第3話

 俺はハーレックの店で休んでいる間、ただひたすらに『馬車にサスペンションは必要』『無いなら作る』『作れないなら乗らない』と心に念仏のように唱えるのであった。


 その唱えが功を奏したのか、暫くして体調が戻った。


 俺はハーレックに感謝を告げようと、ハーレックの店の中でハーレックを探した。

 だが、ハーレックは見つからず、ハーレックの服屋を物色することにした。


「案外、綺麗な服が沢山あるなぁ。前の世界でいえば礼服みたいな感じか」


 ハーレックの店は現世でいう紳士的な服が多かった。俺も流石に異世界でジャージを着続けるのも気が引ける。

 というのも、ハーレックのようにいちいちこの世界の住人たちに、ジャージに感動されていたらキリがない。


「数着用意しておくのが妥当だな~」


 俺は普段着用に幾つか服を探していた所、


「ソウタさん、私の服に興味を持たれましたかな?」


 後ろからハーレックがニヤリとした商人顔を見せていた。


「あぁ、はい。何着か服を持っておいた方が良いかと思ったんで……」


 俺がそう言うと、ハーレックは上機嫌で、服の生地、そして仕立ての加工方法。生地の材料をツラツラ述べていったのだが、俺には全く理解出来なかった。


「——————というわけで、ソウタさんにおすすめのものはコレになりますかね?」


 ハーレックはお薦めとばかりに白色のシャツを俺に向けてくる。

 確かに見た感じ生地もよく、仕立てが整っていたのでハーレックに押されるまま、


「じゃあコレを3着見繕ってくれないかな?」


 俺が購入の意思を伝えると、「毎度あり~」と喜んで奥の方へと飛んでいった。


「……いくらか教えてくれないのか?……」


 このシャツがいくらなのか分からない俺はソワソワしながら、ハーレックが戻ってくるのを待っていた。


 準備が整ったようで、ハーレックが俺の元へと戻ってきて、


「ソウタさん、今回は3着ということで銀貨10枚になります」


 ハーレックの銀貨10枚に対して、「?」が脳内値浮かぶ。

 急いで異空間収納の中に入っているアルトベルト通貨というものを取り出すと、銀色のコインが30枚ほど入っていた。

 恐らくコレが銀貨だろうと


「銀貨ってコレであってるかな?」


 俺が袋から一枚取り出して、ハーレックに見せると彼は首肯する。


 俺はハーレックに袋の中の銀貨を10枚渡す。


 すると、一気に俺に不安感が襲った。

 服を3着買っただけで、所持金が2/3になってしまったのだ。

 

 というか俺はここにきて自分の行動を反省する。良くなかった点は、服が必要だったとはいえ、相場も知らずに買ってしまったということだ。


 俺は今更だが、アルトベルト通貨の貨幣価値についてハーレックに尋ねた。

 するとハーレックは不思議そうにしながらも教えてくれた。


 ハーレックの説明をまとめると、アルトベルト通貨には銅貨、銀貨、金貨というがあって、話を聞く限りでは銅貨一枚でパン一つ買うことができるそうだ。そして、銀貨は銅貨の100倍ほどの価値があり、金貨は銀貨の50倍ほどの価値があるとのことだった。

 

 となると簡単にパンの相場が1つ、100円だとすると、銅貨が100円、銀貨が10,000円、そして金貨500,000円という換算になる。


 俺は服に軽く昔でいう10万円を消費してしまったのだが、だが時既に遅し。


 ハーレックは売れた売れたと嬉しそうな顔をしている。

 そんな彼にやっぱり買うのをやめるなどと言えず、しょぼくれていた所、ハーレックが俺にこう告げる。


「いつでもその今服を売りたくなったら言ってくださいね。いつでも高く買い取らさせていただきます。先程お話しした通り、金貨20枚で取引させていただきと——————」


 ハーレックが金貨20枚と言った時、俺は即座に「はい、売ります」と言葉が出た。


 これでは今までお世話になったジャージには申し訳ないのだが、こいつには犠牲になってもらおう。


 俺がジャージを売ると決意すると、ハーレックは昇天する勢いで、


「あぁなんとぉぉぉ、私に服の神様が舞い降りたようだぁぁあ。この至高なる生地をさらに研究して、さらなる服が作れる。そんな未来が待ち構えていると思うと私、ゾクゾクしますぞォォ」


 ハーレックが一人盛り上がっている所、悪いのだがハーレックの気が変わらないうちに、俺はさっさとジャージを脱ぎ捨てた。


 シャツは先程買ったのだが、ズボンが無いのでハーレックに良いものがないか聞いたところ、「なんでも好きなものを持っていってください」と言っていたので迷わず1番高そうなものを物色しておいた。


 ジャージがこんなにも役立つとは思いもしなかった俺はハーレックに着替えるための更衣室を借りた。


 そして、買ったばかりのシャツとズボンに着替えると不思議なことが起こった。



『アイテム鑑定を発動しました。


【アイテム名:最高級の上質なシャツ】

【アイテム名:最高級の上質なズボン】

 の装備を確認しました。

 

