第47話 ごめんなさいの方法
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だめだった。
ほかのご主人様の前ではなんとか冷静に振る舞えても、須藤樹の前ではだめだった。
今日、彼と会った瞬間、仮初の気丈夫なまるちぃはあっけなく瓦解して、にゃんメイドにあるまじき失態を犯した。
あのあとまどかは、控室で店長や先輩メイドに厳重注意を受けた。
須藤樹とは店の外でも会ったことがあると言ったこともあり、今回の騒動の原因がまどかにもあるという結論からだ。
つまり、にゃんメイドとご主人様という枠組みを安易に飛び越えたゆえに、要らぬ感情を須藤樹に抱かせてしまったのではないかという。
そんな簡単な話ではないが、まどかは一切の反論もせずに反省を示した。
店から強制排除された須藤樹だが、半分がまどかのせいというのもあり今後、彼の入国を禁じるという措置は取らないようだ。
しかしまた同じようなもめごとが起こる可能性もあるとの懸念から、須藤樹は監視対象になるとのことだった。
ちゃんと謝らなければならない。
須藤樹が納得する理由を携えて。
しかし、まるちぃがまるちぃでなくなった理由を詳細に説明するなどできない。
それを口にすれば須藤樹は確実にまどかを軽蔑するだろうから。
耐えられない。
これ以上、彼に嫌われるのは――。
そこはうまく濁して、とにかく須藤樹のせいではないことを強調して誠心誠意謝ろうとまどかは決めた。
《ひだまりハイム》が見えてくる。
そこは居場所ではないただのモノクロな住処だったのに、今ではやけに色づいて見える。
須藤樹が染めてくれたのだ。
なのにまどかは自らの過ちによってその色を消そうとしている。
いやすでに暗雲のような灰色が見え隠れしている。
このままでいいわけがない。
ふと芽生えた意思に従うと決めたとしても。
謝罪の方法はどうするべきだろうか。
面と向かってというのが正しいと思うが、夜の九時を回っている現在、インターホンを鳴らして彼を呼び出すのは非常識だろう。
仮に鳴らしたとしても、向こうに話す気がなくて出てこない可能性だってある。
そもそも彼が出てきてくれたとして、伝えたいことを冷静に口に出せるとも限らない。
――手紙、うん、手紙にしよう。
気持ちを込めるなら手紙ほど最適な媒体はない。
伝えたいことを自分の手で自分の字で書くのだ。
今日のうちに書いてポストに入れておけば、明日には読んでくれるだろう。
まどかは急く気持ちから速足になる。
《ひだまりハイム》の外壁に沿って左に進路を変えようとしたところで、まどかは咄嗟に後ずさった。
須藤樹がアパートの入口に立っていたのだ。
ゆっくりと鼓動を落ち着かせてからそっと左方を覗くと、須藤樹は反対側へと歩いていき、《ひだまりハイム》を左へと折れた。
こんな時間にどこかに出かけるのだろうか。
いや、そんなことよりとなりにいた女性は誰なのだろうか。
とても可愛らしい人だった。
仲良さげに話していたが、友人なのだろうか。或いは恋人。
アパートから一緒に出てきたような気がしたが、それなら恋人の可能性が高い。
まどかの中で落胆と嫉妬がうごめいた。
漠然と須藤樹は女性には疎いと思っていたから猶更だった。
皮肉にもその二つの心の動きと同時に、まどかの須藤樹に対する気持ちが明確化される。
まどかは、女性が須藤樹の彼女ではないと強引に決めつけると自室へと駆け込んだ。
手紙を書こうというそれだけで頭がいっぱいで、まどかはバッグに入れてあるスマートフォンの着信に気づくこともなかった。
店員のありがとうございましたの声が背中に届く。
僕はコンビニを出ると、早速、ウーロン茶で喉を潤した。
この場で同時に買ったお弁当をかっ食らいたいほどのお腹が減っているけれど、さすがにそれは止めておいた。
それにしても最近はコンビニやスーパーで、出来合いのものばかり食べているような気がする。
母親との約束で毎週、月、水、金と実家で夕飯を食べてはいるものの、もう一つの決め事である自炊のほうがめっきり遠のいてしまった。
カレーって、どうやって作ったっけな。
半年前に独り暮らしを始めたとき、カレーを含めたそのほかの調理方法を柑奈に教えてもらったけど、もう全て忘れてしまった。
その柑奈が僕にこんなことを言った。
まっすぐな心を持っているから、もうだめだってところまでいって――と。
それは信之が口にした、《気持ちをぶつけるのが僕の責任》というのと、意味合いは一緒なのかもしれない。
ではどうすればいいのだろうか。
まるちぃに避けられて、まるちぃに理由は何かと迫り、マナー違反をして《にくきゅーフレンズ》を追い出されたご主人様失格の僕が、一体何をどうすればいいのだろうか。
どん底まで堕ちた僕には、もはや縋る藁さえもないような気がする。
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