11杯目 夏風邪とふわふわ卵の雑炊

11-1

 ※この作品は、新型コロナウイルスの感染が拡大する以前の設定で描写しています。感染の疑いがある場合は、医療機関等に相談し、受診しましょう。また、社会人の皆さまは無理は禁物ですよ! 以上の注意事項をご理解の上、お楽しみいただければ幸いです。


―――――――――――――――――


 残業を終え、やっと家に着いた玲は、バッグを置くと廊下に座り込んだ。

 部屋の中は熱がこもってサウナと化しており、外の方が涼しいくらいだった。なんとしてでも早急にエアコンで部屋を冷やしたいが、体が思うように動かない。

 とにかく寒気が止まらない。夕方ごろから喉の違和感も増し、今は唾を飲みこむだけで痛い。


 (完全に終わったな、これ……)


 本格的に風邪が体中で猛威を振るっている。

 玲はなんとか立ち上がると、晩御飯もとらずに気合でメイクを落とし、シャワーを浴びてしまう。身体中に変な汗をかいたので一刻も早く流してしまいたかった。熱が出ているせいで、いつもは気持ちよいはずのシャワーが苦痛だ。お湯を浴びるたびにぞわぞわする。


 シャワーを浴びた後は次なる関門、髪を乾かさなければいけない。いつもはヘアオイルをつけて念入りにブローしているが、そんな余裕はなかった。明日はどうせ休みだし、とりあえず乾けばよい。

 適当に髪を乾かし終えた玲は、全ての力を使い果たし、ソファに倒れこんだ。

 猫のように体を丸めた玲は徐々にまどろんでしまい、そのままソファに沈み込むように眠ってしまった。

 

 (……!? 寝てた!)

 

 数時間後、気が付くとソファで寝落ちしていた玲は、慌てて起き上がる。途端に強烈な喉の痛みを感じて咳き込んだ。

 時計は深夜二時を指していた。お腹から空腹を訴える音が聞こえているが、今から何か食べる気も起きない。

 風邪薬を飲んで寝ようと思い、薬箱を漁るが。


 (使用期限、数年前じゃん……)


 新卒の時に念のためと買っておいた風邪薬は、ほぼ未開封のまま使用期限を超えていた。とりあえず残っていた鎮痛剤を飲んで、玲はベッドにもぐりこんだ。


***


 次の日。


 玲は自分の咳で目を覚ました。喉が腫れているのか、息が苦しい。

 昨晩、解熱作用のある鎮痛剤を飲んで寝たが意味もなく、むしろ悪化しているように感じる。


 (まあ、土日寝てれば治るか……)


 数年ぶりに風邪を引いた玲は、この時の自分の甘さを悔やむ事になる。


 二度寝しようと再び目を閉じた玲だったが、咳と寒気が止まらず、上手く寝付けずにいた。風邪薬を買いに行かなければないが、もはや起き上がるのも辛いくらいだ。


 (はあ、困ったな……)


 何か飲もうと冷蔵庫を開けるも、酒、酒、酒、つまみのチーズ。絶望的である。

 冷静に考えれば、昨日は無理せずに定時で帰って、ドラッグストアで買い出しをしておくべきだったのだ。今更後悔しても遅い。玲はチーズをひとかじりして、カルキ臭い水道水で流し込んだ。


 (これが一人暮らしの辛い所よ……)


 寒くて仕方がないので、タオルケットを被った姿で再びベッドへ戻る。もう今日は一日寝ているしかない。

 寝っ転がって何気なくスマートフォンを見ると、メッセージアプリに通知マークがついていた。


 「誰だろ……」

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