第4話
「おい、テメェ。何、馴れ馴れしくしてんダァァ。ぁあ?」
太い男の声が鼓膜に響く。
俺は後ろを振り返ると、そこには裕に2mを超えた大男がそこにいた。
大柄の体格に、隆々とした筋肉。
さらには歴戦の戦士を彷彿とさせる顔面の刀傷。
さらにはどこぞの魔剣なのか、威圧感を放つ紅色の剣。
大男は何かが気に食わないのか、俺に詰め寄ってきて
「テメェ。何、シーラと馴れ馴れしくしてんダァァ」
と大男は俺に言う。
俺はもしかしてシーラさんのボーイフレンドなのかと思って、握手した事を謝ろうと
「あ、すみませんでした。シーラさんのボーイフレンドの方でしたか……僕もついついごめんなさい」
誠心誠意、頭を下げて、シーラの彼氏さんに謝ったつもりなのだが、俺が頭を上げてその男の顔を覗くと、男の顔が真っ赤に染まり上がっていた。
そして、何故か知らないが冒険者ギルド内で大爆笑が巻き起こっていた。
———あの少年、笑いのセンスは高いみたいだな
———シーラさんのボーイフレンドだってよwww
———太刀の悪いストーカー男の間違いだろwww
俺はギルド内でヒソヒソと話されている内容に、大体の予測を付け、やってしまったなと頭を抱える。
そして、シーラさんも俺と同じように頭を抱えていた。
恐らくだが、この大男は何度も何度もシーラさんに関係を迫っているのだが、何度も断られ、挙句の果てにそれを拗らせ、シーラさんが他の人へと渡らないように、周りを牽制していた、痛いメンヘラ男なのだろう。
こんなに体は大きいのに、女々しいやつだなと俺は思う。
そして、ギルド内の嘲笑が大男にも聞こえているようで、男は顔を一気に染め上げる。
そして、その大男の恥辱が憤怒に変わるのは一瞬の出来事だった。
「貴様ァァァァ、ひよっこの分際で俺をコケにしやがって! 決闘だ! お前をボッコボコにぶちのめしてやるよ」
大男に俺は宣戦布告を突きつけられたのだった。
だが、別に闘う理由を持たない俺は
「いやいやいや、僕、今日冒険者ギルドへ登録しに来たばっかりですし、あなたの鬱憤を晴らすためだけに決闘なんてしたくないですよ。それにする意味がないですし。それに闘う武器すらまだ無いんですから、はははは」
乾いた笑いで何とか切り抜けようとする。
俺が決闘の申し出を断るのも当然だ。
まず決闘の動機が完全にこの大男の八つ当たりでしかない。
こんなメンヘラ男に付き合っている暇なんて無いし、そんなことしても俺に一切メリットがない。
決闘と言うんだから、何かを賭けたりするのが当然だと思う。
だが何かを賭けたところで決闘はしないが。
誰が決闘なんてするのだろうか。
冒険者に成り立て、それも今登録したばかりの奴が決闘を受け入れるわけもないのだ。
それすら分からないとはこの男の頭もかなり終わっている。
「ということで、決闘はしません。他を当たってください」
と俺があしらう様に、大男の決闘申し込み破棄する。
だが、現実は甘かった様で、
「おい、お前。俺の決闘から逃げられると思っているのか?」
大男はニヤリと、汚い歯を見せつけて。
大男は冒険者ギルドのカードを俺に見せつける。
すると、そこには『Aランク冒険者』という表記があった。
シーラさんの説明を振り返ると、確かAランク冒険者以上は準貴族としての扱いとなり、特権が与えられる。
そして、特権を行使すれば、無理矢理にも決闘を受けさせることも可能だと大男は説明する。
俺は本当に正しいのか真偽を確かめる為に、シーラさんに助けを求めるが、シーラさんは頭を抱えながら「決闘は許されます」と俺に申し訳無さそうに言った。
周りの大男を嘲笑した連中は
———あの少年可哀想だな。せっかく冒険者登録したばかりなのによ。
———はぁ、性格が糞だが……実力だけはあるからな……
———初日で『紅魔剣のグレン』に絡まれるとはあいつついてないなぁ
なんてヒソヒソと話す。
確かに俺の発言でこうなっているのだが、半分はお前らの所為だろと俺はそいつらを睨みつける。
俺はAランク冒険者の『紅魔剣のグレン』に絡まれたせいで、決闘を受ける事になってしまった。
まぁ強制的に決闘を受けなければならないのはかなり納得はいかないが、受けなければならないのであれば俺も受けざるを得ない。
だが、色々と条件をつけさせてもらおうと俺は考える。
「あぁ、わかったよ。ただし条件をつけさせてもらってもいいか。まず、殺傷するような攻撃は無しにしよう。流石に俺も命が惜しい」
俺がそういうと、グレンは紅魔剣に手をかけ、「いいぜ、殺すのは無しにしよう」と笑みを浮かべた。
そして、俺はさらに条件を付け加える。
「武器が壊れた方も負けにしよう」
そういうとさらにグレンは醜い笑みを浮かべる。
相当、紅魔剣とやらに自信があるようだ。
そして続けて俺は条件を加えていく。
