第2話

 浮遊感に包み込まれた後、俺は瞼を押し上げるとそこには広大な大草原が目に映った。


 そして、草の特有の青々とした爽やかな匂いが鼻腔を擽り、さらに天高く昇った太陽が爽やかさを掻き立てる。


 そんなほのぼのとした光景に、


「最高の昼寝日和じゃんかよ。前の世界だったら絶対昼寝してやったのに」


 俺は最高の昼寝日和を逃したなと少し損をした気分になった。


 すると、ある物に気づく。 

 それは1通の手紙であった。


 俺はおそらく白髭の爺さんからだろうと思い、手紙を開いた。

 俺の予想通り、その手紙は爺さんからのようで。



『 

 この手紙を読んでいるっていうことは無事に転移出来たということじゃな。

 なるべく問題なく行くように街になるべく近いところに転移させておいたぞ。感謝するのじゃ。

 そして、見渡せば分かると思うのじゃが、すぐ見えるのがフィンブルド領という街じゃ。

 まずはそこに向かうと良いぞ。

 そして、手取り早く冒険者登録でもしとくと良い。冒険者登録するとそれが身分証明書代わりになるからな。

 それとじゃが『異空間収納』を開いて見てくれ。

 そこにある程度のお金を用意しておいたぞ。

 最初にお金がないと困るじゃろ?

 ということで儂からの配慮じゃ。

 伝えておくことは以上じゃな。

 他のことは自分なりに何とかやるんじゃな。

 とにかく幸せな人生を送ることを願っているぞ』


 という内容の手紙であった。


 爺さんの手紙の通り、見渡す所に街のようなものが見えた。

 おそらくあの城壁に囲まれたような街がフィンブルド領であるのだろう。


 そして、『異空間収納』を確認してみると、爺さんの言う通り、アルトベルト通貨というものが入っていた。アルトベルト通貨ということはおそらく、ここはアルトベルトという国なのだろうと俺は推測する。

 正直、俺は爺さんの配慮に純粋にありがたいと思う。いきなりせっせと日銭稼ぎをしなくて済んだ。


 そして、俺は爺さんが勧めるフィンブルド領へ向かうべく歩き出した。


 フィンブルドへの道は商人が行き交うことで出来上がったのか、草木が削られたような土が見えた茶色い道が長く続いていた。

 俺はその道を辿るように歩いていた。


「とりあえずはフィンブルド領へと行き、冒険者ギルドに行って冒険者登録か」


 俺はフィンブルドへと歩きながら、領内へと入った時のことを考えていた。


 すると、ゴロゴロという音と何かの息遣いと足音が後ろから聞こえてきた。


 俺は後ろを振り返って確認すると、そこには一台の馬車がこちらへと向かっていた。


「移動手段は馬車なんだな……」


 ふとここが本当に異世界なんだなということを認識する。現世の移動手段なんて大体が車、電車だったからな。


 俺は馬車を通す為に道を逸れた。

 のだが、来た馬車は予想を反して俺の横を通過せず、俺の下で停止した。



 そして、小さくて丸っこい体型の丸眼鏡の男の人が勢いよく馬車から出てきた。

 男は鼻息を荒くして、俺に詰め寄ってくる。


「き、き、君っ! その服はなんだい? それにこの上等な生地! 丁寧な縫い目に、精巧に加工されたこの布! そして、この仕立ての良さ! よく見れば風通しの良さそうにも見えるっ! そして何とも斬新なデザイン! 金貨10枚、いや20枚払おう! 是非私に売ってくれないか?」


 男は俺の服をべたべた触り、ツラツラと感想を述べていく。

 対して俺としては「え!? ただのジャージですが……」


 男は俺の着ているジャージに夢中のようで、俺も男にベタベタされて喜ぶような趣味もないので、辞めとくれと示した視線を送ると「コホン」と咳払いをして、


「た、大変申し訳ございません。申し遅れました。私はフィンブルドを中心で服職人として活動をしております、ハーレックと申します。あなたの着ている物が凄く珍しく、上質なものでしたので思わず……」


 ハーレックと名乗った男は行き先のフィンブルドで服職人として活躍しているという男だった。


 俺もハーレックが名乗ったのに対し、自己紹介をした。


「なるほど……フィンブルドへ行く途中だったのですね! であれば、出会ったのも何かの縁ですし、一緒にフィンブルドまで私の馬車へと乗っていきませんか?」


 ハーレックは街へ戻るついでに、俺をフィンブルドまで馬車で送ってくれるとの事だった。


 俺も歩き続けるというのも大変だと思ったためハーレックの言葉に甘えて、馬車へと乗り込むことにした。


 俺はハーレックの馬車に乗り込み、ハーレックが合図を出すと馬車が動き出す。


 歩くこともなく案外気楽にフィンブルドまでいけると思っていたのだが、予想が甘かった。


 馬車が進み出した途端、激しい揺れが俺を襲った。

 サスペンションがしっかりしていない為か、振動が直接、座席に伝わってくる。

 そのたびに尻を強打する。

 俺は尻を殴打される苦痛に苦しんでいるのに対し、ハーレックという男は何ともないかのように座ってある。

 

 馬車に乗っていたのは十数分だったのだが、苦痛の為か、それ以上に長く感じられた。

 途中、ハーレックは「服を売ってくれないか」と必死に俺に言ってきたが、それどころではなかった。


 あまりの苦痛に放心している中、ハーレックさんがフィンブルドへと到着したと告げた。


「ソウタさん、フィンドブルドへと到着しましたよ」


 と告げるのだが、俺は手で制して「もう少し休ませてくれ」と主張する。


 ハーレックも困り顔の表情を浮かべ。


「はぁ……それなら暫く私のお店で休んでいかれますか?」


 ハーレックは優しく店で休むことを提案してくへた。ハーレックにはここまで連れてきて貰って、さらには休ませてもらうなんて、おんぶに抱っこの状態だが、俺は今回ばかりは言葉に甘えさせて貰った。

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