11-2


 メッセージアプリの通知を開くと、飲食店や通販等公式アカウントからのPRメッセージがほとんどだった。

 スルーしようとして、その中にぽつんと一つだけ山崎の名前があることに気が付く。


 『今日久しぶりに六花、どう?』


 送信時間は昨日の夕方。金曜日だし久しぶりに飲みに出かけようという誘いだったのだろう。しかしその頃玲は死に物狂いで仕事を片づけ、家に帰って即ダウンしていた。


 (うわ~~見てなかった!)


 玲はすぐに謝罪のメッセージを打つ。


 『すみません、昨日残業してて気が付きませんでした! また今度、埋め合わせさせてください』


 打ち終わって、一呼吸。枕に頭を預ける。

 すると間髪入れずに通知音が鳴った。


 『大丈夫。お疲れ様』


 なんとか一件落着だ。そう思って寝返りを打とうとした瞬間、暗くなった画面がまた光った。

 咳をしながら画面を見ると、山崎からの着信だった。


 「もしもし……」

 『悪い、突然。今大丈夫か?』


 なるべく咳がでないように話す。


 「はい、どうしました?」

 『昨日雪子さんから聞いたけど、誕生日おめでとう』

 「あ~……、ありがとうございます!」


 すっかり忘れていた。スマホのカレンダーに表示されているのは、七月二十四日。ケーキのアイコンがついている。玲の二十六歳の誕生日だった。


 『もし予定入ってなかったら、飯でもと思ったけど。なんか疲れてる?』

 

 流石に声のトーンで感づいたのか、山崎が気遣わし気に問いかける。

 

 「いえ、ちょっと体調良くなくて……。すみません、またの機会に」

 ついに抑えきれなくなり、こんこんと咳をした。

 『風邪?』

 「あはは、そうみたいです」


 寝てれば治ります、と続けようとしたが、喉の調子が悪くて声を出しにくい。


 『なんか食うもん、あるのか? 買ってくけど』

 「いえいえ、大丈夫で……」

 冷蔵庫の中を思い出す。正直、大丈夫ではない。風邪引きが摂取してはいけない物しか入っていなかったではないか。


 (山崎さんになら、甘えてもいいかな……)


 もはや強がっている場合ではない。玲は素直に甘えることにした。薬は飲んだものの、若干まだ微熱ぎみで足に力が入らない。

 お礼は次回の飲みで倍にして返そう。


 「山崎さん、本当に申し訳ないですが……」

 『いいよ。特に用事なかったし』

 珍しく変につっかかったりせずにすんなりと返事をしてくれた。いつもなら「じゃあ全額おごりでよろしく」なんて冗談めかした事を言ってくるはずなのに。


***

 

 咳をしすぎて疲れた玲は、しばし微睡んでいた。

 しばらくして、インターホンの音で目覚める。


 「あ! はーい……」


 急いでマスクをして玄関に向かう途中、姿見を見て玲はサア、と血の気が引くのを感じた。


 (待って、私こんな髪ボサすっぴんを山崎さんに晒すの?!)


 弱っていてそこまで気が回らなかった。流石にすっぴんで会うのは初めてである。素早く手櫛で整え、玄関をわずかに開けると。


 「大丈夫か」

 

 ドアの隙間から、山崎と目が合った。

 カラオケの日以来、会っていなかったこともあり、急に顔全体が発熱し始める。

 最後に覚えている山崎との記憶が、転びかけて抱き着いてしまったシーンで止まっているのだ。


 「はひ……」

 「頭までやられたか……?」 

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