「決闘となったらやはり何かを掛けて勝負するものだろう?」
俺の問いに対しても瞬時に「あぁ!」と頷き、自分が負けるなんてことは眼中にないようだ。
まぁそれは無理もない。
入りたての新人冒険者に負ける可能性を考える、Aランク冒険者の存在の方が希少性が高い。
「じゃあ俺が負けたらこの『紅魔剣』を賭けてやろうじゃないか?」
グレンは賭けるものとして、紅魔剣を差し出した。だが、やはりこいつは根本的に頭が足らない。
「じゃあ、もしだが紅魔剣が壊れた場合はどうするんだ?」
と俺が聞くとグレンは「ぁあ?」とそんな事あり得るわけないだろと言わんばかりに声を荒げて、
「もしそんな時があったらお前の言うこと何でも聞いてやるよ」
嬉しそうな笑みでグレンが言った。
俺も何でも言うことを聞いてもらえるという条件には満足したので「それでいい」と答える。
「じゃあ、俺が負けた場合はどうすればいい?」
と俺が聞くと、グレンはシーラを舐め回すように見てから
「お前が負けたら、シーラは俺の女になる」
それでどうだ、とさらなる暴挙を見せる。
「いや、それは条件にならない! 俺が負けたら俺が冒険者を辞めるってのはどうだ?」
俺が冒険者を辞めることを条件に出したのだが、
それは誰かの手によって制された。
それを制したのは受付嬢のシーラさんだった。
「わかったわ……条件として、ソウタ君が負けたら私があなたの女になってあげるわ……」
シーラさんはそうグレンに向かって発した。
俺の耳元でシーラは「迷惑かけてごめんなさい」と寂しそうに呟いた。
「おぉ? 良いじゃねぇか。早く決闘をしようじゃねえか? まぁただの公開処刑になるだけだがな、ハハハハハハ」
グレンは念願が叶うと、信じて止まず笑い声をあげる。
俺はシーラさんの様子に胸がざわめき、そしてそうさせた元凶の男、グレンに猛烈な怒りを抱いた。
シーラさんによって決闘の条件が決定し、俺とグレンは決闘をすることになった。
決闘することになった俺は、受付嬢のシーラさんに頼み事をした。というのも、俺は決闘するための武器すら一切ないのだ。
だから、冒険者ギルドにある武器を借りることにした。
「出来れば1番ボロボロの剣を持ってきてくれないかな。そして、それを俺に決闘の間貸してもらえない?」
俺がシーラさんにそういうとシーラさんは指示通り、これでもかと言うオンボロの剣を持ってきた。
それと同時に刃毀れの綺麗目の剣をもう片方に持っていた。
シーラさんは不安そうな表情で「本当にそんなもので大丈夫なの?」と心配してくれる。
シーラさんが心配しているのは恐らく俺が負けてしまい「自分があんな奴の女になるという」心配事なんかよりも、俺が怪我をするとかそういう類のものだと感じる。
俺は不安そうなシーラさんに「絶対大丈夫、あんな奴にシーラさんは渡さない」と言い、オンボロの剣を持ち、強く握り締めた。
その瞬間、どことなくシーラさんの顔が赤くなったのは気のせいだろう。
俺がオンボロの剣を持つと、
『アイテム鑑定を発動しました。
【アイテム名:オンボロ刃毀れ剣】
の装備を確認しました。
さらに、【#固定能力付与__スーパーエンチャント__#】により、装備する物に特定の能力付与が出来ます。
只今、使用許可が下りている能力は以下。
【不壊】【斬撃強化Lv.1】【武器破壊】【身体強化Lv.1】』
そして、俺は服の時の容量で、オンボロの剣にも能力を発動させた。
_________________________________________
【アイテム:オンボロ刃毀れ剣】
『固有能力付与』
効果
【不壊】【斬撃強化Lv.1】【武器破壊】【身体強化Lv.1】
_________________________________________
そして、防御面で心配だった俺は、先程嘲笑した奴から、仕返しとばかりに鎖帷子を無理矢理脱がして、自分に装備した。
「おい、いきなり何すんだよぉ。あ、それは最近お金が貯まって買った鎖帷子ぁぁ!」
脱がされた冒険者は騒いでいたが、原因の半分はこいつらにもある。「後で返すから」と言って拝借する事にした。
『アイテム鑑定を発動しました。
【アイテム名:一般的な鎖帷子】
の装備を確認しました。
さらに、【#固定能力付与__スーパーエンチャント__#】により、装備する物に特定の能力付与が出来ます。
只今、使用許可が下りている能力は以下。
【不壊】【物理攻撃半減】【魔法攻撃半減】【身体強化Lv.1】』
_________________________________________
【アイテム:一般的な鎖帷子】
『固有能力付与』
効果
【不壊】【物理攻撃半減】【魔法攻撃半減】【身体強化Lv.1】
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