローランに問いかける。

 ローランの困った顔を見せるが、すぐにキリッと表情を変える。


「シャロの友達だ!!」


 と、同時にバッと村の中に向かって走り始める。

 前方を固める剣士のエルフ数人がローランを捕らえようと距離を詰めてくる。

 振り下ろされる剣を銅の杖で弾く。鈍い音が響き、エルフの剣が弾き飛ばされる。

 ローランは銅の杖を振りかぶり、正面の壁のようなエルフの兵を薙ぎ払った。


 後方からは詠唱が完了し、その真っ赤な炎が魔王に襲い掛かろうとしている。

 しかし、魔王直前で消失をした。


「このアークデーモン、レジストを使うぞ!」

「無詠唱だ!気をつけろ!」


 魔術師のエルフ達が驚く。

 魔王は、他の魔術師が攻撃してこないのを確認すると、ローランの方へ走っていく。

 ローランたちはエルフ達が怯んでいる間に村へと侵入した。


「追え!侵入者だ!」

「代理団長にご助力を!」

「はっ!」


 走り去るローラン達の背から守衛達の慌てふためく声が聞こえる。

 目立ちすぎたなと後悔しつつ、ローランはシャロを探すことにした。


 高いところがいいと思い、住宅の屋根を伝い、街の中を見る。

 仕事や買い物に出ているエルフ達がこちらを見ていた。

 どれも容姿端麗、美男美女揃いだ。

 特に女性は色っぽく、服装も種族服なのか薄い緑色の衣装が目立った。

 金色の髪が多く、シャロを連想されるようだった。


 しかし、シャロの姿はない。

 街にはいないのか?


「いたぞ!!」

「さすがはエルフだな、動きが早い」


 ローランたちを追うようにエルフの兵が屋根に登ってくる。

 ローランと魔王は逃げるように屋根から降りると、エルフの兵達は「せっかく登ったのに」と呟いている。


 ローランはふと、先程の守衛が言っていた「シャーロッテ様」という言葉を思い出す。

 もし、シャロが偉い人の子供ならあの中央の屋敷にいるのではないか?

 そう思い、目指すことにした。


 屋敷の門にあたるところへ来る。

 しかし、予想外のことが起きた。

 現れたのだ、ムキムキのエルフが。


「おい、魔王。お前の料理を食べすぎてシャロがついにムキムキになったぞ」

「本当だな。顔もいかつくなった。あれでは折角の華がないぞ」


「貴様ら聞こえているぞ!!」


 マキシムであった。

 伝令を受け、屋敷から出てきたところだ。


「貴様ら、守衛から聞いた侵入者だな。目的はなんだ!!」


 その低い声は威嚇する狼のようで、鋭い目つきは獲物を狙う目そのものだ。

 先程までの守衛とはレベルが違うのは一目でわかった。


「俺はシャロの通う学校のルームメイトだ!シャロの様子を見にきた」

「ほう、今日は始業式であろう?学生の本分を忘れたか?」


「それをそのまま、シャロに返したいんだが」


 マキシムは剣を抜いた。

 その手に持つ剣はファルシオンであった。


「勇者、こいつは手練れだ。正直、無力化とか考えて戦う相手じゃない」

「分かってる。だが、出来るだけ殺すな。シャロの村と敵対したくない」

「もうしておるだろ」

「まだ間に合う」


 魔王はふっと笑みを浮かべた。

 何を根拠にと思いながら、魔王はマキシムに向き直る。

 弱い敵は怯ませたら戦意喪失を狙えるが、こう言った強い者は難しい。


「我が名はマキシム・ベルナール!推して参る!」


 その巨大な体躯から想像もできないほどのスピードでローランへ近づき、その大きなファルシオンを軽々叩きつける。

 一瞬判断が遅れたローランであったが、すぐに距離をとり、その攻撃を交わす。


 ローランは銅の杖を持ち、拙い詠唱をゆっくりと行うと、小さな小さな火の玉をマキシムに向かって放つ。

 ゆらゆら〜ポンッと火の玉はマキシムに当たると消えてしまった。


「何をやっておる、勇者」

「魔術だよ!ファイアーボールだ!」


 真剣勝負と息巻いていたマキシムに取って、それは最大の挑発行動だった。後ろに携えるアークデーモンはかなりの実力者、その関係者として警戒していたのだ。


「舐めおって!!死んで償え!!」


「凄いぞ!油に火をつけたな!勇者!」

「火に油を注ぐだ!魔王!」


 マキシムの暴風のような太刀筋をローランと魔王は難なく避ける。

 しかし、ローランが紙一重で交わしたところをマキシムの左腕に掴まれる。

 そのまま、引き寄せられ鳩尾に膝蹴りを入れられてしまう。

 並の人間なら呼吸できないほどの激痛が入る。

 これで捕獲完了だとマキシムは思った。


 しかし、ローランは蹴りを受けた後、マキシムの腕を振り払うと後方へと下がる。


「イッテェ〜。無茶苦茶しやがるな」

「なんだと……?貴様!何故立ってられる?」

「俺の体は丈夫なんだ」


 マキシムは先程の蹴りを入れた膝当てを見る。

 金属製のそれにはヒビが入っていた。


「ははは、面白い。貴様らのその実力、学校の生徒如きではないな!シャーロッテ様の学友では無いことはよく分かった!」


「おい、馬鹿勇者!演技でも倒れた方が正解だったみたいだぞ!」

「俺のせいかよ!」


「それに、後ろのアークデーモンから漂う魔力。その邪悪さ、学生が持って良いものではない!」


「魔王!おまえのせいじゃーか」

「私のせいなのか!?」


「貴様らのような学生がいるか!!貴様らは証言は一切信憑性が無い!

 まぁいい、時間は稼いだ。投降せよ!怪しい刺客ども!」


 二人が言い争いをしていると、それを取り囲むようにエルフたちが取り囲んでいた。

 その数は百を超えるだろう。

 流石にこれから逃げようと暴れれば死人が出る。


「これ以上の接敵は甚大な被害が出る。勇者、ここまでだ」

「そうみたいだな……」


 二人は両手を挙げて、戦意喪失を表すのだった。

 二人はエルフに捕まり、屋敷地下の牢獄へと投獄されたのだった。

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