 さらに、【#固定能力付与__スーパーエンチャント__#】により、装備する物に特定の能力付与が出来ます。

 只今、使用許可が下りている能力は以下。


【自動洗浄】【防汚】【消臭】【芳香】【自動治癒Lv.1】【状態異常耐性Lv.1】【怪我防止】【自動修復】』



 と目の前に表示されたのである。

 恐らく俺があの白髭の爺さんに頼んだ能力が発動したのだろう。


 俺の考えでは武器や防具に作動するようにということだったが、何かの手違いか服にも効果が作動してしまったみたいだ。


 だが、適用範囲が増えたのであればお得でしかないので、俺はハーレックから買い取った服に能力を発動させる。


 初めてであるが、【#固有能力付与__スーパーエンチャント__#】を使用した結果がこうだ。


_________________________________________


【アイテム:最高級の上質なシャツ】


『固有能力付与』


 効果


 【自動洗浄】【防汚】【消臭】【芳香】【自動治癒Lv.1】【状態異常耐性Lv.1】【怪我防止】【自動修復】


_________________________________________


【アイテム:最高級の上質なズボン】


『固有能力付与』


 効果


 【自動洗浄】【防汚】【消臭】【芳香】【自動治癒Lv.1】【状態異常耐性Lv.1】【怪我防止】【自動修復】



_________________________________________



 着心地も補正が入っているのか礼服よりも堅苦しくなくかなり良かった。


 俺が更衣室から出てくると、ハーレックは目をパチクリパチクリさせていて、「はて、私そんな良い服に仕立てましたかねー? そんな記憶ありませんがねー、まぁ着ている人がいいのでしょうか」などと言っていた。


 俺としては別に大した差は無いと思っていたのだが、ハーレックからすると凄い違いだったのだろう。

 それに気づけるだけハーレックは服に精通しているということだ。


 俺はジャージの売却代として金貨20枚をハーレックから貰い、少しだけ罪悪感に駆られながらもハーレックの店を去った。


 ハーレックの店を出る際に、ハーレックから冒険者ギルドへの紹介状を貰った。


 コレを見せると早く冒険者登録する事が出来るかもしれないとのことで、有り難く頂いた。


 目当ての冒険者ギルドだが、ハーレックの店から出て西側の方向にあるとのことだった。


 ハーレックに教えて貰った通りの道順で歩いていると、街の周りには金属の鎧を着ているゴツい男や背中に長い剣や槍を携えている人の集団が見えてきた。


 あの集団の近くにある、剣がクロスになったエンブレム。


「あれがファンタジー世界、ど定番の冒険者ギルドだな」


 俺はハーレックの案内状を持って、冒険者ギルドの扉に手を掛けた。


 扉を開くと、中からは賑わった雰囲気に、酒のツーンとした匂いと独特な血の匂いが立ち込めていた。

 この匂いを嗅ぐと服に【消臭】と【芳香】という効果があったことに感謝を覚えるのだった。

 

 物珍しそうに俺を観察する荒くれ者の冒険者たち。


 俺はそういうのは無視して、一直線に案内らしきところへと向かった。


 冒険者ギルドの案内嬢は、異世界ファンタジー系の作品では、美人であるのが定番だが、目の前に鎮座している女性も例に違わずかなりにの美貌の持ち主だった。


「あの、すみません。冒険者登録したいのですが、こちらであってますか?」

 

 俺は目の前にいる美貌の持ち主に、少しばかり頬を赤らめながら尋ねる。


 俺の様子とは打って変わって、冷静に事務作業に従事する受付嬢、


「はい、こちらであってますよ。何か推薦状や、紹介状はお持ちですか?」


 俺は受付嬢の指示通り、ハーレックに渡された紹介状を渡す。


 受付嬢は紹介状を確認すると、受付嬢は驚いた様子で、


「あのハーレック様が紹介状を書くなんて……」


 ハーレックは意外と知名度があるようで、なんだか俺も注目されたと思って悪い気がしなかった。


 そして、冒険者登録には犯罪履歴が無いかどうかの確認が必要だということで、


「では、ソウタさん。こちらの水晶に軽く手を翳して頂いてもよろしいですか? 何も犯罪履歴が無ければ白色に発光しますのでどうぞ」


 受付嬢に言われて、俺は水晶に手を載せる。


 もしかしたらハーレックにジャージを売り付けたのは詐欺罪になるかと少しヒヤヒヤしたのだが、それは大丈夫のようで水晶は白色に発光した。


「はい、こちらは大丈夫のようですね。ご協力有難うございます」


 そして、水晶での確認が終わると、次は受付嬢がカードのような物を渡す。


「こちらにソウタさんの血を一滴垂らしてください。そうすればこのカードにソウタさんの討伐成果が自動的に加算されるようになりますので」


 仕組みは分からないが、討伐や達成記録は渡されたカードにどんどん記録されていくようで、ギルドではこのカードを見せれば素早く対応できるとの事だった。

 血を垂らして登録が済むと、冒険者についての大まかな情報を説明してくれた。


 大体ファンタジーものと変わらない部分が多く、冒険者の仕事は大まかに分けて、討伐依頼、護衛依頼、採集依頼、雑用依頼というものがあるという。 


 そして、冒険者にはランクというものが存在して、上からSSSランク、SSランク、Sランク、A、B、C、D、Eランクとあるとのことだった。

 依頼のレベルによって推奨ランクが変わってくるとのことだった。

 またランクが高ければ高いほど、加えてAランクを超えると準貴族としての特権が与えられるので注意しておくようにとの事だった。

 そして、依頼の受け方は、依頼ボードに掲載してある依頼を選んで、受付嬢へと報告することで依頼を受注したことになるとのことだった。


 細かく冒険者ギルドについてを丁寧に説明してくれた美人な受付嬢は


「じゃあ、冒険者に関しての説明はこんな感じです。また困ったことがあったら私に相談して頂戴。あ、名乗ってなかったけど、私の名前はシーラよ」


 美人の受付嬢、シーラは俺に手を差し伸べる。


「うん、よろしくお願いしますね。シーラさん」


 そうして、俺とシーラは握手を交わした。


 俺とシーラさんが握手を交わしているところに、後ろから太い男の声が響いてきた。


「おい、テメェ。何、馴れ馴れしくしてんダァァ。ぁあ?」

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